中途半端な魔法使い
おでぶ
第1話 火曜日の初耳
「いいかー、ここテストに出るぞー」
投げやりな男性教師の声が響く。そのセリフを聞くのももう何度目だろうか。
新学期に入って数週間。
5月の連休を間近に控えたこの段階において、既に聞き馴染んでいるのは
昼食を終え、本日最後の授業である魔法基礎学を受けている真っ最中。
事実、彼は退屈さを感じていた。
この時間に解説されている内容は"魔力と魔法について"である。
「適切な形の魔力を、適切な量だけ、適切な方法で使用することが、魔法使いに求められるスキルだからな」
担当教員の熱弁は続く。
「あまりに大きく調整を外れると、暴発や暴走の危険がある」
魔法を使う者にとって、あまりにも基礎的で当たり前でありながら、無意識レベルで意識しなければならない項目である。そのため散々聞かされている内容でもあるわけだが、それを聞く生徒たちの眼差しは真剣だ。
先程の発言から重要な単元であると理解しているのか、あるいは──
「この地域でも頻繁に話題に上がるが、氷属性者なんてものはその最たる例だ」
──身近に、その興味を強く惹きつける存在がいるからか。
そんな折、終業のチャイムが鳴る。
「おーっし。今日はここまで。続きはあさっ……おっと、明日もあるな。復習しとけよー」
曖昧に次の予定を確認するように言って、早々に廊下へ行ってしまう。時間外労働はNGらしい。
働き方改革のお手本のような人物だ。
そうして教室内が生徒だけになると、室内を喧騒が満たしていく。
「今のってさ、絶対ヒカリ様のことだよね」
「それウチも思った」
「てかさ、昨日のニュース見た?」
近くの女子生徒たちの会話が耳に届く。
その中の聞き慣れないワードについて、左隣の席に座る
「なぁ、"ヒカリ様"って誰か知ってる?」
「あぁ。"中途半端な魔法使い"のことだよ。氷属性者でありながら、氷属性者をとっ捕まえてるあの」
先の授業にもあったが、魔法使いにとって、最も恐れるべきが魔力の暴走である。
制御しきれない魔力が暴走し、人格にまで影響する例がある。その筆頭が氷属性者だ。
暴走するほどの圧倒的な魔力量を誇り、属性の影響から冷酷非道へと堕ちてしまった状態。悪しき魔法使いの代名詞とも言われる存在。
「どっからその呼び名が来たんだ?」
「『氷』と狩人の『狩』の字で『ヒカリ』って読ませるらしい。悪人を退治してるから、ネットじゃそっちの方がウケが良いっぽいぞ」
なるほど。それで『
悪とされる氷属性者を倒す氷属性者として、当初は『同族狩り』などと言われ、いつからか『中途半端な魔法使い』という名が通っていたが、それと比べて今回のは短い上に音のイメージも悪くない。
もっとも、そんな特殊な存在はインターネットの普及した現代においてなお、この地域でしか活動を耳にしないほど稀有なわけだが。
事実上、固有名詞となっている。
とりとめのない疑問を解決してくれた亮に一言軽く礼を言って、帰り支度を始めた。
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