BODY LAN gauge -ボディーランゲージ -

アリエッティ

第1話 神の祟り

 人は誰しも欠けた部分を持っている。

しかしそれは精神、ないし性質に癒着したものが殆どであり補いようのあるものばかり。


ならば物理的な欠陥ならばどうか?

バランスをもって構成された身体の一部や臓器の一片が不足していれば、補うものは単純にそれに変わる形代。


神々はその昔外界から人々を見下げ観察し導きを与えていた。しかし動向はまるで変わらない、人々は愚かなままだったのだ。


とある神が考えた。

『暴虐が止まらないならば自由を奪おう』

四肢を捥ぎ臓器を幾つか潰し極端に弱体させ生気を削いで安寧をもたらそうと。


 初めは世界の調和を保つ儀式だった。

しかしそれは次第に神々の娯楽となり、気が付けば人類の数は凄まじい減退を見せていた


神々の祖であるゼウスはこれを非とし封印しようとしたが、完全に鎮めればまた愚かな行為は数を増し悪しき世界が蘇る。


「………仕方ない。」


ゼウスはこの凄惨な儀式を、奪った身体の部位に代わりに神を宿す事を条件に200年に一度だけ人々に与える事を決めた。


この一連の儀式を天界では『神憑き』と呼ぶ。


➖➖➖➖➖➖


2021年1月、とある祝日


「..はぁっ、やっぱ来なきゃよかった..。」

 羽織袴の派手な出立ちの青年が肩を下ろし奪った浮かない顔で溜息を吐く。周囲には似たような、もしくはより派手な出立ちの羽織袴の連中が騒ぎ立てながら談笑している。


「大体なんで普通に成人式開いてんだよ、ウィルスとか平気なんですか?

..馬鹿は風邪引かないって言うけどな。」


勝気な姉に勧められた半ば強引に成人式参加させられた雛藤ひなふじアトムは人付き合いがあまり好きでは無くロクに友達がいない為、この場を酷く場違いだと考えている。


「..俺の事知ってる奴いんのか?」


「あ!

お兄ちゃ〜ん!」 


「ん?」

甲高い女の声、当然同級生に女の友達はいない。ならば誰だと声のする方へ顔をやると、こちらへ大きく手を振り近付く小さな女。


「お前‥あん時の?」


「そうだよ、カレン!

忘れちゃってないよね?

わたしは覚えてるよ、お兄ちゃんの事!」


以前近所の飼い犬にちょっかいを出し追いかけ回されていたところをアトムに助けられた見かけによらずタフな娘である。


「ちょっとカレーン?

何処まで行ってるのよ、追いてかないで!」


「あ、お母さん!」 「..お母さん?」

 人混みを掻き分け現れたのは派手な色の巻き髪をした振り袖の女、カレンの言葉から察するに母親らしい。


「‥あんた、雛藤?」 「‥マジかよぉ..。」


カレンが母親だという女はアトムの知り合いでもあった。以前の同級生、高校以来だ。


「..ウチの娘になんかよう?」


「そっちから近付いて来たんだよ。

..突然中退したと思ったらこういう事かよ。」


「お母さーん!

この人ね、前にわたしを助けてくれたんだよ」


「………そうだったの、感謝しなきゃね。」


宮隈アリスは高3の春に学校を中退した。

元々派手な生徒だったが連んでいただけ、周囲が前科の付くような事をしても彼女だけは頑なにしなかった。存在だけでもアトムにとっては怯える要因であったのだが。


「..あんた、友達いないのに成人式来たの?」


「お前はどうしたんだ?

いつもの知り合い知り合い一人もいないけど」


「...もう仲良くないよ。

私が学校辞める事になったら連絡一つ寄越さない、娘が行きたいって言うから来ただけ」


「……似たようなもんだ。」


酷く力の無い言葉だった。

裏切られた悲しみというよりは理解した諦め辞めた深い理由は知らないが、それを聞く理由も知る理由も無い。いや、その理由を持ってはいけないと思った。


「助けてくれたんだね..前に。」


「偶々通りかかっただけだよ」

偶々通りかかり、少女が犬に襲われていただけである。


「わーすごーい!」

カレンが会場を挟んだ道路の方を見ている。

道路では、成人になりきれない暴人達が、派手に着飾ったクルマを動かし乱痴気に騒ぎ立てては注目を浴びようとしていた。


「なにアレ..」


「友達じゃないのか?」


「バカ言わないで、あんなの大嫌いよ。」


「わーいわーい!」

アリスの言葉とは裏腹に、興味を持つ示したカレンは道路に飛び出し車を見始める。


「あ、ちょっと!

カレン危ない、戻って!」

小さな娘が目を輝かせている事に気が付いた乗車成人は、暴威に拍車をかけ車を大きく旋回させるハンドリングを見せる。


「わーすごーい!」


「ヒャヒャヒャヒャ!」

気分を良くする乗車成人は更に速さを増し旋回する。周囲のギャラリーは距離を取り警戒するがカレンの目はより輝きを増す。


「すごいよお兄ちゃんたち!

わたしもそこに乗りたいなぁー!」


「バカ近付くな!」


危険を顧みず旋回する車に大幅に近付いたカレンに容赦なく車が速さを帯びて迫る。車のバックには左右に大きな旗が装着されているこのままでは衝突どころか、大きな裂傷を伴う事態に発展する。


「カレン離れなさい!」


「お母さんわたしも乗っていい?」

アリスの忠告も、好奇心には及ばない。

自ら助けに行こうにもカレンとは距離があり間に合う保証は余り無い。


「いいから直ぐに車から離れて!」

焦るアリス、大きな声を出すのがやっとだ、周囲を見ても助けに入る者はいない。一時も気を抜けない状況だが、とある事に気付く。


「..雛藤、どこ行った?」

隣で見ていたアトムの姿が無い。

まさか帰った?

関係無いと知らないフリをして居なくなった


「本当に偶々だったんだね、クソヤロー..!」

呟いた数秒後、大きな衝突音がした。


「カレンっ!」

人を掻き分け道路へ出ると、倒れていたのはカレンでは無くカレンを抱く別の人物。


「痛ってぇ...。」


「雛藤⁉︎」


左腕でカレンを抱き倒れ、右腕は車の速さで大きく振られた旗によって切断され身体とは離れた場所に吹き飛んでいた。


「お兄..ちゃんっ...!」


「..お前、よく追いかけられるな...。」


暴れた車は咄嗟に両者を避けようとしたようだが避けきれず横転し、中の成人3名は頭から血を流している。


「す、すぐに病院にっ!」


「..なんてこった、姉ちゃん許さねぇ...。」

成人式が葬式になるところだった。

そんな笑えない冗談が、彼の人生を狂わせる


彼もまた、追われる身になるのだろうか..。





「.......見つけた...。」


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