第64話 再び診療所へ
門番への説明をイマノルが引き取り、後程改めて傭兵ギルドに彼を尋ねると、そう約束したうえで、それぞれにれ別れる。
少年たちの引率は、トラノスケが引き受けてくれるようで、残った四人で、治療先へと向かう。
オユキとトモエが、マルコの診療所へ向かうといえば、二人もよく知った場所のようで、四人で連れ立って、そちらまで歩くことになった。
ただ、一目で外傷は分からないカナリアも、まだ体調がすぐれないようで、トモエが肩を貸しながら、移動する。
「その、失礼ですが、カナリアさんは、見た目よりもずいぶんと、軽く感じますが。」
「ああ、その、これでは分かり難いかもしれませんが、翼人種ですので。」
長い、全身を覆うローブを身に着けるカナリアが、そう話す。
「私は、飛べるほどではありませんが、飛べる方もいます。
そのために、私達は、見た目に比べて、かなり軽いですね。」
反面、脆いと、そういった欠点もあるのですが。
そう、苦笑いする相手に、トモエが心配げに声をかける。
「成程、失礼しました。となると、何処か骨折を?」
「はい、恐らく、肋骨と、それから翼をやられました。」
そうって、乾いた笑い声をあげる。
流石に、そのあたりはオユキ達の手持ちの薬ではどうにもならなかっただろう。
「まぁ、しばらくは休んでおきな。
まったく、数日ぶりに戻ってきたっていうのに、いきなり変異種に出くわすだなんてね。」
そういって、イリアも自身の包帯がまかれた肩を軽くさすっている。
「一応、昨日から、ですか。溢れの可能性がある、そういう話になっています。」
「そりゃ、ついてないね。
まったく、厄介なタイミングで移動する羽目になったね。」
イリアはそんなことを言いながら、ため息をつく。
そして、改めて、オユキとトラノスケに頭を下げ、礼を告げる。
「助かったよ。薬もそうだし、偶然いてくれたことも。
手持ちの荷物は全部放ってきたから、処置ができなければ、もっと血を流して、今みたいにはいられなかっただろうさ。」
「いえ、偶然の賜物です。」
「まぁ、それもそうだが、それでも感謝受け取ってくれ。
それと、あの薬、マルコのところのだろ。使った分は全部買って返すから。」
「私も使っていますし、そこまで気にして頂かなくとも。」
「なに、命に比べれば、安いもんさ。ああ、後はあんたの短剣もだな。
あまり使っちゃいないようだが、まぁ、予備の武器はあるに越したことはないからね。
新品じゃなくて、おさがりでもよければ、直ぐに渡せるのがあるけど。」
「頂けるのでしたら、それで構いませんよ。
今後も長柄を主に使うつもりではいますから。」
そう言うと、イリアは改めてオユキを上から下まで見て、頷く。
「まぁ、その体格なら、そうだね。短弓も悪くはないと思うけど。」
その言葉に、オユキは疑問を覚えるが、そもそもゲームの時も弓で大型種に致命的な傷を与えるものがいたなと、そう思い出す。
「これまで扱ったことが無いので。それに、矢を持ち歩くのも、かさばりますから。」
「まぁ、それは避けられないからね。
マルコ、いるかい。」
そんな話をしながら歩いていれば、マルコの診療所へと、たどり着く。
イリアは、ドアをあけ放ちながら、そういってずかずかと上がり込む。
「お静かにお願いしますね。他の患者さんがいる時だって、あるんですから。
おや、結構深い傷ですね。そっちで座って待っていてください。」
いうなり、マルコはさっさと店の裏手へと入っていく。
遅れて入ってきた、オユキ達は、一目見て、それも簡単にとはいえ治療され、包帯のまかれた患部を見ただけで、翼状態が分かるものだと感心する。
そして、いくつかある椅子に座り、オユキとイリアは、それぞれ巻いていた包帯を外す。
イリアのほうは、かなり傷が深いようで、未だに包帯を解けば、血が流れだす。
そんな状態で、よくあれだけ戦えたものだと、感心しながら、オユキは見るが、オユキのほうも、引っかかっただけ、そう思ってはいたが、それでは済まないほどには深い傷のようで、まだ血が滲んでいる。
「痛くはありませんか。」
トモエが、傷のある右腕を取りながら、そう聞いてくるのに対し、オユキは殊更気軽に応える。
「ええ。正直痛みの程度から言えば、あまりに痛みがありません。
違う意味で、不安になりますね。」
「ああ、うちの薬を使ったのでしょう。
狩猟者の方に向けた物ですからね、痛み止めに近い成分も入っていますから。
治療したはいいけど、戦えない、それでは困るでしょう。」
あまり褒められたことではありませんが、そういいながら手に真新しい包帯、厚手の布、いくつかの焼き物らしい陽気、そういった物をもって、マルコが裏手から戻るなり、そう声をかける。
「イリアさんが、先ですね。次にオユキさん、カナリアさんの順で見ていきます。
カナリアさんは、肋骨が3本、翼の尺骨、それと大腿骨の骨折、後は切り傷もいくつかですね。
骨折は、うちではすぐに直せませんので、後程ご自身でお願いしますね。
トモエさんも、右手首を痛めていますので、固定だけはしておきますね。」
そう、マルコは全員を一瞥すると、そう、次々に口にする。
オユキは、トモエの手首に視線を送りながら、マルコへ声をかける。
「見ただけで、よくお分かりですね。」
「医療を司る神、蛇神様の賜物です。その、熱心な信徒というわけではないので、恐縮ではありますが。」
そう言いながらも、早速とばかりに、イリアの患部に水薬をふりかけ、違う水薬を含ませた布に、軟膏を塗り、それを巻いていく。
「それだけ、マルコさんの技を修める姿勢を、評価してくださったのでしょう。
奇跡を願った私は、与えられましたが、目を頂くことはありませんでしたから。」
「奇跡を願う、その前にできることがあるのではないかと、意固地になっていただけなんですがね。
はい、少なくとも、二日は安静にしてください。替えの物も一式用意しますね。」
何処か照れくさそうにマルコがそう言いながら、イリアへの処置を終える。
イリアは、それを上から軽く触り、軽く動かし試した後に、お礼を言いながらマルコに要望を伝える。
「ああ。分かった。ありがとな。それと、オユキとトモエ、二人の薬は私らが使っちまった。
私が払うから、代わりを出してやってくれ。」
「ほとんど同時に来たかと思えば、そういう事ですか。何かありましたか。」
「ああ、今日でほぼ確定だろう。溢れが近々起こりそうだ。」
イリアの言葉にマルコは、息を呑む。
だが、続く言葉は、らしいと、そう呼んでもいいものだろう。
「成程。採取依頼はまだ出せそうですか。薬の準備がありますから。」
「どうだろうな。私じゃ分からない。ギルドに聞いてくれ。」
「それもそうですね。ひとまず、処置を終えたら、一度行きましょうか。」
「ああ、私らもいくから、一緒に行けばいい。
それとも、聞いてくるから、伝えに戻ろうか。」
「そうですね。調合の手間もありますから、そうしていただけるのなら。」
そうマルコは会話を続けながらも、オユキに手早くイリアと同じ処置を施す。
イリアに比べれば、傷自体は浅いかもしれないが、範囲の広いそれは、終わるまでに、イリアよりも長い時間を要した。
「はい。オユキさんも、今日と明日は、安静に。
傷跡が残ったりもしませんので、そこは安心してください。
それと、先ほども言いましたが、うちの薬、狩猟者、傭兵といった戦闘をされる方ようですね。
そちらには、痛み止めの類も混ざっていますから、痛みがないからと、動かすことのないように。」
そう声をかけられると、傷跡が残らない、その部分でトモエが安心したようにため息を漏らす。
そして、手持ちの大きめの布を三角におると、それを使ってトモエの腕をつるし、固定する。
「おや、それは良い工夫ですね。布はこちらで出すので、イリアさんにもお願いします。」
「大仰すぎやしないか。」
「それぐらいの怪我ですよ。動かせば直りが遅れますから。」
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