第13話 これにてお役御免

「それで、きゅーちゃんさんにもこうして会えたわけだし、ルドルフのことをお任せしたいと思ったんですが、大丈夫ですかね?」

「え?」

「いや、なんか他の姉達も探さなきゃいけないってルドルフは言ってたんですけど、俺がついててもどうしようもないし、あなたと二人でなら一緒に探して帰れるかなって思って……。えーと、雲の中の森に?」

「私達がトナカイであることをご存じなんですか?」

「ルドルフから聞きました」

「そうですか。それであなたは、ルドルフと私を探してくれたんですね」

「そういうわけです」

 理解が早くて助かります。チキンカレーを食べ終わり満足した様子でルドルフが口を開いた。

「きゅーちゃん、サンタね、すごーくいい人なんだよ」

「さんた?」

「この人、さんたくろすって名前なの」

「さんた、くろーす、様? えっ? もしかしてあなたは、サンタクロース様なんですか?」

「いや、ややこしい名前ですみません。三田が苗字で、名前が黒須っていうだけです。あなた方の知るサンタさんじゃないですし、俺は普通の人間です」

 きゅーちゃんさんは不思議そうに首を傾げた。

「日本のサンタクロース様じゃないんですね?」

「違います。というか、そもそも日本にサンタクロースはいません」

「そうなんですか?」

「はい。いや、多分。はい」

 いない、はずだよな? 

 俺は見たこともなければ知りもしないから、いないことにしとこう。

「でも、サンタはちょー優しいよ」と、ルドルフが言った。

「サンタパパみたいに優しいの。私がお腹空かせてたらお家に連れていってくれて、こたつっていうあったかいお布団に入れてくれて、食べ物をたくさんくれたの。とってもいい人だよ」

 なんかいろいろ誤解されそうだが大丈夫だろうか。きゅーちゃんの目が、驚愕で見開かれていく。

「いや、困ってたみたいだからつい……。変な気とかは全然ないですよ。俺、子供になんかするような趣味とかないですし、本当にただの人助けなだけで」

「ありがとうございます!」

 きゅーちゃんは俺の両手をつかんで引き寄せた。ぐっと顔を寄せられる。

 美女にこんなに至近距離で見つめられるなんて人生なんて今まであっただろうか。いや、ない。

「ルドルフのことまでそんな親身になっていただけていたなんて。私、本当にどうお礼をしたらいいのか。私はこの身一つしかありません。どうぞこの身体を好きなように使ってください」

「だから、なんでそうなるんだよ。別にいらないから」

「いらない?」

「いいって。そういうつもりでルドルフを助けたんじゃないし、きゅーちゃんさんを探してたんじゃない。俺は、ルドルフが元いた場所に帰るには、あなたに会うのが一番だと思ってたんだ。だから、あなたにルドルフのことを託したい。ルドルフを一緒に連れて帰ってください。よろしくお願いします」

 俺は手を引き離すとコップの水を飲み干した。

「ここの支払いは俺がしますから、これからのことは二人でよく話し合って決めてください。それじゃあ俺は失礼します」

 伝票をかっぱらってレジへと向かう。

「サンター」と、背後からルドルフが呼ぶ声がしたが、俺は無視して会計を済ませると店を出た。

 それから脇目も振らず自宅に向けて駆け出した。


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