第134話 旅路
旅路は非常に順調に進んだ。
そもそもが過剰戦力なのだ。
かなり速い速度で荷馬車が進むにもかかわらず、傭兵達は雑談をしながら当たり前のようについてくる。
「いや、おっちゃんたち、スゲーな。」
「ま、月の半分は、こんな感じだからな。」
荷馬車の中に、交代で護衛として傭兵の中から二人が常に乗っている。
周囲をこれだけ囲っているのに、そうシグルドが言えば、出来る備えはすべてやるものだと、諭される。
「最初の町までは、このペースだと、どの程度でしょう。
以前は、私たちの訓練も含めて、二日を使いましたが。」
「間で休憩をはさんで、日が沈む前には着くか。
流石に、馬を休ませなきゃならんしな。」
「成程。残りの町も、同じような間隔で。」
「ああ。そのあたりは、最初に計画されているからな。それぞれ徐々に広げていって、最終的には、大きな一つの町になるように配置されてるらしい。
それなら、ここら一体、全て町の中と、そうなりそうなもんだが、なんだったか、拡張する方向が決まってるんだったかな。」
そう言うと、傭兵の男が地図を広げて指で示す。
「こちらの地図は見ても分からないですね。」
「ま、大雑把な町の位置と主要な道くらいしか書いてないからな。土地勘が無きゃわからんさ。
方向は、世界樹を見れば間違えることもない。
ここが出発した、町。それからこっちが今日の目的地だ。」
そういって傭兵が場所を示すが、地図記号など書かれているわけはないし、もちろん航空写真付きで出来ているようなものでもない。
神の上に、バツ印のついた場所がいくつもあり、そのそばに名前が書かれている。
そして、道なのだろう。線がところどころ蛇行しながら印を繋ぐように書かれているだけだ。
「領都って、遠いんだな。」
「王都はもっと遠いぞ。
で、だ。後は休憩中の話だな。魔物を狩りたいって話だったが。」
「流石に、領都までずっとこれでは。」
「ま、そうだな。ギルドで魔物の確認はしてきてるのか。」
「一通りは。最も危険なもので、シエルヴォであっていますか。」
「ああ。とはいっても、町から離れてるせいで、それなりに数が多い。
灰兎も、10単位で群れてるからな。」
傭兵の言葉に、少年たちの顔色が変わる。
「流石に無理はしませんよ。危なければ、それこそ体を動かす程度、こちらで打ち合いでもしていますから。」
「いい心掛けだ。」
「そういえば、武器の作成ですが、どの程度かかる物でしょう。
皆さん、一月ほど領都に留まれば、十分と、そう考えておられるようですが。」
「正直、素材によりけりだ。ま、今回はそこまで難度の高い素材でも、馴染みのない物でもないからな。
最初に要望通りに拵えるのに、1週ほど。予備はそれぞれ2,3日程度じゃないか。」
傭兵が、指を折る仕草を見せながら、そう応える。
最初が長いのは、調整を入れることを考えてだろう。
この男も、武器を頼みなれているだろうから。
「その、他の方の仕事があったりは。」
「そうそう特注の依頼は無いとは思うが、それこそ現地に行かなきゃわからん。」
「それもそうですね。」
「そもそも、武器自体は、どんなのにするのか決めてるのか。」
「案は、あったのですが、少々考え直しているところです。」
そう言うと、トモエは先を進んでいるだろう、積み荷の乗った荷馬車の方へと視線を向ける。
荷物を積む前に確認した際、その重さに驚いたのだ。
手に馴染んでいたものを用意すれば、むしろ重さに馴染むのに時間がかかるだろう。
「重さが、かなりあるようなので。」
「ああ。鉄より重いからな。混ぜるとさらに重くなるし。」
傭兵の言葉は、不思議な物であった。
「そうなんですか。」
「ああ、実際の重さは、向こうに行って確認すりゃいいが、倍以上になるぞ、今の。」
「それは、困りましたね。」
「ま、その分鍛えりゃいいだけでもあるんだがな。」
「正論ですね。」
そうして暫く、馬車の中で雑談をしていれば、揺れが収まってくる。
布をめくって、外を見れば、草原の中、草がはげ、土が露出した空間が広がっている場所が目に入る。
ここで、一度休憩と、そうなるようだ。
町からはかなり離れているのか、あの高い壁も、周囲に比べるものが無いからか、低く見える。
「それにしても、ここまで森が続いているんですね。」
「この森を突っ切れば、王都までは近いがな。ま、それができればの話だが。」
「森を拓いたりは。」
「切り倒しても1週間で戻る木だぞ。道の維持ができやしねーよ。
それに、奥に行けば、かなり魔物も強くなるからな。」
「相変わらず、不思議ですね。」
「えらい学者が頭を寄せて、話し合ってるらしいがなぁ。結論が出たとは聞かないな。」
そんな話をしている間に、他の傭兵達が周囲に広く陣取り、警戒をするものと、休憩するものに別れている。
人数が出発時より少ないのは、夜荷物の見張りをするための人員が、もう一台ある空の馬車で既に休んでいるからだろう。
「ま、このあたりなら、灰兎とグレイハウンドが少し出るくらいだ。
お前らでも大丈夫だろうよ。」
「分かりました、少し体を動かしましょうか。
休憩は、どれくらい。」
「2時間ほどだな。馬の世話が終わるのに、それくらいかかる。」
それに頷くと、少し遠くに姿の見える灰兎へと一団で近づいていく。
毎度の事ではあるが、最初に戦闘を始めたのはシグルドであった。
河沿いの町ですでに戦ったこともあり、実に危なげなく討伐する。
「おし。」
そういって、直ぐに収集品を拾い上げたシグルドが戻ってくると、トモエに話しかける。
「なぁ。」
「どうかしましたか。」
「なんか、手ごたえがおかしくって。」
そういって、武器を持ったまま首をかしげるシグルドから、トモエが剣を受け取ると数回振って、頭を振る。
「まずいですね、柄が痛んでます。」
「え。」
「いえ、扱いがまずいという事ではないでしょう。寿命ですね。」
「まじか。」
トモエから返された剣を見て、シグルドが茫然と呟く。
その様子に傭兵の男が、横から手を伸ばして、それを取り上げる。
「刃も痩せて来てるし、まぁ、変え時だな。ちょっと待ってろ。」
そう言うと、男は慣れた手つきで、腰から取り出した道具で鍔を外し、持ち手に巻かれた皮を取る。
「ほれ、ここだな。どうしてもだめになるときはここから罅が入る。」
「まじか。手入れも、わざわざ外してやってなかったからな。」
「いや、これは素人が直せるもんでもないからな。こうなったらもう鋳つぶすしかない。」
「タイミングが悪いな。」
「長く付き合ってりゃ、そろそろかってのはわかってくるしな。
後は時間があるときに、こうやってばらして確認するしかない。」
そう言うと、男がシグルドに元に戻す方法と分解、それを教え始める。
他の者も興味があるのか、次の魔物を探さず、隣に座り込んで、言われるがままに、自分の武器を確認している。
それも大事な事ではあるが、そう思いながらオユキとトモエであたりを警戒しつつ、近寄ってくる灰兎やグレイハウンドを片付けていく。
「武器を作っても、手入れに限界があると考えると、なかなか厄介ですね。」
「そればかりは、どうにもなりませんからね。
状況によって使い分けるしかないでしょう。」
「昔は、自分の部屋に刀を飾ることを楽しみとしていましたが、借りている部屋が武器で埋まるのは。」
「職業柄、仕方がないでしょうね。」
「あの町にも愛着はありますが、そうですね、見て回りながら、良い場所も見つけていきましょうか。
それにしても、成程。」
二人で話しながら交互に魔物を倒していると、トモエがオユキの動きを見ながら数度頷く。
「分かりますか。」
「ええ。それにしても、舞の動きは武器を持てば、などと聞いたことがありますが。
ああ、軸がずれてますよ。」
「回る動きが多いので、どうしてもぶれますね。軸をずらしたり、虚の多い動きになりますが、トモエさん相手ではあまり効果がなさそうですね。」
そう言えば、トモエも笑いながらオユキに応える。
「私がオユキさんを見失うことはありませんよ。」
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