第9話 そうめん

 何事も無くバスはバス停に着き、徒歩でアパートに戻る。


「ただいま~」


 誰も居ないのに声を掛けて入る咲子。まあ、母さん達の家なら誰かは居るだろうし、気にしない事にした。


「うぇ~、やっぱり暑いね!」


 買い物袋を台所に置く早々、咲子が俺に声を掛けてくる。


「エアコン付ける前に一度、窓開けた方が良いな」


 部屋の窓を全て開ける。

 窓を開けると、涼しい風が『サーッ』と入ってくる。


「わぁ、お父さん涼しいね!」


「うん。もうすぐ秋なんだな…」


「お父さん……詩人のつもり?」


「いや、言って見ただけ」


「そっかあ……私、ご飯作る前にシャワー浴びてくるね!」


「あぁ、ゆっくりな」


「うん」


(何とか、無事に終わったな……)

(咲子が来てまだ2日目だが、この先の展開が全く読めない……)

(取りあえず。何時も通り過ごすとしよう)


 咲子がシャワーを浴びている間、俺は洗濯物を取り込み、軽く掃除機を掛けたり普段通りの家事を行う。

 窓を開けているため、今日も外からは元気な蝉の声が響いてた。


 ☆


 その日の晩ご飯は、咲子が宣言したとおり、咲子が晩ご飯作りをしてくれた。

 今晩も『いただきます』をして、晩ご飯が始まる。

 今日の晩ご飯はそうめんと、惣菜コーナーで買った天ぷら類の揚げ物、冷やしトマト。 

 咲子は元気良く、大きな器に入っているそうめんをすくい、めんつゆに浸け、それをすする。


『ズルル~~』


「うん。初めての割には良くできた方だ!!」


 咲子自身でそうめんを茹でて、それをすするそうめん。

 さぞかし美味しいのだろう? 

 咲子はご満悦な顔だ。


「どれ、どれ」


 俺もそうめんをすくい、めんつゆに浸けて『ズズ~』とすする。


「うん」

「湯で加減も丁度良いし、中々良いじゃないか!」


「えへへ、ありがとう~。裏面通り作っただけだよ!」


 素直に喜ぶ咲子。

 大きな器に入ってるそうめんは、瞬く間に無くなっていく……

 そうめんなので、何時もより早く晩ご飯は終わる。

 自分1人の時は、絶対そうめんを晩ご飯にしない。麺類は直ぐにお腹がふくれるし、そうめんをつまみにして酒は流石に飲めない。


 晩ご飯の後の後片付けも『量が少ないから、私がやる!』と言って片付け始める。

 咲子が後片付けをしている間に、俺は先にお風呂に入る。


 ……


「ふぅ~」


 風呂で今日1日の汚れと。疲れを落としさっぱりする。

 風呂から出て、居間のクッションに腰を下ろすと、咲子がやって来る。


「はい、お父さんどうぞ!」


 すると咲子が缶ビールを持ってきてくれる。


「おぉ、ありがと!」


「お父さん。片付け終わったから、私もお風呂入ってくるね!」


「分かった。後、片付けありがとう!」


「うん!」


 咲子は風呂場の方に向かう。今日はあまり飲む気は無かったが、折角持って来てくれたんだから飲む事にする。

 晩ご飯がそうめんだったため、今日はさほど酒は飲んでいない。

 缶のプルタブを開け、ビールを缶から直接飲む。


『ゴキュ、ゴキュ、ゴキュ…』


「ぷは~~」


 やはり、風呂上がりのビールは最高だ。

 テレビを付け、適当にチャンネルを合わす。丁度、プロ野球が中継されていたのでそれを視聴する。


「ビールとナイター中継。気分は球場気分だな!」


 そんな事言いながら缶ビールを飲み、野球中継を見る。

 前は贔屓のチームが居たが今は無い。だから、どちら勝っても負けても関係はない。本当に気分だけを味わっている。

 しばらくすると咲子が風呂から出てきた。


「あれ、めずらしいね。野球見ている」


「たまたま中継していたからな」


「ふ~ん」


 そう言いながら、咲子は俺の真横に座るが……


「近すぎないか?」


「そう?」

「私も野球観戦ごっこだよ! 球場の座席狭いもんね!!」


 球場の外野席なんかは、芝生や只のベンチの所も多いが、咲子は本当に詰めて座った。

 寝間着の薄いジャージズボンを履いては居るが、それでもやわらかい太ももが、ぴったりと俺の体に密着されている。


「咲子……」


「お父さん……どう? 球場気分でしょ!」


 咲子はにやけ顔で聞いてくる。


「どうと言われても、熱気が伝わって暑い…」


 風呂から上がったばかりの咲子。エアコンが効いているとは言え、まだ、咲子の体全体がポカポカだ。


「そうだよね。こんなに近いもんね。でも、私なんかもっと熱いんだよ……」

「本当に熱い…」


(これは、やばい展開か…)

(まさか、こう来るとは思わなかった。この状態で咲子がもう1歩踏み込んで来たら、さすがの俺でも―――)

 

「!!」


「あ~、やっぱり暑い! ごっこおわり!!」


 咲子は声を上げ、ぱっと体を離す。


「風呂上がりに、こんな事はやるもんではないね!」

「さて、ジュース持ってこよ!」


「……」 


 俺は思わずポカーンとする。


(もしかして、俺遊ばれている?)


『これでナイター中継を終わります』

 野球中継も最後の方は殆ど見ずに終わってしまう。


「あっ、お父さん。チャンネル1番に変えて! 見たいドラマ有るから!!」


 ジュースを取りに台所に行った咲子が声を掛けてくる。


「あっ、あぁ」


 見たい番組は無かったので、チャンネルを変える。そして、コップにジュースを注いだ咲子が戻って来る。


「どうしたの?」

「ボーとしちゃって、酔ちゃった?」


「いや、別に…」


「そう…」


 先ほどの事は何事も無かったように、今度は間隔を開けて普通に座る咲子。


(俺の考え過ぎなのかな? まさか、娘を異性として認識し始めている!?)

(昨日、あんな大口を叩いて起きながら、たった1日で翻弄されてどうする!)


 チラッと咲子の方を見るが、普通にドラマを楽しんでいる。


「♪~~」


 器用にドラマを見ながら、スマートフォンを触っている。


(俺には、小春(妻)が居るのに近親相姦何てしてしまったら、2度と小春に顔を合わせられない!!)


 俺は色々考えて、動揺していると……


「本当にどうしたのお父さん? 本当に酔ちゃった!?」


 合間のCMの時、咲子は様子を伺ってくる。


「いや、大丈夫だよ。ちょっと考え事をしていただけ…」


「良くわかんないけど、お仕事の事?」


「いや、大丈夫。整理が着いたから!」


「良かった~! 顔が色んな方向に向いていたから心配したよ。あと少しでお母さんに電話する所だったよ」


「母さん!?」


 小春の名前で胸が『ドキッ』とする。


「そうだよ、お母さんだよ。後、誰に電話するの?」


 一瞬真顔になる咲子。


「それでね、お母さん!」

「お父さん~~が、壊れた~~~って電話するの!」


『てへっ』の顔で喋る咲子。悪気は無いのだろう。


 気を遣ってくれてるのか、小馬鹿にしているのかが気には成るが……

 その後は、一応平静を取り戻し、一緒にテレビを見る。内容を知らない俺に対して色々解説してくれる。親切な娘だ……



 咲子の心の中……

 

『お父さん。女の子に対して、全然免疫無いね!』

『ちょっと太もも当てただけで、あんなに動揺しちゃって可愛い!』

『この調子なら、お父さんを完全に振り向かせること出来そう!』

『お母さんには悪いけど……』


 私が、1人だけで来たかった理由。

 それは、お父さんを独り占めするため。

 好きとかの感情では無くて『独占したい!』って、私変な子かな?


『でも、この間がチャンス! 一杯甘えよう!!』


 ……


 ドラマとバラエティ番組を見終わった後は、咲子は寝室に成って居る部屋に行き、俺は少し雑用と、母さんに近況をメールで連絡してから寝室に向かう。

 案の定、布団は1つしか敷かれてなくて、今日も一緒に寝る。俺が布団に寝転んだ時、咲子はもう寝息を立てていた。


(起きて待っているかなと思ったが、疲れたんだろうな……)


 咲子の少し乱れているタオルケットを正し、俺も寝る。

 長い1日が終わり、また明日がやってくる。

 明日はどんなハプニングが待っているのだろうか?

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