第140話 少年たちも交えて
「そうですな。正直に申し上げれば、氾濫の物に比べれば。」
「やはり、そうなりますか。」
「いえ、言葉が悪かったかもしれませんな。勿論、ただ鉄を使って作るよりは良いものになるでしょう。
しかし、比べる対象が、もっと良いものを既にお持ちですからな。
これを超えるとなれば、それこそ中型種以上の魔物から得た物になるでしょうな。」
言われた言葉にトモエが考えるそぶりを見せる。
その間にと、オユキは少年たちの方へも水を向ける。
「こちらの子たちは、グレイハウンドを使って、新しいものをと。
まだまだ途上ですが、今の武器ではやはり長く使えませんから。」
「そうであれば、十分でしょうな。ふむ、今使っているものを見せていただいても。」
「あ、ああ。」
シグルドが戸惑いながら、剣を机の上に置けば、フレデリックがそれを持ち上げると、直ぐに眉を顰める。
「最低限といったところですな。確かにこれであれば、こちらで用意したほうが良いでしょう。
かなり使い込んでいるようですが。」
「いや、半月くらいだぞ、それ。」
「ほう。日にどれだけ魔物を狩っているのかね。」
「丸兎、午前中に5匹狩ったら、後は素振りだな。」
「無茶な使い方をする。」
フレデリックはそういうと、剣を机に戻し、シグルドの方へと押す。
一方言われたシグルドはよくわかっていないようで、首をかしげている。
「登録したての狩猟者が使うような武器だ、一人当たり、二日に1匹狩れればいいほうだからな。相応の怪我をしたうえで。まぁ、だいたいわかった。そうであるなら、グレイハウンドも悪くないだろう。
それでも二月持てばいいほうかもしれないが。」
「そんなもんなのか。長いこと使える武器ってないのか。」
「手入れをすれば、としか言えんな。領都なら、まぁ半年は持たせられるだろうが、始まりの町だと、どうしてもな。それに向こうから取り寄せれば、高くつくぞ。」
「なんか、町からどんどん狩猟者が出ていく理由が、わかって来たなぁ。」
シグルドがそうぼやくと、耳が痛いのだろう、ギルドの職員は苦い顔をして、頭を掻いたりため息をついたりと、シグルドの予想が正しいと、全身で肯定する。
「言って言い事と、悪いことがあるでしょ。」
「いや、事実だろ。死ぬか、強くなったら町から離れるかだし。」
「もう。その、すみません。悪気はないんです。」
「分かるとも。それに、我々も頭を痛めていてな。ここ、領都にしても、いつく狩猟者はやはり多くない。」
「こんなに、大きな町でも、ですか。」
「ああ。いや、すまない、この話はまた別の機会にしよう。今はトロフィーだ。」
「武器にできるなら、武器にしたい。今は予備も痛んでるからな。
それと、毛皮は防具になるけど、暑いからやめとけって。」
シグルドがそう言うと、素材を管理しているフランシスが頷く。
「ま、毛皮だからな。冬ならまだしも、これから夏だ。きついぞ。」
「そっか、なら買い取ってくれるか。いや、ホセのおっさんが買うのか。」
「直接交渉したいなら、商人ギルドに登録がいるぞ。」
「それは、面倒だな。」
「ま、こっちで代理で話すくらいは構わない、ホセだったか、その商人を優先すればいいのか。」
「ああ、送ってくれたし、荷物を運んでくれたからな。」
「分かった、ではそのようにしよう。頭部はどうしたい。」
フレデリックがそう約束すると、フランシスが手元の紙に今の内容だろう、それを書きつける。
そうしながら、フランシスはシグルドにさらに話しかける。
「骨は、武器だな。こっちは置いておくとして、他の素材はどうする。
一応、グレイハウンドの頭部から、少量の肉や眼球、脳に牙、いろいろ他にもとれるぞ。」
「んー、そん中で武器に使えるのは。」
「牙だけだな。」
「じゃ、牙以外はいいや。なぁ、それ売って、武器作るのに足りそうか。」
そう、シグルドが聞けば、会計周りを担当しているアーノルドが答える。
「状態のいい毛皮もありますし、持ち込んでいただいた他の魔石もありますからね。
20くらいであれば、素材の持ち込みが無くても、買えますよ。」
「そんなにか。」
「トロフィーですから。あまり過小評価しては神々にも失礼ですよ。」
「いや、そんなつもりじゃ。」
揶揄われて慌てるシグルドの肩を軽くたたいて、トモエが代わりに話始める。
「そちらも、持ち込む先の工房が決まるまで、預かって頂く事は。」
「ええ、もちろん可能ですとも。工房に心当たりは。」
「こちらに来る前に、いくつか見本を見させていただきましたので、まずはそこで話をしてみようかと。」
「分かりました。運ぶ時は必要でしたら内からも人を出しますので。」
「ええ、恐らくお願いすることになるかと思います。
それと、私達の分ですが。武器として物足りないのであれば、お任せしても。
この子たちと同じように、骨を折ってくださったホセさんを優先していただければと思いますが。」
そうトモエが言うと、ギルドの3人が喜色を浮かべて、もちろんですと異口同音に言う。
それで頷いて、話を終わりにするかと思ったが、そこでトモエがふと思い出したように話始める。
「いえ、全てではなく、その。」
切り出しにくそうにしているその様子に、ギルドの面々が訝しげな表情を浮かべるが、オユキにはトモエがなにを言おうとしたのかが分かったため、代わりに口に出す。
「プラドティグレの肉は、美味しいものですか。」
「ああ、成程。そちらも気になるでしょうね。ただ。」
フレデリックが渋い顔をすると、フランシスが引き継ぐ。
「匂いがきつくて、筋張っている。好きというものは聞いたことが無いな。」
その言葉に、トモエがわずかに肩を落とす。
蟹の時にも珍しく食欲を見せたが、思えば旅行に行ったときなどは土地のものを楽しみにしていたはずだ。
ならば、そういった物に楽しみを見出すのも仕方ないだろう。
「では、全てお任せしますね。その、お仕事中で申し訳ないのですが、私達は領都が初めてですから。」
「ああ、ならば、そうだな。領都は畜産が盛んでな、西部には多くの家畜がいるし、田畑もある。」
「畑だけでなく、田もあるのですか。」
「うむ、豚を使ったパエジャなどは、我々にとっては家庭料理だが、旅人は喜ぶもののだな。
後は、エールに葡萄酒、まぁ、商人のほうが詳しかろうが、色々ある。」
「それは、楽しみですね。」
「子供たち向けにも、葡萄酒ではなく、葡萄の果汁を絞っただけのものもあるし、柑橘の類もある。
よく狩り、よく食べ、よく休んでくれ。」
その言葉に、少年たちもそわそわとし始める。
旅の間は、寄った町で簡単な食事はしたが、そもそも始まりの町程大きい町でもなく、宿もないため、町中で野宿という、変わった経験をすることにもなった。
宿があったとしても、急な団体に対応しきれるものではなく、変わり映えのしない食事をして終わりと、そのような物だった。そもそもギルドのない街ばかりだったこともある。
河沿いの町のように、名物があれば違ったのだろうが。
「ま、美食も旅の目的の一つではあるからな。
さて、では話はここまでとしたいのだが、もう少し待っていてくれ。
品が品だからな、預かり証を出す。フランシス。」
「ああ、ついて来てくれ。改めて納品物の確認と、預かり証の発行をするからな。」
そういうフランシスに、トモエを先頭についていき、ギルドの一階、そこに並べられたものを改めて確認し、納品する。
道すがら倒した魔物の収集物については、個別に確認するのも面倒だと、人数で割ってもらえるよう頼めば、魔石や領都が近くなり、痛まないだろうと判断できた肉を始め、ごく少量手に入れた魔物の一部については先に支払いを行って貰えることとなった。
旅の中、毎日数時間とはいえため込んだそれらは、相応の、少年たちが顔を青くするほどの額になった。
「狩猟者って、本当に儲かるんだな。」
一人当たり5千ペセほどになった、それを持ち、そんなことを呟くシグルドにオユキがそっと声をかける。
「ですが、その額ではいい武器一本買えないんですよ。」
「あー。」
「んー、駄目にした武器の数を考えると、損、なのかな。」
「得はしていますよ。安い武器なら十分に。ただ、次の道具、より良いものを準備する、そう考えると、十分な金額ではない、そういう事ですね。」
「リア。任せる。」
そういってパウが受け取った金銭を入れた袋を、アドリアーナに渡す。
「ああ、俺もそうするかな。」
「自分のお金くらい、自分で管理しなさいよ。」
「計算って、苦手なんだよ。リア、得意だろ。」
そういって、ワイワイと槍折をする少年たちの声を背に、オユキとトモエは、受付からホセが用意した宿の場所を聞きだす。
今夜の食事は、久しぶりに楽しくなりそうだと、そんなことを考えながら。
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