第2話

 彼女を遺して逝くのか。それだけが、気掛かりだった。

 まだ彼女には言っていない。彼女は正義の味方で、がんばって闘うタイプ。根性の使い手。自分は、崩れてしまいそうな心を必死に繋ぎ止めて日々を生きている、普通の人間。

 普通の人間、だから、だろうか。自分にしかできない仕事があると言われたとき、二つ返事で受けてしまった。

 自分は、いなくなる。消える。存在そのものが、なくなる。そういう仕事。

 もともとそういう存在が消えてしまう系のドラマやアニメが好きだったし、まるで自分が画面の中の主人公になったかのような気分だった。

 いや。

 違う。

 たぶん、ぜんぜん、違う。

 主人公だと思い込んで、本当の自分の気持ちを、押し込めているだけ。

 儚さに対する、憧れを。

 儚いものになりたかった。誰に思い出されることもなく、誰も気付かず、ただそこにあって、誰かのために存在しているもの。いや、存在していたもの。夢と幻想のなかにだけある、心の拡がり。それが欲しかった。

 彼女よりも、自分のことか。結局、彼女の隣に自分はいない。きっと彼女は、へこむだろう。かなしむだろう。

 仕方がなかった。儚いものに、寄り添うことはできない。儚さが、なくなってしまうから。

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