第157話 ようやく一息
かなり荒くはあるが、背景の説明は終わりと、アマリーアが瓶の残りをすべて干して、話を締める。
「まぁ、事の顛末はこんなところね。
こちらからの補償としては、まぁ、金銭ね。」
「んー、なんか面倒をかけたみたいだし、お祝い事なんだろ。
公爵様へ、送りもにしてもいいぞ、毛皮。」
シグルドが彼のやさしさとしてだろうが、そういったのをトモエが窘める。
「駄目ですよ。そうすると公爵様は、貰った贈り物を、誰かに贈るとそうなってしまいます。」
「ああ、そっか。それは駄目か。でも迷惑かけたんだろ。」
「あなた達じゃなくて、勝手に騒いだ馬鹿が、だけれど。」
「それにしたって、あんたもその代わりにこうして俺らみたいなのに頭を下げてるんだろ。
俺は、人の好意を受けたらきちんとお礼は言う、それは守るんだ。」
そうシグルドがきっぱりと言い切れば、アマリーアが声をあげて笑う。
トモエがシグルドの頭をなでながら、思案顔で、代案を考え出しながら、他の子たちの意思を確認すれば、少年たちも互いに頷きあっている。
教会で、実にまっすぐに育ったらしい。
アマリーア、受ける側からすれば言い出しにくいだろう。
それではと、オユキが話を切り出す。
「実に良い心掛けです。本当に。それはとても大事な事ですから。
では、今、私達の持っているものは、売り物として扱うしかありません。
公爵様が贈り物にと、そう望まれる以上、此処はどうにもなりませんよね。」
「ああ、まぁ、それが良くないってのは分かるから。」
「では、簡単です。別に用意しましょう。贈り物を。」
「ああ、そりゃそうだ。うん、簡単だな、そういや。」
そうして頷くシグルドに、トモエが微笑む。
「武器の用意もいりますが、こちらにはまだ一月近く滞在するのです。
何もトロフィーに拘らずとも、何かこれなら良いのではないか、そう思うものを贈ればよいのですよ。」
「あー。そりゃそうだ。でも、公爵様に贈り物って、俺らが渡せるもんか。」
「そこはそれ。心強い方がそこにおられますから。」
「ええ。責任をもって、お届けさせていただきますわ。」
「そっか、じゃあ、また何かあったら頼む。」
シグルドがそう頭を下げれば、アマリーアはため息をつく。
「本当に、どうしてこうも素直ないい子がいるのに、そうではない者があれ程いるのでしょう。」
「そればかりはどうにも。カレンさんにしても、根は良い方とそう見えましたが。」
「あの子はいい子なのは間違いないのですが、少し頭が固すぎるんです。」
「ああ、それで。」
「まったく。見た目に騙されすぎです。自分の首など瞬きの間に落とせる相手かどうか、見ればわかるでしょうに。」
「あの、流石にいきなりそんなことはしませんよ。」
突然の言葉にトモエがそう口を挟めばアマリーアはそれに苦笑いを返す。
「そこで出来ないといわないのが、証明ですよ。あの子、自分では腕自慢のつもりですから。」
「いや、それはないだろ。俺より少し強いくらいか。」
シグルドがそう言えば、アマリーアはまた笑いだす。
昼間は少し緊張感のある空気を湛えていたが、根はこちらなのだろう。
カラカラと楽しそうによく笑う。
嫌みのないその笑い方は、場を明るくさせる物だった。
「見方がまだまだ甘いですね。条件にもよりますが、10回やればシグルド君で8回は勝てますよ。」
「そうか。歩き方とか、しっかりして見えたけど。」
「それでも上体がぶれていましたからね、型だけで筋力が足りていません。
構えと簡単な型稽古それを日に少し続けているだけでしょうね。
パウ君なら、相性がいいので負けることはまずありません。負けるとしたらそれは油断と慢心によるものです。」
「あー、力で押し込めば、体をすぐ崩すなら楽勝だよなぁ。」
「その、私から振ったのだけど、あまり敵としてみないであげてね。」
「すいません。習い性のようなもので。ちなみにシグルド君、アマリーエさんと、この宿の入り口にいた方はどうですか。」
トモエが謝りはするものの、笑いながら続けると、途端にシグルドが渋い顔になる。
「無理。剣に手をかけたときには殴られてるんじゃねーかな。
あと、あの執事さん。アレが一番やばい気がする。」
「あら、私はそんなに怖くないですよ。」
「いや、ない。こっちと話してる時だって、ずっと体の動きが芯通ってるみたいだしな。」
「えーっと、たぶん逃げるのも無理かな。うん。リアは遠くからなら。」
「無理よ。あたる気がしないもの。」
彼らも少しづつ見る目が養われているようで何より、そうオユキとトモエで頷く。
「でもあれだな。教えてもらった事を意識してれば、確かになんとなくわかるもんなんだなぁ。」
「魔物相手だと、よくわからないから困るよね。」
「そればかりは、申し訳ありません。」
「あ、トモエさんを責めるつもりじゃないの。それに自分より強い人が警戒してれば無理って分かるから。」
「まぁ、それしかないよな。毒持ってるかどうかなんて、ギルドの資料見なきゃわかんないし。」
そうして少年たちがあれこれと話し出すのをオユキは横目で見て、アマリーアに話しかける。
「良い子たちでしょう。」
「ええ、本当に。繰り返すけど厳しすぎない。」
「この子たちが望んだことですから。」
そうして二人で笑いあうと、横合いからホセが思い付きのように口にする。
「ところで、私の腕は如何でしょう。」
「アナさんとやれば、一度も勝てないかと。」
オユキがばっさりと切れば、ホセが悲しげな顔で頷く。
「あなたも、外に出るのだから自分の身を守れるくらいには、力を付けなさいというのに。」
「護衛の方が戦わせてはくれませんから。」
「まぁ、そうでしょうね。訓練するにも、すでに仕事があるなら難しいでしょうし。」
「そうかもしれないけれど、せめて魔術くらいはどうにか覚えたほうが良いわよ。」
「マナの感知もままなりませんから。」
「人は不便ね。」
アマリーアがそう呟くが、それにはオユキとホセも苦笑いで返すしかない。
セシリアにしてもそうだが、人以外の種族、その半数ほどは生まれながらにマナに親しんでいるのだから。
「アマリーアさんは、花精でよかったのでしょうか。」
「ええ。植物、森、木々、それにまつわるマナであれば、物心がつくときには。
そういうあなたも、何か混じっているみたいだけれど。
異邦の方は、色々だから、分かり難いわ。」
「ああ、やはりそうですか。私も、自分の事ではありますが、分からないのですよね。」
「異邦では、親から聞かされないの。」
「あちらには人しかいませんから。それこそ創作の物語や、神話以外に。」
「本当に、まったく違うのね。何か面白い話があったりはするのかしら。」
「さて、何を楽しいと思われるかは分かりませんが。」
オユキはそういってアマリーアの様子を見ると、彼女自身漠然とした希望でしかなく、直ぐには思いつかないようだ。
その様子に、ホセが先に口を開く。
「トモエさんとオユキさんは、わりとこちらの料理の流れに詳しいようでしたが。」
「ええ、向こうでは一般的な物でしたから。私たちの暮らしていた国の物ではありませんが。」
「ほう。それでは、オユキさんの出身ではどのような。」
「海産物が有名でしたので、それが出る形ですね。後はお酒と合わせるか、お茶と合わせるかによって組み立てが少し異なりましたね。」
「あら、それは素敵ね。お茶の席に合うものはどの様な物があったのかしら。」
「こちらのお茶とは違って、茶葉を発酵させないものが主でしたからね。
そのあたりから、差が大きいですね。」
そうして食事の話で盛り上がっていると、その話題に少年たちも合流する。
「へー。そういや、前にカングレホ取った時も、変わった料理の仕方してたよな。」
「汁物、ポトフやスープですね、それもありますが、私達はカングレホは蒸すことも多いですから。」
「特にあの種類、いえ、こちらに他の種類がいるかは分かりませんが、身に水分が多いと、煮汁に旨味が流れすぎて、身の旨味が損なわれますから。」
「トモエさん、料理も詳しい者ね。オユキちゃんはあんまりだけど。」
「その、やってみたいとは考えていますよ。ただ、台所がありませんから。」
「あー。教会に来たら、教えてあげるよ。ナイフの扱いはすぐでしょ。」
「食材を切るのに、技を使いたくはありませんね。」
そうして、暫くまた和気あいあいと話して、この日はゆっくりと終わっていった。
また、明日の朝、ホセと共に狩猟者ギルドへ向かうと約束をして。
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