短編集
翡翠まな
目を隠す理由
『岡本~、岡本~』
『はい、こちらに』
赤い絨毯が敷かれて、周りの蝋燭台までが豪華に彩飾された廊下に、
1人の少女が歩いていた。
ーーー黒髪で長髪、金色の目に真っ白な肌をした少女は、これでもかっ!!っとフリフリのレースを付けた、黒に少しの赤がアクセントになったゴスロリのドレスを着ている。
少女が突然、
探し人の名前を呼ぶと…、廊下の窓の長いカーテンが揺らぎ、若い男が音も無く目の前に現れる。
ーーー短く切られた黒髪をワックスでオールバックにし、その黒髪と同じ艶のある黒の帯を目隠しにした男は執事服を着ている。
通称【岡本】と男は少女に呼ばれていた。
岡本は少女に対して恭しく礼をする。
『1回で来なさいよ、岡本』
『無理です』
20代前後の肌つやに皺はなく、佇まいには貫禄があるが、一見して新人のようなこの男は、この館の筆頭執事を任せられている。
その岡本がこの館の主である吸血鬼の公爵の愛娘、ミサに向かって恭しく礼をしたまま『無理』っと言う。
『へぇ…、私の言うことが聞き無いんだぁ?』
ミサの瞳孔が細くなり、金色の目が赤色に浸食されていく…!
『えぇ、聞けないですね』
岡本は謝罪を口にするどころか、従わない、とお嬢様に言い放った。
『…死ぬ?死ぬの?ーーー死ねっ!!』
お嬢のゴスロリの服に開けられた布の割れ目から、蜘蛛の脚が4本、生えて私に襲いかかる。
『お手が悪い』
岡本は、襲いかかる脚を手刀で斬り捨てる。
『なら、これならどう!』
お嬢が物凄い跳躍力で廊下や壁、天井を跳ねて距離を取る。
アレがきますね……
口を開いたお嬢の口がミチッ、ミチッと裂けていき、大きくなった口から炎が吹き出る。
『はしたないですよ、お嬢』
岡本は熱を感じないという風に炎を浴びながら近づき、広がっていた口を、頭と顎を押さえて閉じる。
『むぐぅぅぅ!?』
ミサの口からくぐもった声が聞こえ、ミサが小さな両手をバタつかせて暴れる。
『あ、すみません』
『今、離しますよ』
『こんの!』
一瞬にして生えたドラゴンの尻尾の横薙ぎすらも岡本は平然と受け止める。身体で。
『凍りなさい!』
ミサの身体から極寒の冷気が身体を襲うが、岡本は平然としている。
身体には霜ができているが、気にした様子はない。
『お嬢、これ以上やったら、
ーーー嫌いになります』
哀しそうに執事が呟く。
『ーーーえっ!?
やだ、やだやだ!や~!』
突然の嫌い宣言に、
殺気を垂れ流していたお嬢様が駄々をこねたように岡本の身体に抱きつき、頭を横に振る。
角が……、地味にこれが一番痛い…。
『大体、お嬢にお館様から専属の執事やメイドが付かれたのでは?』
『え~♪
私の部屋にはオブジェしか来なかったよ~♪』
ミサがニヤニヤしながら語る。
今頃、配属された者たちは、部屋で石像になっているのだろう…。
ーーーあぁ…、だから今日のゴミがあんなに重かったのか。
『どうしてそんなことを?』
『岡本~、知らばくれちゃって♪』
『私のこの可愛いさ、美しさ、極限美が魅了してしまったせいでしょ~?』
『ナルシストですね…』
お可哀想に…。
『何、哀れな者を見る目を向けてるのよ!?』
『不敬よ!結婚しなさい!
子供、産んであげる!』
『嫌です』
『何人欲しい?やっぱり国を作れるくらい?
ーーーって、そこは【お断りします】でしょ!!』
『お断りします』
『断るなぁ!?』
『もう、頭にきたわ、今すぐに既成事実を作ってあげる!』
お嬢が俺の目隠しをずらすから、目が合ってしまった。
『ポォー……』
『惚れ直したのは分かるんですが、口から涎が出てます』
バッ!っとお嬢様が口を袖で拭くが、涎なんて出てない。
ーーーその服、高いんですから、涎拭きに使わないで欲しいのですが…。
『だ、騙したわね!?』
『っていうか、何で私の魔眼が効かないのよぉ!?』
『私、視力が悪いんです』
『んなんで…!この私が負けてたまるかぁ!!』
『お嬢、口調が乱れてますよ』
『だいたい!
私にはサキュバスの特性も入っているから!視力なんて関係ないのよ!!!』
『あ、視力が悪いのは嘘です』
『分かってるわよ!バカぁぁぁ…!』
お、お嬢が、泣き出してしまった……旦那様に殺される。
ーーーお嬢は、先の対戦で人間界を滅ぼすため、絶滅しかけた魔族や知能がある魔物たちが結集して、秘密裏に作られた合成魔獣=キメラだ。
だが…人間界で期待されて、勇者候補として国々に支援されていた英雄が、
突然、共に戦う仲間を殺して姿を眩ます。
そのため、人間界の戦力が大きく低下し、人々の心の拠り所であった英雄の裏切りによって、不安が募り、暴動から内戦にまで至って、人間界は魔界に侵略をするのをやめた。
魔界は魔界で、絶滅までいったから統率が取れていたが、侵略が止まったことで、統率が取れなくなったのだった。
今、魔界で生きてるのは、その後で安定を求めて国を作った者たちである。
まぁ…、つまり、
お嬢が必要になるほどではないので、今は一番に権力がある吸血鬼族の義理の娘っという設定です。
義理と言っても、ちゃんと娘として愛されているから安心してください。
私が、この館の執事を高額で任せられるくらい愛されている。
英雄は?
あぁ、英雄ですね!
仲間の買収からの裏切り、魔族のなりすまし、ず~と第一線での強制労働、軟禁、なんか戦っていたら、信仰の対象になっていた状況から逃げ出しましたよ彼!
仲間を殺した?
ドラゴンに殺されたのが俺の仕業になりますかっ!まったく!
『岡本!私に構いなさいよ!』
あ、嘘泣きが終わったようですね。
『え~ん、え~ん(チラッ)』
まだ、続行中なんですね…
『しょうがないですね……』
私はかがんで、お嬢の額にキスをする。これをしないと1ヶ月は命を狙われ、夜には性的にも狙われる。
口をつけようとした時、ーーーお嬢が急に顔を上げて、お嬢の口と重なってしまった!?
『えへへへ♪』
『旦那様に殺されたら、お嬢の責任ですからね……』
『その時は蘇らせて、即結婚よ!』
まだ、そんなことを…。
お嬢も年頃の女の子なんですから、そういう発言は、
本当に好きな人に言わないといけないのに…
『好きよ、大好き♡』
執事は顔が赤くなったのを感じて、また目を隠すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます