第11話 日曜日 その2

 咲子と始めた部屋の掃除は大体1時間位で終わり、今はエアコンの効いた部屋で、麦茶を飲みながら咲子と一緒に涼んでいる。


「しかし、まだ午前中なのに、汗でダラダラだよ」


「お父さん。今日は外、風弱いもんね!」


 普段も休日は掃除をしているが、のんびりと時間を掛けてやっているので、そこまでは汗は掻かない。しかし、今日は咲子が居る手前少し張り切ってしまった。


「でも、エアコンは快適ね!」


 咲子の方も、Tシャツのえりの部分が少し汗ばんでいたが、俺ほどは汗を掻いてはいない。若いからだろうか?


「全く、エアコン様々だよ」


「でも、家だったらお母さんに文句言われてるね!」


「そうだな……」


 母さんは倹約家と言えば良い響きだが、裏を返せばケチでも有る。

 エアコンも今日みたいな無風に近い日なら、朝からでもエアコンを付ける場合は有るが、そうでなければ、午前中や掃除が終わるまでは窓全開で過ごす(過ごされる)事が多い。さすがに午後からは付けるが……


 もちろん、子ども達の部屋や寝室にもエアコンは付いてはいるが、お母さんルールが有って『なるべく居間で家族一緒に過ごすこと!』と言うルールが有る。これは、電気代の節約か!?

 勉強とかでエアコンが必要な時は、夏は28℃前後、冬は20℃前後にすると言うルールが我が家には存在する。咲子が散財をしないのは母さん譲りだろう。


「エアコンの設定温度も25℃だしな、母さんにばれたら何を言われるやら…」


「……後で、お母さんにメールで連絡しとこ」


 咲子が何やら不吉な事を口にする。まあ、知られても光熱費は会社持ちだから問題無いけど。


「じゃあ、お父さん。準備するね!」


「んっ、始めるか!」


 咲子が持って来たゲーム機(ブレーカー)をテレビに繋げる。

 テレビは据え付けのだからそんなに画面は大きくはないし、質も良いとは言えない。

 しかし、2人でゲームをする程度なら問題無いだろう。

 直ぐにゲーム機とテレビが配線で繋がってゲームが始められる状態だ。


「父さん。あんまり難しいのは無理だぞ……」


 俺はアクションゲームやシューティングゲームの類は苦手である。

 もっぱらやるのはシミュレーションゲームばかりで、町を作るゲームや戦車や歩兵を動かす戦争ゲームばかりやっていた。

 RPGゲームも、友達の話題に付いていくために王道ゲームをやったが、本当に王道シリーズのみだ。


「うん、知ってるよ! 前そんな事言っていたし」


「だから、簡単そうなのしか出来ないよ」


「そうか、そうか」

「じゃあ、最初はこれかな!」


 咲子はそう言いつつ、持って来ている何本かの内の1本をゲーム本体に差し込み電源を入れる。メーカーのロゴタイトルの後、ゲームのタイトル画面が表示される。


「ワークカートか」


 配管工のキャラクターで有名なアクションゲームのキャラクター達が、バギー見たいな車に乗って、アイテムを駆使してレースを繰り広げるゲームである。


「そっ。これならお父さんでも出来るでしょ!」


「そうだな。いや~、懐かしいな。子どもの時に良く兄弟や友達と対戦したよ!」


 最近、ゲーム自体を殆どやっていない。そもそも、ゲームをする時間が有る位なら、昼寝するか他事をしてしまうからだ。

 単身赴任以前の時でも、ゲーム機は居間のテレビに繋がれていたが、プレイは殆どしていない。


「私が誘っても全然相手にしてくれなかったけど、今日こそは良いよね!」


 咲子はゲームコントローラーを俺に手渡しながら言う。


「本当に久しぶりだけど、やってみるか…」


「そう、来なっくちゃ!」


 2人でゲーム(ワークカート)をやり始める。


 ……


「う~ん、昔からコントローラーは殆ど変わっていないはずだが……」


 やはり過去にやった事が有るゲームでも、バージョンが変わると、微妙に操作が変わったり、新機能が加わる。基本的な部分は同じ筈なんだが、頭で思う様に操作は出来ない。


「いぇい!」

「また、1位!!」


 ワークカートをやり込んでいる咲子は、要所、要所を把握しているので、軽々とキャラクターの乗ったバギーを操っていく。


「あぁ、また、甲羅ぶつけられた!」


 俺と咲子以外のキャラクターはCOMコンピューターが動かしているが、俺はそれにすら苦戦している。


「ふぅ、やっと、ゴール出来たけど4位か…」


「お父さん! どんまい!!」


「だけど、だいぶ勘を取り戻してきたぞ。次で巻き返す!」


「はは! がんばってね!」


 上機嫌な咲子。

 そのまま、ワークカートを続ける……


『ブォ~、ブィ~ン、―――』


「よし、雷ゲット! くらえ!!」


 ゲーム画面に雷が落ちて、俺以外のキャラクターが小さくなる。


「あっ、やば、お父さんに抜かれちゃう!」


 ここで初めて咲子が動揺を見せる。


「う~、あ~~、抜かれた~~」


 咲子が操っているバギーを、俺のバギーが追い越す。


「よし、初めて1位に上がった!」


 しかし、まだレース中盤。このまま逃げ切れる訳がない。

 それでも、その間に離す。時間が経ち、キャラクターも通常の状態に戻る。


「中々やるね。私も本気出すか!」


「えっ、今まで本気じゃ無かったの?」


「そりゃあ、そうよ。様子見ていたんだから!」

「だけど、お父さんがここまで出来るなら、私も本気だそう!」


 そう言って、咲子はコントローラーの握り方を変える。

 そうすると、だいぶ離したはずの、咲子のバギーがどんどん追い付いて来る。


「なにを~、こっちだって負けんぞ!」


 追い付いてくるバギーを、こっちも頑張って引き離そうとする、しかし……


「ごめんね、お父さん。勝負は非情なの!!」


「あっ、こら、咲子やめろ!」


 咲子の操るバギーから追撃甲羅が発射される。相手に当たるまで追撃してくるやっかいな甲羅だ。


『ドカーン!!』


 俺の操るバギーは逃げるのも空しく、追撃甲羅によって撃破されてしまう。その横を咲子の操るバギーが追い抜いていく。

 今回のレースも咲子が1位、俺は何とか立て直したが3位で終わった……


「まあ、ゲームだからな…」


「うん、ゲームだしね♪」


 ゲームで負けて腹を立ててしまったら、大人では無いが悔しい感情は有った。


「次は負けんからな!」


「どんと、こーい!」


 笑顔で喋る咲子。俺とのゲームが余程嬉しいのだろうか?

 それから2時間近く、咲子と対戦ゲーム(ワークカート)を楽しんだ。

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