第1話 咲子

 8月中旬……。世間ではお盆休みの真っ只中。

 俺(父)は駅の改札付近で娘が来るのを待っていた。


(たしか、次に来る電車のはずだが……)


 昼下がりの駅の改札。地方都市の駅だけ有って人の往来は結構多い。ベッドタウンの町だけ有って、その中核都市に向かったり、そこから帰ってくる人が殆どだろう……

 そして、改札付近に1人だけ、“ぽつん”と立って居るのも何だか恥ずかしい///


 最近は電車に乗ること、人との待ち合わせも殆ど無かったため、この待つ時間が何とも言えない気持ちになる。時折、すれ違う人のチラ見目線が非常に気になる。只の自意識過剰だと思うが結構辛い。


 それからしばらく時間が経つと、改札から人がゾロゾロと出て来た。改札の上に表示されている電光表示板を見ると、娘が乗っているはずの電車が到着している。

 降りてくる人がそう多くなかったので、俺は直ぐに娘を見つけ、また娘も気付いたようだ。改札を抜けた娘に声を掛けながら俺は近づく……


「お疲れ、咲子。道中迷わなかったか?」


「お父さん! 向かえに来てくれてありがとう!!」

「平気、全然迷わなかったよ!」


 ツインテールの髪型に少し大きな瞳。童顔さがやや残る娘が明るく返す。今時の女の子のファションは俺には良く判らないが、ロゴTシャツにスカートパンツ。肩には少し大きめなバックを掛けていた。


「……どうしたの? 私の事ジロジロ見て?」

「何か付いている?」


「まあ、可愛いけど……少し幼いかな…」


 すると、咲子は急に顔が真っ赤になる。


「お父さん!! いきなり何言い出すの!?」


「俺は今時のファッションは全くの無知だが、もう少し大人っぽいのを着た方が良いぞ!」


 俺は思わず咲子にそう言ってしまうが、もちろん咲子は反発してくる。


「良いのよ! 私はこの恰好が良いと思っているんだから!!」


 当然、咲子は少しむくれながら言ってくる。


「まあ、ケチを付ける気は無いが、○学生に間違われるぞ!」


 俺は笑いながら言ってしまう。


「すいませんね! 子どもに間違われそうで……私だって後、10cmは欲しかったよ!」


 からかいすぎたか、今度は完全にむくれてしまった。


「まぁ、でも…父さんは咲子位の背丈の方が好きだがな……」


「それ褒め言葉に成ってない! 他の人が聞いていたら、只のロリコンだよ」


「いや~、咲子の口からロリコンの言葉が出てくるとは思わなかったよ」


「だって、今の情報社会。簡単に何でも判るんだよ」

「言葉の意味なんて、goggleで一発だよ!」


『エヘン』と言わんばかりの顔をする咲子。えらいのはでgoggle有って咲子ではない。しかし、咲子の機嫌は少し直ったようだ。


「まぁ、この話はお終いにして。折角だし、家に行く前に観光案内でもしようか?」


「んっ、観光?」

「……今日はちょっと疲れたし、お父さんの家に早速行こうよ!」


「そうか……まあ、そうだよな。長旅で疲れているだろうし。なら帰るか」


「うん!」


 駅近くの駐車場に止めた車に、俺と咲子は乗り込んで、俺は車を走らせる。咲子の着替えとかの荷物は、前日に宅配便で仮住まいの家に届いている。


「家に行く前に、ホームセンターに寄るから」


 助手席に座っている咲子に話し掛ける。


「ホームセンター? 良いけど、どうして?」


「食器とかが足りないから……後、日用品かな?」


「ふ~ん」


 家近くに有るホームセンターに寄る。

 此所のホームセンターは、俺が単身赴任で来る、少し前に出来たらしく、店舗面積も結構大きくて品揃えも豊富で有り、駐車場も広めで有る。その駐車場に車を止めて2人で店内に入る。


「へぇ~、まだ、新しそうなお店だね。お父さん!」


「半年位前に、出来たらしいよ!」


「やっぱり、新しいお店は良いわね!」


 咲子は店内の回りを、きょろきょろ見ながら歩く……物珍しのだろう。


「まずは、食器から買っていくからね!」


 俺は咲子にそう言いながら、食器が置いてある場所に向かう。


「……で、何の食器を買うの?」


 食器コーナーに着いた途端、咲子が不思議そうな顔をしながら俺に話し掛けてくる。


「もちろん、咲子が使う茶碗とかの食器だよ!」


「えっ、えっっ!!」

「私、1週間位しか滞在しないよ!!」


 わざとかどうか判らないが、咲子は素っ頓狂の声を出す。


「知っているよ!」


「じゃあ、わざわざ買わなくても良いよ。勿体ないよ……」


 咲子は少々困った顔をしながら言う。


「と言われても……。誰かが来る予定なんて無かったから、ほぼ自分の食器しか無いんだよ」

「流石に娘を、紙皿と紙コップで持て成すのは……」


 すると咲子はため息を付く。


「はぁ~」

「事前に言ってくれれば持って来たのに……」


 咲子は呆れ声で言う。


「でも、父さんは、咲子が気に入った食器を使って貰いたかったんだ」

「ほら、この丸皿。可愛らしいデザインじゃないか!」


 俺は目に付いた丸皿を棚から持って、咲子にアピールするが……


「うん。可愛らしいけど……だけど、無駄遣いはやっぱり駄目だよ!」


「父さんにとっては、無駄遣いでは無いんだけどな…」


 しかし、咲子はそれを遮る様に言う。


「私から見れば無駄遣いなの!!」

「私が帰ったら、今日買ったお皿達が、全部荷物に成るでしょ!!」


 咲子のはっきりとした声が店内に響く。声帯の調子は絶好調見たいだ。

 しかし、周りにいた人達は何事かと思い、こちらの方を窺っている様子だ。


「さっ、咲子、周りに響いている」


「あっ、ごめん……ちょっと、ムキになっちゃった」


 咲子はその後、無言で食器コーナーを見つめているが……


「でも、流石に食器が足りないのは仕方ないから、最低限のは買うしかないね…」

「今からお母さんに頼んで送って貰っても間に合わないし……」


 咲子はそう言って、食器コーナーの一番安い食器の何個かを買い物カゴに入れていく。

 殆どの食器が、誰でも使える無難の柄ばかりだ。もう少し、好みを主張しても良いのに……。母さんの教育が良いのか咲子は倹約家のようだ。


「お父さん。これだけあれば足りる?」


「丸皿、茶碗、小鉢、お椀、コップに湯飲み。うん、大丈夫」


「じゃあ、食器は良しと! 後は大丈夫?」


「日用品は……まあ、今度にするよ」


「じゃあ、お会計だね!」


 咲子は、レジの方に足を向けて歩いて行く。


(あんなにてきぱきしていたっけ?)

(昔から変な行動力は有るからな……)


 ホームセンターでの買物も済ませ、車で俺の家に向かう。此所から車で、数分で家に着く。車は町中を抜けて家に向かっていった。

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