あおいそら
茜カナコ
第1話
空を、大きな翼で切り裂いた、あの鳥の名前は何だろう。
私はぼんやりと、鳥の居なくなった空を見上げていた。
「ねえ、ママ。 僕、大きくなったら鳥になるの」
優太の真剣な声が聞こえる。まだ馴染まない買ったばかりの制服は、ぶかぶかのくせに。
「そしたらね、ママのこともみんなのことも、助けられるし」
「え?」
私が聞き返すと優太は両手を広げて空を飛ぶポーズのまま、私を見上げた。
「僕がみんなを背中に乗せて、空を飛んで……」
歩き続ける優太の背中が小さくなる。
「あの山の向こうまでいけば、大丈夫かな」
振り返った優太は笑っているはずだ。
私は優太に言った。
「鳥になんて、ならなくていいよ。」
声が震える。
「人は、空を飛ぶために飛行機を作ったんだよ。翼が無ければ、作ればいいの。」
優太が不思議そうな顔をしているのは分かるのに、見つからなくて声が大きくなる。
「鳥になんてならなくていいの! 優太の今日が、明日に続けばそれでいいの!」
大人らしくない受け答えだって、後からなら分かるのに。
不意に、何かの影が私の上に落ちた。
空を見上げるとあの鳥が、翼を広げてゆっくりと旋回した後、遠くの方へと飛び去っていった。
私はぼんやりと、鳥の居なくなった空を見上げていた。
あおいそら 茜カナコ @akanekanako
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