第228話 始まりの町へ
「えっと、これで、積み忘れはないよな。」
宿の前、アマリーアに頼むはずだったが、同行者、メイによって用意された馬車に荷物を積み込み終わると、シグルドがそう声を上げる。
周囲にはメイの家によって手配された護衛と共に、ルイスとアイリスの姿もある。
「うん。宿にあったお土産とかはこれで全部。」
「俺らもだけど、あんちゃんたちも色々買ったんだな。」
「ええ、なかなか手に入らない物も多いですから、どうしても。」
休日を楽しんだ後は、残りの日程も狩りと訓練、最終日だけはもう一度買い物のために、半日自由時間とし、そこでもトモエとオユキは、買い物を楽しむこととなった。
まだ見ていなかった未知の反対側を確認すれば、布を取り扱っている店舗や、お酒の取り扱いなどもあったため、どうしても荷物は嵩張ることになった。
用意された馬車は、事前に荷物を伝えたために、十分な広さがあるものだったが、それでも子供たちの物も合わせれば、馬車が一杯になるほどの量だった。
「にしても、こうしてみると、俺らも結構稼いだんだよなぁ、ここで。」
「それは、本当に。なんだかんだで予備の武器も追加できたし。」
「そうだな。最初の頃は、ほんと武器一つ買うのに1年以上かかったってのに。」
「ね。それも皆で協力して、それだけかかったのに。」
そうして少年たちがワイワイと話していると、場を纏めるルイスが手を叩いて、注意を引く。
「おしゃべりはそこまでだ。移動の予定を確認するぞ。」
「ああ。でも、こっちに来た時と同じじゃないのか。」
「今回は、同行者にリース伯爵令嬢がいるからな。人数も多いし、危険は避ける。」
「あー、あっちのねーちゃんか。」
そのメイは既に馬車に乗り込んでしまってこの場にはいないが、こちらの物に比べると豪華な、家紋と思しき紋章の入った馬車も同行することになる。
本人の戦闘能力は、推して知るべしというところだが、護衛として、また始まりの町で彼女を補佐するための人員としてと、なかなか人数が膨れ上がってしまっている。
「で、だ。流石にこの人数になると、途中の村では受け入れられない。」
「あー、まぁ、なぁ。」
「となると、まぁ、食料なんかも十分な量は、当然積めないわけだ。」
「いや、俺らも結構日持ちするもの買ったから、お腹空いたっていわれりゃ、分けるぞ。」
「シグルド君。彼らは仕事として引き受けています。
本当に非常時ならば、それも選択しますが、そうでないのなら、依頼として運ぶことを頼まれた積み荷に手は出せませんよ。」
「あー、そっか。えっと、なんか悪かったな。」
トモエに窘められたシグルドが、そうルイスに謝ると、ルイスが彼の頭を乱暴にかき回しながら話を続ける。
「ま、トモエの言うように本当にどうにもならないときは、積み荷から買ってって、事もあるがな、今回はそうじゃやない。保存できるように加工した野菜なんかは積んであるから、それに加えて、肉だな。
これは道すがら、人数分確保する必要がある。」
「ってことは、魔物狩るのか。でも、そうなると危険は避けるってのと、矛盾しねーか。」
「ま、それをこれから説明するってこった。」
そうして、ルイスが日程を改めて確認し始める。
今回領都に来る時には、立ち寄らなかった村でも休む、そうなるのだと。
「全体として、移動の日程は5日ほど増える。で、これまでより早めに町や村によって、依頼人をそこに置いたうえで、狩りに出る。これまで見たいに、少し休憩ってのが減るわけだな。
移動を急ぐから、馬を休ませる時間なんかもあるが、それも最低限にするからな。」
「おー、ってことは、俺らはいよいよ移動中は馬車の中か。」
「そういうこった。町に着いてからは、まぁ狩りに出ても構わないけどな。
道中寄る先の村、その周囲にでる魔物の情報はこいつだ。」
「おう、って、多いな。ここに来る迄は、あんま代わり映えが無かったけど。」
「さっきも言ったろ、村や町に細かく寄るために、来た時と道が違うからな。
そうだな、何か所かは、ここらよりも強い魔物が出る場所もある。」
「げ。」
「何カ所か厳しそうなところがあるからな、そこは流石にお前らは村で待機だ。」
「あー。まぁ、うん、そこは任すよ。でも、だったら俺らの食事はどうしたもんか。」
「お前らくらいなら、村で頼んで問題ないからな。」
その言葉に、シグルドがあたりを見回す。
護衛まで含めてしまえば、一団はそれこそ百を超える人数になっている。
主にメイのための物ではあるが、彼らは最初同行するものがいるとトモエとオユキが使うときは、来た時と同じくらいだと、そう考えていたのかもしれないが、その数倍の人を今朝宿から出て目にしたときには、なかなか面白い反応をしていた。
「なんていうか、こう。」
「これでも少ないほうだぞ。それこそ今回はご令嬢だが、伯爵本人がとなれば、もっとだからな。」
「大変だなぁ。」
「だからこそ、俺らの仕事があるわけだからな。」
「えっと、一緒に行動するのは聞いたけど、別扱いなのか、俺ら。」
「いや、向こうから同じように扱うと言われてるからな。」
「うへー。」
堅苦しいのは嫌だと、シグルドが苦い顔を浮かべる。
「馬車も分かれていますし、休むところも同じではありませんから、そこまで心配しなくても大丈夫ですよ。
何かあった時に守られる立場、そういう事です。」
「なら、良いけど。にしても、知らない間に、大事になってたんだなぁ。」
「こればかりは、どうしようもないですから。ただ、道中の安全がました、そう喜びましょう。」
「まぁ、そうか。にしても、あのねーちゃんにも、馬車のお礼しないとなぁ。」
そういって、傭兵とはまた身形の違う、豪華な鎧を着こんだ人間が守る馬車へとシグルドが目を向ける。
「そうですね。領都では干物くらいしか見ませんでしたから、戻ったらまた魚でも取りに行きましょうか。」
「あー、そういや名物なんだっけか。でも、食い物ってどうなんだ。」
「高級品だって話だったから、喜んでくれるんじゃない。」
「そうだな、ここでも、王都でも、喜ばれる品だからな。
まぁ、お貴族様相手に、生魚をそのまま渡すのはあれだが、それこそ使用人経由で渡して、料理として出してもらえばいいからな。」
「そういや、そうだな。直接渡さなくてもいいもんな。」
そういって、シグルドが何度か頷いて見せる。
「よし、ざっくりと確認も終わったし、そろそろ出るか。」
「そういや、おっちゃんが指揮とるんだな。」
「一番古株だしな。」
「なんか、あっちの騎士様に、おっちゃんが指示するって考えると、なんか不思議なんだよなぁ。」
そういって、シグルドが視線を動かして見比べると、少年たちも同じように考えているのか、頷いている。
そこまで離れた位置にいる訳でも無い、騎士、国ではなく家に仕える者達だが、彼らはそんな憧れを多分に含んだ視線を受けて、何処か居心地が悪そうにしている。
華々しく前に立ってほしい、少年たちの目がそう訴えているのを、はっきりと感じ取っているのだろう。
「そこは適材適所ってやつだ。」
「そんなもんか。」
「そんなもんだ。あっちの騎士様達だって、間違いなく強いが、移動に関しては俺たちの方が慣れてるからな。」
「でも、行軍訓練とかするんじゃないのか。」
「行軍だ。今回は道中の護衛だからな。ま、興味があれば、仕事が終わった後にでも、話をせがんでみりゃいいさ。旅の間、その機会もあるだろ。」
そういってルイスが視線で問いかければ、相手からも頷きが返ってきて、少年達ではなく、騎士になると、そう言っていた新たに加わった子供たちが歓声を上げる。
「そっちのガキどもはいよいよ初めての移動だろうからな、話を聞く体力が残ってればいいけど。」
「ああ、それな。」
「本当。ずっと馬車の中って、何もしてないのに、なんだか疲れるんだよね。」
「慣れだ、慣れ。ほれ、そろそろ出るから、お前たちも馬車に乗りな。」
そうしてルイスに無造作に手を振られ、ぞろぞろと馬車に乗り込む。
なんだかんだと色々あった領都とも、これでひとまずお別れ。
オユキとトモエは、近いうちにまた来ることになりそうだが、始まりの町へと、この世界に来た場所へと戻るための旅が始まった。
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