第37話 食後に歓談を

「そうか。そうか。それは良かった。」


そう、オユキの話を聞いている最中に、ミズキリは何度もその言葉を繰り返し、頷く。

合間には、女性同士の付き合いもあったトモエも補足を行いと、その話はやはりそれなりに長いものとなった。

覚えている限りのことを、ミズキリと、元の世界にいた彼の家族のことについて語り終えたオユキは、一度水を口に含んで、話の終わりを告げる。


「申し訳ありません。そこまで細かいことまでは把握しておらず。」

「いや。十分だ。仲が良いとは言っても、別の家庭だからな。

 それでも、よくしてくれたと分かるものだったさ。本当にありがとう。」


そういってミズキリは頭を下げる。


「トラノスケも悪かったな。関係ない話に長々と突き合わせて。」

「まぁ、気にするな。俺だって、知り合いが来れば話し込むさ。」


そういうトラノスケは、手を振り、軽く返す。


「それにしても、ミズキリはどうしてこの町に。」


今度はオユキが気になったことを尋ねる。


「ああ。前の団員が全員こちらに来るまでは、ひとまず残っていようと思ってな。

 まぁ、来ない物もいるが、来るとわかっているものくらい、待つさ。」


オユキは、その言葉に驚く。

それではまるで、ミズキリは誰がこちらに来て、誰が来ないのか、知っているようではないか。


「オユキとトモエは聞かなかったのか。

 ロザリア殿が、創造神から名簿を預かっているぞ。

 それを見れば、後誰が来るのかはわかるさ。」


そういえば、そのあたりのことは確認していなかったなとオユキは考えるが。

そもそもオユキは、こちらに来る前に尋ねて断られてもいる。

それが先入観となったかと、納得もする。


「とすると、残りは、後どのくらいでしょう。」

「あとは三人だな。元の団員の半分ほど、34名がこちらに来るらしい。」

「他の方々は既に。」

「ああ。俺が一番最初にきて、全員と一度顔は合わせているが、まぁ、ここに留まれとも言えないさ。」


そういって、ミズキリは苦笑いを浮かべる。

奔放な団員をまとめ上げるのに、当時から苦労していた。


「まぁ、たまに手紙をよこすくらいの義理堅さは、どいつもこいつもあるからな。

 一応どこにいるかくらいは、何となく把握しているさ。

 オユキも、こうして一度会っておきたかっただけだ。何かやりたいことがあれば、好きにするといい。

 俺も、もう一度団を立ち上げるつもりはあるが、何もそれを気にすることもない。」

「おや、私の手伝いは不要ですか。」

「手伝ってくれるなら有難いが、せっかくの機会だ、別のことをするのもいいだろう。」


そういうミズキリは、何処か優し気にトモエを見る。


「まぁ、そのあたりはそれこそ二人で話し合うといい。

 ただ、まぁ、身の安全は確保できる程度にな。

 聞いているかはわからんが、毎年万単位で狩猟者というのは命を落とすらしい。」

「そんなに、ですか。」


ミズキリの出した数字に、トモエが表情を暗くする。


「ああ、そんなにだ。昔に比べ、改善はされているらしいが、まぁ、このあたりで問題なく、それこそ森を踏破できるくらいの実力が無ければ、移動するときには商隊の世話になるといい。

 傭兵の護衛もつく。ああ、傭兵も前の世界のようなものと違って、こっちは契約に神が実際に介在するからな。」

「分かりました。ご忠告ありがとうございます。」

「まぁ、オユキについては、あまり心配していなかったが、今の姿を見ると。」


そういって、ミズキリはオユキの頭の先から、机でほとんど隠れてしまう体を見る。


「そうですね。慣れるまでは、なかなか難儀でしょうね。

 それは、トモエもでしょうけど。」

「私は、そこまででもないと思っていましたが、まさかここまでとは思いませんでした。

 とっさに駆けだそうとして転ぶなど、本当にいつ以来でしょう。」


そういうとトモエは、頬に手を当てため息をつく。

オユキは、確かにこうした時に出る、ふとした仕草は変わらないものだなと、そう感じる。


「トモエも、オユキと同じく何か心得があるのだったか。」

「いいえ、トモエさんのご実家が道場でして。私はそこにご厄介に。

 むしろ、私よりも優れていましたよ。」


オユキがそういえば、ミズキリは驚いたような顔をして、トモエを見る。

トラノスケは、何か感じ入るように頷いている。


「そうだな、今日の狩猟も実に見事なものだった。

 そういえば、オユキ、足はどうだ。」


言われて、オユキはそれを思い出す。

今となっては、そういわれるまで気が付かないほどに、痛みどころか、違和感も感じない。


「ふしぎなことに、もう違和感もありません。

 こちらでは、怪我の回復が早くなったりと、そういう事は。」

「ああ、あるな。」

「オユキさん、それでも明日は、大事を取ってみてもらいますからね。」

「はい。私も足元に不安を覚える状態で、命を懸けるつもりはありませんから。」

「そうだな、それがいいだろう。

 それにしても、オユキはその体形だと前と同じ獲物は無理そうだな。」

「ええ、今日アーサーさんに槍を頂きましたので、しばらくはそちらを。

 将来的には、長刀あたりが妥当でしょうか。」


そういうと、トラノスケは首をかしげて、オユキに尋ねる。


「長物は難しいんじゃないのか。

 より、取り回しが難しいように思うが。」


それには、オユキではなくて、トモエが応える。


「あら、女性ほど使うべき、そういわれるものですよ。

 長柄で、低い位置を狙うというのは、有効ですし、対処も難しいですからね。

 あとは、先端が重いため、コツはいりますが、有効打に腕力があまり必要でなくなるという点もあります。」

「成程。」


説明に、トラノスケと、横でミズキリも頷く。


「ただ、このあたりの理合いは、あくまで人に対してのものですから。

 さて、こちらの魔物と、そう呼ばれる相手にはどうでしょうね。」

「距離が空けられますし、遠心力は心強いものですよ。ただ、この体も見た目以上に力が出せるようですから、それこそ、実際にいろいろ試しながらと、そうなっていくでしょう。」

「ああ。そうなるのか。」


その後も、しばらく四人で話を続け、時計がないためはっきりとした時間はわからないが、食堂から一人二人と、姿を消す、その流れに合わせて、今日のこの場は解散となった。

オユキも、トモエも、しばらくはこの町を離れるつもりもない。

ミズキリとはまた話せばいい、それこそ、ミズキリもここで食事をとることがたまにあるようで、その時には自然とまた顔を合わせるだろう。

再会の約束をして、ミズキリは外へ、3人はそれぞれの部屋へと戻っていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る