第158話 ようやく工房へ
「つまり、そういう仕儀になりまして。」
狩猟者ギルドで、事前にカレンによって説明されていたようで、話し合いは問題なく進んだ。
朝、ホセが部屋を訪ねてきたのに合わせて、宿を出れば、用意された馬車の御者席にはカレンが座っていた。
少々顔色が悪く見えるのは、アマリーアの仕置によるものか。
そうして少し間を空けてのこととなったが、狩猟者ギルドに顔を出せば、後は実に順調に流れた。
「当ギルドとしては残念ですが、祝いの品にとのことですからな。そこにケチをつける物でもありませんとも。」
「申し訳ありません。私達もあまりに情勢に疎く。」
「どうしても、こういう話は大きな都市だけになりますからな。そればかりは。」
以前とは違い離れた場所の情報を瞬時に仕入れることなどできないのだ、いや、何かそういう魔術もあった気はするが、それにしても、王都と主要都市、その間に絞られるだろう。
「それで、さっそく工房に伺おうかと。」
「ええ、お預かりしている物を準備しましょう。
それと、公爵様から要望のあったものとの仕分けも終わっております。
肉はこちらの買取でよかったのですかな。」
「ええ、毛皮とシエルヴォの首、それだけで。プラドティグレに関しては事前に説明が言ってるかと思いますが、首を丸ごとと、そこから下の毛皮に分けてほしいと。」
「ええ、そのようにご用意していますとも。では、まずはこちらを。」
そう言うとフレデリックが、二枚の書類を出し、それぞれトモエとシグルドの前に置く。
シグルドはそれを受け取るとそのままアドリアーナに渡したが。
「なんだか、いつもと書式が違うんですけど。」
トモエは見ればわかったが、アドリアーナはそうもいかないようで、フレデリックが申し訳ないと一言添えてから説明を始める。
「商人ギルドへと直接売るとは言っても、やはり徴税の対象にはなるのでな。
そういった商品と、ギルドへの納品物があるときは、こういった複合書式を使うことになる。
いつもは、ギルドへの納品の時だけは、簡略したもので済ませているが、どれ。」
フレデリックは、アドリアーナに渡した書類を机に置かせると、一つ一つ項目を説明し始める。
それに少年たちがふんふんと頷いて聞く。
トモエとオユキも、自分の知識と照らし合わせ、大きな齟齬がないかだけを確認し、頷く。
「えっと、結果として、いつも通りここにあるのが、俺らがもらえる分ってことだな。」
「まぁ、それで間違いはないのだが。」
「ジーク、黙ってて。えっと、此処の特別支給金なんですけど、ここに税金がかかってないのは。」
「今回は商業ギルドからの礼金だな。それは狩猟者ギルドを本来通すものではないから、課税の対象ではない。」
「でも、そうなるとここの数字が。」
「ああ、為替、為替手形は初めてか。高額になると、効果は持ち歩くだけで大変だからな。
その金額と同じ価値がある、ギルドに持ち込めば硬貨と交換できる、そういった為替手形というものが存在する。
どうする硬貨としてそのまま渡すなら、こっちだな、此処の手数料が無くなるが。」
「えっと、持ち歩いてると目立つから危ないし、大きな買い物をするときは、相手も嫌ってことですよね、数えるのが面倒だから。」
「ああ、その理解で間違ってない。」
「じゃあ、硬貨も欲しいです。町でお買い物したりはしますから。下町では、為替使えないって、宿の人が言ってましたから。」
パウとシグルドがお金のことを丸投げするだけあって、確かにアドリアーナという少女は、こういった事柄に対する洞察力があるらしい。
フレデリックと話しながら、自分なりにかみ砕いて理解をして、きちんと要望も伝えている。
「割合はどうする。」
「どうしたらいいでしょう。こっちだと、ちょっとお店でお菓子を買うとどれくらいになりますか。」
「ああ、そうだな。落差が激しいな。まぁ、硬貨での支払いを求める店なら、高くて20ペセか。」
「じゃあ、一人500ペセくらいで。」
「それだとちと少なすぎて、手数料が変わらんぞ。」
「あ、割合なんですね。」
「いや、累進だ。ああ、それじゃわからんか、こう、段階的に何ペセまでならいくら、そう決まってる。」
「へー。それだと、おすすめは。」
「ま、率が変わる、全員で8000と少し、だな。」
それじゃ、一人あたりはと少年たちが指折り計算しだすのをトモエが手早く1600ですよと答えを告げる。
そうすれば、少年たちは嬉しそうにしながらも、何処か不安げな面持ちになる。
「持ち歩くには、多いような。」
「今持ってる武器だって、その10倍はしただろうに。」
「それは、そうなんですけど。」
あまり多くを持ち歩くと、紛失したり、取られたり、それが気になるのだろう。
「宿に置いておけばいいのですよ。普段はそこからいくらか持ち歩けば、いいだけですから。」
「あ、そうですね。そっか、シスターじゃなくて、私達が自分で保管しなきゃいけないんだ。」
「これまでの実績みりゃ、もっと稼いでそうなもんだが、そういう事か。
それでいいなら、ちょっと待ってくれ、修正する。」
そう言うとフレデリックは、また別の紙を取り出し、そこに手早く新しい数字を書き込んでいく。
「わ、凄い。計算早い。」
「こればっかりは慣れだな。毎日こんなことを30年繰り返せば、誰でも出来るようになるさ。
それこそ、そっちの商人たちだって、手慣れたもんだぞ。」
「凄いですね。」
そんな一幕をはさみながらも、どうにか狩猟者ギルドでの一連の処理が終わり、少年たちは高額の為替と、少し重さのある硬貨を手に入れて、驚きながらも、ホテルにそれらを一度おいてから、改めて工房へと向かう。
これまでに比べれば高額ではあったが、シグルドが興味を持ったため、トモエが見せた、トモエとオユキの納品額を見て、直ぐに真顔になったりと、そのようなこともあったが。
トモエとオユキにしても、想像していたよりも、毛皮の金額が、桁2つ違っていたため、確認したところ、あくまで一枚物、それが要因とのことだ。
やはり継ぎ接ぎよりも、一枚、そこに希少価値が存在するらしい。
始まりの町に比べて、施設ごとに距離があるため、一連の出来事を終えれば、既に昼が過ぎようかとそんな時間になっていた。
そんな中、ようやく目的の工房へ、いよいよ予備もなくなった武器を新調するために、当初の目的のために、訪れることができた。
「昨日もろくに体動かしてないし、今日は素振りくらいはやっときたいな。」
「一日休めば三日遅れるといいますからね。」
「その割にあんちゃんは、慌ててないよな。」
「あなた方の遅れ程度なら、どうとでもなりますし。私達は普段から訓練の意識を持っていますから。」
「教えてもらって、一カ月くらいか。それならそうなんだろうけど。
でも、あんちゃんたちも特に素振りとかしてないよな。」
「これから教えていきますけど、姿勢の制御、それだけで十分に訓練になりますから。」
少しずつ速度を落とす馬車の中で、そんな話をしていれば、馬車の動きも止まる。
そして、カレンが空けた馬車の扉から降りれば、近づくにつれて大きくなっていた金属通しを打ち合わせる音が、いよいよ大きく聞こえてくる。
「こちらですか。」
「ええ、トモエさんが特に興味を持った武器、それを作った工房がここですよ。」
「ああ、あの。」
そう、ホセに案内されるままに、工房の中へと踏み込む。
この一帯に共通しているが、何かが燃える、焦げるそんな匂いに加えて、熱気が漂って来る。
近くに炉があるのだろうか。
通りに比べて明らかに熱く感じられる店内の空気に、オユキは少し疲労を覚える。
以前は、夏と言えども、ばてたり、体力の低下を感じたりすることはあっても、ここまで露骨ではなかったはずだ、そんなことを思うが、この体躯ではしかたない、そうとも考える。
セシリアにしても、既に顔色が優れない、そんな有様ではあるのだから。
「おう、ホセ。久しぶりだな。子連れで何だ。ここは餓鬼の遊び場じゃねーぞ。」
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