視線

翠雨

第1話

カフェの時計に視線を逸らす

思わず「あっ!」と声が漏れてしまった

「どうしたの?」

「そろそろ時間だよ。友達来るんじゃない」

「そうだね」

「私もそろそろ行かなきゃ」

「ふーん」

“いらっしゃいませ‘’の声がする度

入口を気にしながら、私は急いで身支度を始める。

何度目かの“いらっしゃいませ‘’で、彼の友達がこっちに向かって手を上げて向かって来る。私は彼らに頭を軽く下げた。

彼に視線を戻して「今日はゆっくり楽しんできてね。」コートとカバンを持って急いで行こうとした時、腕を掴まれた。

「え!なに?」

「忘れ物」

彼の傍らにマフラーを見つけて、取ろうと手を伸ばした時、引き寄せらてしまった。

「忘れ物」

「ありがとう」

「違う」

「じゃあ、行ってきます?」

「違う、忘れ物」

ちょっと考えてイタズラを思いついた。

私は彼の耳元に“キス‘’をした。力がふっと抜けた彼に

改めて「行ってきます」と言うと、足早に待ち合わせに向かった。




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