第63話 大量の収集物
「ひとまず、これで終わりですかね。」
そう、イマノルが他の面々が集まる場所へと戻ってきながら声をかける。
この中では、最も多くの魔物を切り倒したというのに、疲れ一つ見せはしない。
「助かりました。町に戻ろうかと、そう考えていますが。」
「変異種に遭遇した以上、そうせざるを得ないでしょうね。
特に、今の状況では。皆さまは、それで。」
そういって、イマノルが、トラノスケとトモエではなく、二人組の女性へと視線を向ける。
「ああ、相方が戦闘できないしね。そうするつもりだったさ。
騎士様、ありがとうございました。そっちの三人も。
危うく、二人しておっちぬところだったよ。」
「いえいえ、今は傭兵ですから。謝礼はこちらの雇い主の方々へ。」
言われても、オユキ達は苦笑いをするしかない。
「なんにしても、肉は集めないといけませんね。
この量を放置するわけにもいきません。さて。」
そう言うとイマノルは、未だに意識がもうろうとしているだろう少年を囲む、残りの四人にも声をかける。
「それでは、あなた達、お仕事の時間です。あたりに散らばる魔物の収穫物を、拾い集めてください。
そうですね、オユキさんも、そちらの作業に。」
イマノルが、いくつか取り出した袋を少年たちに渡しながら、そう言う。
オユキは、流石に生肉をこれだけの量放置すれば、確かに何がどうなるか分かったものではないと、槍をトモエに預けて、手近なところから、落ちているものを拾っては袋に放り込んでいく。
早々にオユキが作業を始めたのを見て、残りの四人も、わたわたと、周りに転がる、大量の肉、魔石、毛皮、硬貨をせっせと袋詰めする。
少し作業を進めたころに、女性が貸していたナイフをオユキに差し出す。
「助かったよ。簡単に手入れはしたが、ちょっと痛んじまった。
あとで、新しいのを買って渡すさ。まぁ、終わったとはいえ、一応武器は持っておきな。」
「ありがとうございます。この子も本懐を果たしたのですから、お気になさらず。
改めて、私はオユキ。お名前をお伺いしても?」
「ああ、私はイリア、あっちがカナリアだ。」
「イリアさんですね。よろしくお願いします。あちらの赤毛の男性がトモエ。黒髪の男性がトラノスケです。
それと、イマノルさんですね。あちらの少年たちは、私もまだ名前をお伺いしていないんですよね。」
そう言いながらも、オユキは作業を続ける。
地面にはそれこそ数えるのが面倒になるほどの、物品が転がっている。
既に、それなりに大きいはずの背負い袋も、その半分が埋まりだしている。
そう言った作業についていない4人は、あたりを未だに警戒し続けている。
「全部持ち帰れるでしょうか。」
「まぁ、無理なら町に戻って、報告して、人手を頼むか、穴に埋めるかだね。」
「ああ、成程。とはいっても、この様子では、穴を掘るのも一苦労でしょうが。」
「あまり褒められた方法でもないしね。野ざらしよりはまし、その程度さ。
それより、腕は大丈夫かい。」
「戦闘では問題になるでしょうが、この程度であれば、問題ありませんよ。
町に戻ったら、おとなしく、診療所へお伺いします。」
言いながら、オユキは地面に転がるものを拾うときにも、使わないようにしていた手を数度開きにぎりと、して見せる。
その様子に、少し安心したようにイリアが吐息を漏らすと、オユキと顔の高さを合わせるために、かがんでいたところから、体を伸ばす。
「よかったよ。巻き込んで重症だと、私の立つ瀬がない。
まぁ、警戒に戻るから、何かあったら声を上げな。」
「はい。お任せしますね。」
なんだかんだと人出があるせいか、広いものは順調に進み、手持ちの荷袋その全てが、ほとんど埋まってしまうこととなった。
特にグレイハウンドの変異種、ロボグリスの残した毛皮は、オユキを覆いつくすようなものであったし、残された肉塊も、どうしたらこの量が残るのか、そんな大きさがあった。
それらは、トラノスケの持つ荷袋をそれぞれで、占有してしまった。
「これが、流石に限界ですかね。」
一時間ほど拾い集め、もうこれ以上は、そうなったところで、イマノルが声をかける。
「まぁ、そうだね。後はもう一度出張るか、人手を集めるかしたほうがいいだろうね。
半分も集められちゃいないし。」
「そうなのですが、私達は変異種の報告で拘束されるでしょうからね。
人手を募るしかないでしょう。では、戻りましょうか。」
イマノルの言葉に、オユキはそういえば昨日も、それなりに話をするためにと時間を取られたことを思い出す。
怪我の事もあるので、早めに開放してもらいたい、そう考えてしまう。
重傷、前の世界では、そう呼ばれるものではあるのだから。
気にして視線を向けたからだろう、トモエが少し表情を変えると、それにイマノルが声をかける。
「今回、守衛と傭兵ギルドは私が担当しますし、狩猟者ギルドは、トラノスケさんがいます。
オユキさんとトモエさん、それからそちらのお二人は、先に治療ですね。」
「お手間をかけます。」
「いえいえ、これも護衛の仕事、その中で起こったことですから。
まぁ、まずは一度戻って、それからとしましょうか。
さて、それでは、荷物を持ってください。戻りますよ。」
イマノルの言葉に、現状戦闘要員として数えられない6名で、大量の荷袋をどうにか背負う。
そして、まだ草原のあちこちに顔をのぞかせる肉の塊を見ると、オユキは改めてゲーム時代を思い出してしまう。
自動ルートなどという機能等あるはずもなかったから、乱獲、特定のドロップ狙いで、皆で暴れた後は、よくこのようになったなと。
現実と違うのは、どうしてもシステム的な限界があり、置かれたままの物品が腐敗する、そういった現象が発生しなかったことくらいか。
実装すれば、サーバーへの負荷は尋常ではなかっただろうから、確かに省略するしかないだろう。
だが、現実となった今では、これらを魔物が食らいに来るかもしれない、それこそ腐敗すれば、疫病の遠因となるだろう。
「くそ。なんでだよ。」
そんな帰り道、十分ほど前に、ようやくまともに動けるようになった少年が、何か一人でつぶやいているのが、オユキにも聞こえる。
さて、仲間内で処理しきれればよいのですが、そんな事を考えながら、これも若さでしょう、そんな事を考える自分は、やはりこの見た目でも、中身はずいぶんと年を取ったそれなのだなぁ、そんなことをぼんやりと考えながら、周囲へ最低限の注意だけ向けながら、歩いていく。
重たい荷物は、どうしても普段から、歩幅の都合で遅れがちなオユキの足をさらにゆっくりとしたものにさせた。
あまり離れていない、そのつもりではあったが、なんだかんだと待ちに戻るまでに、彼らは1時間を少し超えるくらい、歩くこととなった。
そして、門番が彼らの持つ、大量の荷物を見て、遠目にも察したのだろう。
彼らが門にたどり着く頃には、既に3人が集まっていた。
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