私と俺の恋物語

護武 倫太郎

私と俺の恋物語

私、ヤクマル ナナミ。15歳。

県立の東高校に通う、高校1年生。

突然だけど、私、今すっごい恋をしているの。

相手は同じ高校のマツカゼ先輩。

先輩との出会いは入学式の日だったわ。

私が落としたハンカチを届けてくれたのよ。

先輩は

「俺も探し物をしていたから、気にしないで」

そう言っていたけど、私が嬉しかった気持ちは嘘じゃないわ。

先輩はサッカー部のキャプテンだったの。

東高校は、ずっと昔からサッカーの強豪校だから、すごいことよね。

だから、何とか先輩に振り向いてほしくって、私はサッカー部のマネージャーになったの。

早くマツカゼ先輩と、もっと仲良くなりたいなぁ。

サッカーのことはまだよく分からないけど。きっと大丈夫。

私、先輩に好きになってもらえるように頑張る。



俺は、マツカゼ トモヤ。17歳。

東高校の3年生で、サッカー部のキャプテンをしている。

これまでずっとサッカー一筋で、勉強も恋愛もまともにやってこなかったんだが、最近、気になるやつができた。

サッカー部のマネージャーだ。

あいつと初めて出会ったのは入学式の日。

俺が落とした生徒手帳を探している時に、偶然出会ったんだ。

まさか、マネージャーになるとは思わなかったがな。

あいつは、サッカーの知識はほとんど、いや、全くないくせにいつも一生懸命だ。

いつだって俺たちのチームのために全力で尽くしてくれる。

気が付くと、俺はあいつのことばかり考えている。

俺は、いったいどうなってしまったんだ?



私、最近、マツカゼ先輩と良い感じなの。

同じ部活に入ったからか、お話しする機会も増えたし、すっごく仲良くなってきた気がするわ。

サッカー部にはマネージャーが何人かいるけど、マツカゼ先輩はいつも私に話しかけてくれるの。

でも、これは私の自意識過剰かもしれないわね。

だって私よりかわいい子がたくさんいるんですもの。

誰よりも華があって、モデルのようなアユミ。

小柄でかわいらしい、天真爛漫なハルナ。

性格が良くて、奥ゆかしいリノ。

やっぱり私なんかじゃ、マツカゼ先輩とは釣り合わないわよね。



俺は今日、一つの決心をした。

告白だ。

夏のインターハイの時期を迎えるにあたり、このもやもやした気持ちに終止符を打たなくては、プレイに集中できそうにない。

俺は、俺の気持ちをすべてあいつにぶつける。

たとえ振られたとしても、かまわない。

きっと、今よりはサッカーに集中できることだろう。

それほどまでに、もう自分の気持ちがはち切れそうになっていた。

もう自分に嘘はつけそうにない。

俺は、ナナミのことが好きだ。



「ナナミ、俺はお前のことが好きだ。俺と付き合ってくれ」

どうしよう、信じられないことが起こってしまったわ。

ゴミを捨てに校舎裏に来ただけなのに。

こんな少女漫画のようなことが起こってしまうなんて、私はこれっぽっちも想像してこなかったわ。

私、マツカゼ先輩に告白されたのよね。

今日は私にとって記念日になるわ。

でも、誰かに見られているような気がする。

……気のせいよね。



今日は初めてできた彼女と、ナナミと、念願の初デートだ。

今日ばかりはサッカーのことは忘れて、彼女を最優先にするぞ。

なんたって、今日は体を休める休息日だ。

なら、大好きな彼女とデートするのが一番良いよな。

行先は彼女の好きな水族館だ。

「水族館に来ると癒やされるの」

なんて言うナナミの笑顔に、俺の方が癒やされる。

どうやらナナミはイルカが好きらしい。イルカを見つめるナナミはかわいいなぁ。

お揃いのイルカのストラップでも買ってあげたら、喜んでくれるかな。



どうしよう、このこと、マツカゼ先輩に言った方がいいのかな。

この間、水族館に行ったときに、マツカゼ先輩の少し後ろをずっとついて回る女がいたの。

きっとあの女は、マツカゼ先輩のストーカーよ。

あんな風にマツカゼ先輩を追い回すなんて、あってはならないわ。

それに、マツカゼ先輩とお揃いのイルカのストラップまで買うなんて。

直接、あの女のところに抗議しに行かなくちゃ。

私がマツカゼ先輩を守るのよ。



何があったのだろう?

あの水族館デートを境に、彼女の様子がおかしくなった。

ずっと何かに怯えるような、何かを恐れているような。

俺にも話してくれないのかな。

お前が困っているなら、俺は助けてあげたい。

俺はお前をずっと守ってあげたい。

だって、俺はお前の彼氏だから。

なあナナミ、何か悩みでもあるのか?

「実はね、トモヤ君にストーカーしている子が……いるのよ」



マツカゼ先輩、私があなたの彼女なんですよね。

あの告白してくれた日、校舎裏には私と先輩以外に、誰か別の女がいるような気がしましたがそんなことはないですよね。

あの女に、ストーカー女に見られていたのは、気のせいですよね。

マツカゼ先輩は私と付き合っているんですよね。

私不安なの。だから、私は部室であなたの恋心を確かめることに決めたわ。

お願い。私を不安にさせないで。

ねえ、マツカゼ先輩。あなたの彼女は、私ですよね。

「何を言っているんだ?」



あの子の言葉を聞いて驚いた。

まさか、あの子が俺のストーカーだったなんて。

ナナミから聞いても半信半疑だったが、あの子のあの言動はストーカーの証拠だろう。

たしかにあの子は、ずっと普通ではなかった。マネージャーなのにサッカーのことに全く興味がない様子だったし、他の部員ともあまり良い交友関係が築けているようにも見えなかった。

いつも下を向いて、マネージャーらしいことは何もできていなかったようにも思える。

だからこそ、せめて少しでも部内の空気を良くしようと、俺が彼女に積極的に話しかけたのだが。それが逆効果だったのか。

これまでの俺の態度が思わせぶりに見えたのだとしたら、反省しなくてはならない。

だが、俺の彼女を脅すなんてもってのほかだ。それとこれとは話が違う。

あの子に、いや、あいつに一言いってやらなくては。

もう、ストーカー行為をするのはやめろって。

俺が彼女を守らなければ。



『昨日の夕方、閑静な住宅街で2人の高校生が殺害される事件が発生しました。容疑者は二人を刃物で刺した後自殺を図り、救急搬送されましたが死亡が確認されました。殺害された2人は県内の同じ公立高校に通う、松風智也まつかぜともや17歳、那波莉乃ななみりの15歳———』



私、薬丸七海やくまるななみ。15歳。

県立の東高校に通う、高校1年生。

突然だけど、私、今すっごく悲しいの。

私が恋する、同じ高校の松風先輩。

なんと、同じサッカー部のストーカー女に騙されていたの。

だから、愛する松風先輩のために、ストーカー女の莉乃にきつく言ってあげたの。

もうストーカー行為はやめなさいって。

なのに、どういうわけか、松風先輩に怒られちゃった。こういうことはもうやめろって。

きっと、あのストーカー女に洗脳されているのね。かわいそうに。

大丈夫。私が救ってあげる。私の愛であのストーカー女を消し去ってあげる。

そう思って、ストーカー女にナイフを突きつけたのに、松風先輩が庇っちゃうんだもん。

松風先輩を刺すつもりなんて一切なかったのに。

松風先輩の命を奪った、あの女のことは、絶対に許さないからね。

バイバイ、ストーカー女さん。ふふっ。

でも、現世では、もう松風先輩と仲良くなることはできないなあ。悲しい。

そうよ。死後もあの女が松風先輩につきまとうかも知れないわ。

私が松風先輩を守らなくちゃ。たとえ、死んでしまった後でも。

よーし、今あなたのところに行くから。待っててね。

松風先輩、大好きだよ。愛してる。

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私と俺の恋物語 護武 倫太郎 @hirogobrin

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