第23話 売り込み

初めて涙をみせたルビの小さな肩をエイタは受け止めていた。

「ルビ・・」

「俺の親父が、もとロッカーだったって知ってる?」

「えっあのおじちゃんが!」

「そう、アア見えても、昔はプロのミュージシャン。ドラム叩いてたんだってさ。あんなに禿げてないし、結構かっこよかったらしいぜ。ライブ聞きに来たおふくろと出会って、お互い一目ぼれしたんだって。それで、お袋の実家だったのキャスト屋を継いたんだってさ。音楽じゃ生活できねえし俺も生まれたから、夢より家族を養うほうを選んだんだ。親父の夢はロッカーじゃなくて、おふくろと家族と幸せに暮らすってことに変わったって。お袋が死んでからはさ、ああ見えても、俺のことは何でも味方してくれた。高校でグレなかったのも親父のおかげだ。町工場って大変だよなあ。でも、あんなダサい親父だけど、ありがたいって思うよ。俺が学校の頃、モトクロスにはまってさ。大怪我したことがある。それで、親父はすっ飛んできた。病院で何度もエイタ、お前まで行くんじゃねえぞーって叫んでくれて、それで助かったような気がする。ルビのお父さんもきっと人に言えねえようなすごく辛い思いを抱えこんで、どうしようもなかったんじゃねえか。」

「うん」

「だけど子供の幸せを願わない親なんでいねーと俺は思う。きっと今頃さ、ルビ負けるな、がんばれって言ってるさ。お前タフなんだろ。俺と同じでさ、貧乏人だからタフで誰にもまけないんだろう、だったら・・」

「え?」

「だったら、負けんなよ。お前らしくしろよ」

ルビは涙を拭ってエイタの顔を覗き込んだ。


それからしばらくして、文京区にある出版社のビルに乗り込んでいくルビの姿があった。

「チリエージャの杉本ルビです。この記事に書かれた女性です。」

本が山積みになっている雑誌社の奥の部屋でこの勢いに驚き本の陰にかくれようとしながら編集者は答えた。

「あれは契約社員が書いたんで。なにか?」

 ルビは商品写真のデータが入ったCDと、綺麗にロゴ入りでプリントされたプレスリリースをまとめた束を机の上にどんと乗せて言った。

「チリエージャの春の新作コレクションがもうすぐありますので、是非、取材にいらしてください!今年はスリーピングビューテイー鉱山のターコイズを中心に、ボリュームたっぷりのミラノモードをご提案します。新しいプレス用の写真もご用意しておきますので、どうぞよろしく!!」


「ちょっと、それで御曹司との件は?」

編集者がたじたじとしながら突っ込んだ。

「さあ、お楽しみに!・・チリエージャ、チーフデザイナーの杉本ルビでした」

エイタの胸で泣いて吹っ切れたルビは記事を逆手にチリエージャの新しいコレクションの売り込みに来たのだ。

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