第3話 天域
奈落に落ちていく。
恐怖によって尖った聴覚が、ゴーゴーという体が風を切る音を伝えてくる。
底のない深みに飲み込まれていく感覚といつ費えるかもわからない命に対しての不安が頭の中を覆いつくす。
何か心の支えになるものが欲しいのか、視界は真っ暗闇の中を揺れ動く。
散り乱れる視界は淡い光を放つ【魔女の角】を発見するとそれを希望と見たのか視点を留める。
そうすると震えた心が何でこんなことになったのかを思い出した。
彼女を確実な死から逃れさせるために引きずり込んでしまったのだ。
このまま彼女が落下死しても忍びない。
体重を移動させて彼女の下に回り込み、クッションになるようにする。
これで落下による死亡からは彼女を逃れさせることが出来ると思うと、浮遊感に襲われ、足に何か地面のようなものを踏みしめる感覚のようなものが走る。
何事かと思うと暗闇の中に灯がいくつも生じ始め、精緻な装飾を施された神殿が現れた。
「こ、これは……!」
七つの柱が供えられた神殿。
それはおとぎ話に出てきたダンジョン【神域】の入り口そのものだった。
しかし目の前にあるというのにそれがここにあるということを僕には信じられなかった。
この迷宮はおとぎ話によると天に届く丘の上にあったはずなのに、なんでよりにもよって誰にも気づかれないような崖下の奈落に……。
おとぎ話ではまるで歓待するような様相で冒険者たちを迎えいれたという姿はそこにはない。
そこにあるものは来るものを何人たりとも引きずり込んで離さないような陰鬱な黒塗りの門だけだった。
上には登破出来るはずのない遥か遠くの断崖、下には底の見えぬほど深い奈落。
戻る手立てなど存在しない。
僕にある唯一残された選択肢は目の前に生じた門の内に向けて進んでいくことだけだ。
不自然に空中に浮かべられた魔女を両手で抱えると門の向こう側に歩を進める。
門の先は逆光で見えないがさわやかな風が頬を撫ぜるのを感じる。
更に歩を進めていくと太陽が門の上に隠れて、扉の向こう側の風景が露わになった。
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