第24話 町へ戻る
「さて、それでは戻るか。」
トラノスケがそういうと、オユキはトモエに抱き上げられる。
「どうかしましたか。」
横抱きにトモエに抱えられたまま、オユキは尋ねる。
「いえ、足を痛めているのでしょう、ならば歩かないほうがいいです。固定用の布もありませんし。」
「ああ、そうですね。」
オユキは、トモエの言葉に頷きながらも、それにしてもと、そう考える。
ここに来る前に、トラノスケにもそうであったが、実に軽々と抱え上げられるものだと。
元の世界でも、これだけ体格差があれば難しいことではなさそうだが、今は荷物もあるし、装備もそれなりに頑丈であり、重量はかさましされているだろう。
それをこうも軽々と、オユキはそれにやはり元の世界に比べて、身体能力に何か別の要素が働いている、そう勘ぐる。
「トラノスケさんは、こちらで、身体能力がどう決まっているか、ご存知ですか?」
オユキは、そう、先達に尋ねてみる。
「詳しくはわからないが、ゲームの時と変わってはいなさそうだな。」
それに、オユキは頷く。
ゲーム時代も、他のゲームにあるような、数値での確認はできなかったが、やはり長く遊んでいれば、そこには明らかな変化があったものだ。
それも現実に比べて、圧倒的に早く、強力に。
それは、この世界でも変わっていないのだろう。
「実際に、だれか調べたりはしていないのでしょうか。
ゲーム時代でも、そういったことを調べるのに、心血を注いだ方がいます。現実となれば、なおの事そういった方々も、おられるのではないでしょうか。」
「話には聞くが、それこそギルドの連中のほうが詳しいだろうな。
戻ったら、足が治るまでは、そのあたりも聞いてみるといい。」
トラノスケが言うように、調査の類であれば、確かに個人よりは組織だろう。
「確かに、現実であれば、少々難しそうなこともできましたし、何かそういう補助が働いているのですね。」
トモエも、オユキを抱いたまま、会話に入ってくる。
「ああ。だが、補助というのはどうなんだろうな。
ここではそれが当然と、そうであるなら、補助ではなくあるべき形なのだろう。」
「それは、素敵な考え方ですね。」
「いや、そうでもないだろう。確かに筋力以外の何かが、剣を振る際に働いているのかもしれないが、それが誰にでも起こることであるなら、当たり前として、調べもされていないのでは、そういう事だからな。
俺も、言われるまでそういうものと、そう考えて気にもしていなかったからな。」
「まぁ、ゲーム時代と変わらない仕様、そうとも言えますし。
トラノスケさんもお会いされたでしょうが、やはりゲームを基に、そういわれると、元プレイヤーとしては、それだけで大部分を納得してしまいますからね。
ここを現実として生きてきた皆様が、勤勉であったことを祈りましょう。」
オユキはそういって、見おぼえた聖印を切る。
ゲームの中、現実でも、行わない動作であったので、ひどく新鮮な気分になる。
その姿を、トモエがほほえまし気に見守る。
「こうして、またあなたとともに歩けるのですから、私もあのかわいらしい神様を信仰していしまいそうです。」
言われたオユキは苦笑いをしながら返す。
「本来であれば、この立場は逆だったはずですが。」
「まぁ、それも一つの楽しみです。」
そう、二人が話していると、トラノスケが、トモエを向いて、声をかける。
「その、奥方、いや、なんと呼べばいいのか、トモエさんは生前から男性になりたいと、そういう願望が?
所作などは、時折男性的と言いにくいものが見えますし、動きに違和感を覚えることも、ままありますが。」
「いえ、そういった事は特に。ただ、新しく、もう一度機会を得られるのなら、違った何かをもとめたい、そういった気質は持ち合わせていましたが。」
オユキは、その質問にふと思いつき、トラノスケに言葉をかける。
「その、私達は二人同時に、創造神様の元へ伺わせていただいたのです。」
「そうなのか。常に一人と、そういう場ではなかったのか。」
「はい、そこで、まぁ二人で同時に、新しい見た目を作ったわけですが、その際に少し。」
「成程な。それぞれがそれぞれに、そういった見た目を選んだのかと思っていた。
それなら、トモエの見た目そのままというのも、納得がいく。」
そう話しながら、二人が足を進めれば、出てきたばかり、時間は3時間もたってはいないだろう、それが見えてきた。
そこで、ふとオユキは今後の予定を考えるにあたって、気になることが脳裏によぎる。
「そういえば、トラノスケさん。こちらの物価はどの程度でしょう。
これから数日は、私は療養しますが、雨風をしのげる場所、日々の食事、それらは今日の成果で叶うものでしょうか。」
「ああ、問題ない。こちらの基本的な物価は非常に低いからな。生活必需品だけで言えば、元の世界と比べれば雲泥の差だ。代わりに少し上を望めば、いきなり跳ね上がる。それに武器の類もいい値段がする。」
「成程。物価の低さは何か、理由が?」
「魔物という形で、資源がいくらでも取れる。見ての通り土地が有り余っている。そのあたりじゃないか。」
「納得のいくものですね。ちなみに先ほど魔物が落とした硬貨は、実際に流通しているものですか?」
「ああ。ただ、それらも狩猟者は徴税の対象だな。誤魔化そうとはしないほうがいい。
犯罪者として手配されるわけでもないが、神の目は誤魔化せない。下手をすれば、神の加護を失う。」
それは、実に神の目が行き届いた世界らしい、そんな理由だ。
オユキはゲーム時代を思い返すが、確かに犯罪行為を行ったプレイヤーは、法の神をはじめいくつかの神からの加護を失っていた。
反面、悪魔の類から加護を得るため、それはそれで厄介であることには変わりなかったが。
ただ、悪魔の加護は、一目でわかるものが多く、判別は難しくはなかったが。
功績をたたえる神は、ゲーム時代は6柱だけであったが、現実であれば、増えているのだろう。
そうしているうちに、門のすぐそばまでたどり着き、門番が、オユキ達を少し不安げな表情で見ている。
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