第94話 仮登録証卒業

そうして、魔物の痕跡を拾い集めることに一日を費やし、その帰りに、狩猟者ギルドで明日改めて来てくれと、声をかけられたため、二人で、狩猟者ギルドを翌日尋ねると、さっそくミリアムに声をかけられる。


「おはようございます。トモエさん、オユキさん。」

「おはようございます。昨日用件は伺いませんでしたが。」

「いくつかありますからね、順に行きましょうか。」


そう言うとミリアムに連れられて、空いている受付、その一角へと先に座っていると、あれこれと乗ったトレーをもってミリアムが対面に座る。


「はい。まずはこちらですね。本登録証が支給されましたので、確認してください。」


そういってミリアムが、金属製のプレート、ドッグタグそう呼べばしっくりするものを二枚、オユキとトモエの前にそれぞれ置く。

言われたそれを手に取り眺めると、非常に簡素に、登録年月日、名前、登録した町、その名前が彫られている。

数日かかると言われてはいたが、随分と都合のいいタイミングだと、そう考えずにはいられないが、仮とそれ以上、その間に判断基準が存在するのかもしれない、そんなことをオユキはぼんやりと考えながら、受け取る。


「お名前に間違いなどはありませんか。」

「はい。大丈夫です。こちら、万一紛失などした場合は。」

「狩猟者ギルドにお問い合わせください。再発行には手数料がかかりますが。」

「分かりました。他に身分証もないのに、出来る物なのですね。」

「登録した町であれば、職員が覚えていますし。そうでない場合は、神の判断を仰ぎますから。」


その言葉にトモエは苦笑いをする。

実在し、その力を振るえる。それだけで随分と簡略化できることがあるものだ。


「それと、次はこちらですね。」


そういってミリアムが、別の用紙、査定表だろう、それを差し出してくる。

そこには、これまでと二つほど桁の違う金額が書かれて、並んでいる。


「武器にすると、そんな話をしていた部分も、値がついているのですね。」

「決まりのようなものですから。部位ごとに分けて、今は保管しています。」

「それにしても、金額が、すごいですね。」

「希少価値が、違いすぎますからね。魔物を討伐すれば、必ず残るものと、年に1回も出てこない物。

 金額は、言葉を選ばなければ、言い値になりますからね。」


欲しがる方も多いですから、そういってミリアムは笑う。

その様子と、書かれた金額に二人とも不満はもっていないが、気になることがあり、トモエが先に尋ねる。


「その。少し預かっていただくことはできますか。肉はその値段で大丈夫ですから。」

「勿論、大丈夫ですよ。預かり証だけ発行しますね。」

「助かります。少し、領都でしたか、そちらの事を調べてから判断したいかと。」

「ああ、そうですよね。どうしましょう、商人ギルドへの紹介状などはいりますか。」

「頂けるのでしたら、是非。」


そう言うと、ミリアムは他の職員に声をかけてから、彼女も紙を一枚取り出すと、そこに肉以外の部位と金額を書き込んでから、こちらに差し出してくる。

どうやらこれが預かり証という事らしい。

それを確認して、サインをすると、書類の番号と同じ数字が刻印された木札を渡される。


「それでは、どうするか決まったら、あちら、報酬の受け取りカウンターでこちらを見せてくださいね。」

「お手間をかけます。それと、武器にするのに余ったり、不要と分かる量については、こちらに販売させていただければと考えているのですが。」

「まぁ、ありがとうございます。ただ、どちらは急がないほうがいいかもしれません。」

「どういう事でしょう。」


トモエがミリアムの言葉に首をかしげると、ミリアムは難しい顔で話し出す。


「私たちはあくまで、魔物の収集品の鑑定が主体ですから。

 武器や防具に使う量の判断はつきますが、それに向いた部分などは分かりませんので。

 必要な量は、想像がつきますが、かといって武器にいい部分とそれ以外を分けるのは、私達では難しいですから。

 必要な部分を先に取ってもらって、残りを頂くほうがいいかと思いますね。」

「そういうものですか。」

「そういうものですね。目利きに自信はありますが、では何に、どう使うのが良いか、それはまた別の話ですから。」


言われた言葉に、二人も納得をするしかない。


「それでは、商人ギルドでもお話を聞いてみますね。

 それと、領都までは7日から10日程と聞いていますが。」

「そうですね。お二人では荷物を運びながら、というのは難しいでしょうし、傭兵に頼むのがいいでしょうね。

 もう少し待てば、魚の卸もありますから、時期が合うと思いますよ。」

「分かりました、少しお話をいろいろな方から聞いて、予定を立ててみたいと思います。」

「はい。それがいいでしょうね。

 それと、町を出る日取りが決まったら、教えてくださいね。

 ギルド員の動向は、こちらでも把握しなければいけませんから。」


その言葉に、分かりましたと答えると、ミリアムは、それとこれを、そういいながらまた別の書類を取り出す。

そこには、単純に単価と日数が書かれた査定がある。

書類の頭には、氾濫対策への協力費、とだけ書かれている。

恐らく、これが氾濫の際、狩猟者を拘束することに対しての補償金なのだろう。


「ああ、こちらが以前伺っていた。」

「はい。そうですね。働きに応じてと、そういうわけにもいかないので、一律という形で申し訳ありませんが。」

「いえ、それこそ先達の方と、戦果を比べるべくもないですから、異存はありません。

 武器の購入と合わせて考えれば、十分すぎるほどかと。」


そこには、今の宿に一月過ごしても余るほどの金額が、合計として記されている。

改めて急場の武器を用意することを考えれば、確かに少ないと、そう感じる向きもあるかもしれないが。


「はい、それではこれで終わりですね。」

「ありがとうございます。それと、その。」


作業が終わり、書類を確認しながら、席を立とうとしたミリアムをトモエが呼び止める。


「はい、何でしょう。」

「いえ、美味しい魚と、聞いていますが。取るときに何かあったりしますか。」

「ああ、お二人も気になりますよね。少し待っていてくださいね。」


そういったミリアムは、纏めた書類を裏手に運んで、少しすると、数枚の紙と、いくつかの物を手に戻ってくる。


「はい、お待たせしました。

 こちらが、河の周囲にいる魔物と、釣りの道具ですね。

 お二人は、釣りの経験は。」

「いえ、ありませんね。」

「成程。ミズキリさんは得意と伺っていますので、細かい話は彼に聞くのが良いかもしれません。

 魔物に関しては、丸兎、他にはプラドハルコンが魚を狙って増えます。

 町の周りにいないものとしては、灰兎とカングレホ。河に入ると、カマロン、ピラーニャ等がいますね。」

「ありがとうございます、少し確認させていただきますね。」

「はい、どうぞ。一応初心者の方は、河からある程度離れた場所で釣りをするのをお勧めしますね。

 水中での戦闘というのは慣れが要りますから。」


二人で、ミリアムからいくつかの注意事項を聞きながら、魔物の情報に目を通す。

特にトモエが興味を示したのは、カングレホに関してだった。

元は大きな、それこそ人の下半身程ある蟹だが、食用に適しているかどうか、可食部が落ちるのか、資料に書かれていなかったので、ミリアムに改めて尋ねている。


「トモエさん、蟹がお好きでしたか。」


過去を振り返っても、そこまで熱心と、そういうわけでもなかったようにオユキは感じてしまうが、冬には必ず鍋の具として選んでいた、その程度だろうか。

いや、折に触れて、使われていたかもしれない。

思えば何くれとなく、蟹のほぐし身を混ぜ込んだコロッケであったり、サラダであったりと、食卓に並んでいたようにも思う。


「はい、その。食欲で狩るものを選ぶのも、どうかとは思いますが。

 やはり食べられるなら、そう考えるほどには。」

「いえいえ、好まれる方も多いですからね。持ち帰っていただければ、うちも嬉しいですよ。」


そうして、他にも河の周辺にはカマロンという海老のような魔物だけでなく、運が良ければランゴスタと呼ばれるロブスターの魔物も取れるのだと、そんな話を聞いて喜色を浮かべるトモエを、オユキは楽しく見守った。

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