トナカイじゃだめなの?
ぎんなん
第1話 美幼女を拾う
仮装して騒ぐだけの行事と化したハロウィンが終わったかと思えば、差し替えるようにやってくるのがクリスマス。『恋人たちのクリスマス』が流れはじめれば、そこはもうクリスマス。十一月がはじまったばかりなのにクリスマス。
世間の移り変わりの早さは異常だ。
いくらなんでも早くないか?
納期の調整に追われる年末感漂うからやめてほしいし、クリスマスとか、家庭も持たなければ、彼女すらいない三十八歳の俺には身に沁みるもんがあるから、本当にやめてほしい。
今日も今日とて残業で、時刻はすでに二十三時過ぎている。コンビニで夜食におでんと缶ビールを買うことにした。
「アリガトゴザイマシター。クリスマスチキンとケーキの予約はじまてます。いかがですかー?」
支払時に外国人店員のキムさんがにこやかな笑顔で言う。
一年ほど前から近所のコンビニで働きはじめたキムさんはだいぶ日本語がうまくなった。その曇りのない笑顔は仕事帰りの俺のすさんだ心を癒やしてくれる、数少ない存在だ。残念ながらキムさんは男だけど。
「いえ、結構です。遅くまでご苦労様」
「お疲れさまです。またどうぞー」
にこにこ笑顔でキムさんが言う。
クリスマスなんぞのせいで、キムさんに余計な仕事が増やされてかわいそうだ!
でも、キムさんは気にしてないらしい。次のお客さんにも同じセリフを繰り返す。
キムさん、なんて勤勉で素晴らしい店員さんなんだ。
キムさんのためなら、チキンもケーキも予約していい気がしてくる。守りたいその笑顔。
「でも、一人じゃ食い切れないしな」
コンビニを出ながら口にすると虚しさだけが残る。ついでに冷たい風が吹きつけてきて身体が震えた。
さぶい。早く帰っておでんとこたつであったまろう。
一息ついて歩き出す。
そんな俺の目に、一瞬異様なものがうつった。
コンビニの外に置いてあったゴミ箱から、普通なら目にしないものが飛び出している。それは、細い足と胴体だった。
え?
えっ!?
二度見してからのけ反った。
「なにこれ……」
胴体から上は完全にゴミ箱に突っ込まれていて見えないが、これはまさしく人間だ。それも小さな子供。
どゆこと、これ?
子供の上半身が燃えるゴミに突っ込まれている。これはなんだ。
本物か? いや、本物だったらヤバイだろ。ヤバすぎ案件。
でも、だとしたら人形?
「いやいやいやいや」
人形だとしても、あまりにも趣味が悪い。というか、こんなところにこんなリアルな人形が突っ込んであったら恐いし、事件だろ。おまわりさーん!
ガサガサガサ。
とか思ってら、二本の細い足が動いた。
「きゃー、生きてる!?」
ガサガサガサ、ゴソゴソゴソ。
二本の足は動き続け、もがき続け、やがて不穏な声が聞こえてきた。
「~~~~~~~~て、出して~~~~~。ここから、出して~~~~~」
明らかに動いてしゃべってる。生きてる。人間だ!
恐いよりも先に身体が動いていた。
小さな足をつかんでゴミ箱から引っ張り出す。両足は黒いタイツで包まれ、足には黒いショートブーツをはいている。その両足を力任せに引っ張った。
ぐいぐい引っ張ることしばし。スポンッといい音がした。
反動で尻餅をつく。ゴミが辺りに散らばった。
薄く目を開けると、俺の身体の上に、頭から白いシーツみたいなのをかぶった変なのがいた。
白いシーツの変なものは言った。
「とりっく、おあ、とりー、お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ~~~~」
「ハロウィンなら終わったぞ」
「お菓子を……、えっ? えっ? そうなの?」
声は軽やかで鈴を転がすかのようだ。
俺は起き上がり、目の前の子供がかぶる白いシーツをはいだ。
ったく、ハロウィンかぶれの悪ガキが、目の前が見えなくてゴミ箱に突っ込んだパターンか。親はどこいった。ここは大人である俺がガツンと説教せねば。
だが。
なんだこいつは。
白いシーツを引っぺがしてみると、下から現れたのは悪ガキではなかった。
いや、悪ガキなのは変わらないのだが、外見があまりにもアレで、俺はしばし息をするのを忘れた。
淡い水色の髪は二つの長い三つ編みになっていた。
ふっくらとした頬はまだ子供のそれ。ポヨポヨと柔らかそうな桃色だ。
そして何よりも印象的なのが、青色の大きな瞳だ。まつげがとんでもなく長い。鼻も唇も小さいせいで、その瞳の大きさが強調されていた。
なんだこいつ。
日本人じゃない?
いやでも日本語しゃべってたし、でも目青いし。
ハーフ? もしかしてハーフ?
なんなら髪も水色だし。なにこれ、染めてるの? 子供をこんな髪色にしちゃうなんて、親は本当になにしてるの?
虐待かしら? 通報……。
「ハロウィン、終わっちゃったの?」
べらぼうにかわいい子供はこてんと首を傾げた。
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