六⑧
ガブリエルとサンダルフォンが飛び立ったのと入れ違いで、今まで空中にいたメタトロンがふわりと里帆の目の前の、柵の上へと降り立った。
「お姉さんは、生きるんだよ」
「え?」
里帆の前に降り立ったメタトロンはその翼をたたんでくれる。内側にあった赤い目を、里帆が怖がっていることを、メタトロンも分かっていたのだ。メタトロンは里帆に視線を合わせたまま言う。
「お姉さんは、ラファエルのためにも生きなくちゃいけない」
「私、生きても、いいの?」
「もちろん」
メタトロンはにっこりと笑っている。その笑顔に不安だった里帆の表情もほころんでいく。メタトロンはぴょんっと柵から飛び降りると、今度はてくてくと歩いてウリエルの前へと出た。
「ウリエル。分かっているよね」
メタトロンの言葉にウリエルは静かに頷いた。
ウリエルは里帆へと背中を向け、自分の背後にあった二枚の扉の前に向き直った。それからバッと両手を広げる。その勢いでウリエルのロングマントが左右に大きく広がり、里帆から視界を奪った。そのマントがゆっくりとした動きで元の位置に戻る頃には、二枚あった扉が消え、代わりに一枚の大きな扉が現れたのだった。
それを見ていた里帆の柵が、ガシャン、と大きな音を立てて開く。
メタトロンは里帆を振り仰ぐと、
「さぁ、お姉さん。この扉をくぐるんだよ。人間界へと通じているよ」
メタトロンとウリエルが左右に移動し、扉までの道を作ってくれる。里帆は柵の外へとゆっくり足を踏み出した。そして扉の前に立つと、一度後ろを振り返りメタトロンとウリエルへと深々とお辞儀をする。
再び扉の前に向き直った里帆は、ゆっくりとその大きな扉を押し開いた。
一筋の光が差し込み、里帆を照らしていく。そしてそのままその光が里帆を飲み込んでいく。光がエデンいっぱいに広がり、辺りを一面まばゆく照らした。その光が収まった頃にはもう、里帆の姿はエデンのどこにもなくなっていたのだった。
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