第14話 美穂のお手柄

「やだもう。うっかりスケジュール表をごみ箱に捨てちゃったから、ごみ収集の前に取り戻しておかなきゃ。アーあ、こんなことで早朝出勤、辛いなあ」

そそっかしい美穂が、またドジをして翌日出勤したのは8時前のことだった。

ゴミ収集車が来る前に、ゴミのなかを漁らなくてはならない。

「あらあ、このデザイン画確かダンボールちゃんの・・なんで?」

ゴミ箱の中に、真新しいデザイン画がはいっているのに気がつく。

「綺麗なのに失敗したのかしら。」

いつも早く出勤しているルビに気がつく。

「ねえ、ダンボちゃん、ゴミの中にこのデザイン画があったんだけど・・失敗?」

「えっ?」

(先生、あんなことおっしゃったけど、恥ずかしくて出せないと思ったのかしら、でも・・先生はそんなことをするはずない)

締め切り時間は午前9時。15分しかない。

「コンテストの分だったの?変ねえ」


「エイちゃん、お願いがある!」

電話をした相手は東麻布のバイクやに勤めているエイタだった。

バイクならまだ間に合うかもしれない。麻布台まで一分で駆けつけたエイタは、一目散に丸の内の会場に向かった。9時3分に到着した。

「締め切り厳守なんですが!」

「申し訳ありません!!」

「今回だけですよ。もう審査の先生方集まっているんですから」


なんとか届け終わってルビが出社するとみんながひそひそ話していた。

「だけど、じゃあなんでデザイン画がゴミ箱に?」

 みんなの視線はそそっかしい美穂に集まった。

「ちがう、ちがう!私じゃないから」


同じころ、アリモトの本社では、ひろやの母

が話をしていた。

ヒロヤの母は旧華族出身の和服の似合う美しい女性で、切れ長の目元はヒロヤと瓜二つだった。


「ひろやさん、コンテストに出品されたんですって?」

「ええ、アメリカではGIAアワードをとってるけど、日本じゃまだだし」

「ひろやさんのブラック&ゴールドは、洗練されていて日本のマダムを魅了しているからグランプリは間違い無しね。それにアリモトの後取りなのに、こうして普通にコンテストに応募するところも謙虚ね。本当に自慢の息子だわ」

「ところで宗家橘流のお嬢様とのお付き合いは、進んでるの?あちらは随分乗り気のようだしあんまり引き伸ばすのも失礼ですよ。」

「素敵な女性だとは思ってるけど、なんとなくテンションが上がらなくて。会っていても、会話も弾まない。生涯をともにしたい人とは違うんじゃないかな・・」

「また、そんなことを言って・・いつも、こうなんだから」


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