2/5
息を潜めながら3階フロアを階段側から覗き込む。事前に渡されていた図面通り、カウンターで廊下とフロアが仕切られている。このフロアには3人居る様だ。
会議用テーブルでバリケードが作られており、敵は多分向こう側で迎撃をしようとしているのだろう。お互いに姿を見せない限り、銃撃戦にはならない。出来る限り静かに仕留めたいところだが、ここからはもう無理かもしれない。
カウンターとカウンターの切れ目、人の出入り口付近まで静かに近付きリアンが手持ちの呪符を床に置く。右手のグローブを外し、カーゴパンツのポケットに仕舞うと再び呪符に手を添えた。
「──」
小さく呟く様に解放宣言をする。呪符を中心に水が涌き出る。カウンターの内側半径3メートルくらいの扇状の水溜まりが出来た。
次に呪符を出したのはアイゼンだった。左手のグローブを外すとさっきリアンが置いた位置に呪符を置く。水溜まりの上に置く形となるから呪符が濡れた。リアンの右手にはまた別の呪符、左手には手榴弾の様な物。右手の呪符をアイゼンの左手の甲の上に置き、右手も添えた。
準備は出来た。
手榴弾の様な物をアイゼンに見せ、お互いに頷いてからリアンはそれをゆっくり大きく放る。薄暗いフロアの宙をゆるい放物線を描きながら、バリケードと化した会議用テーブルの向こうへと向かって行く。カラン…と床に落ちる音がフロアに響いた。
「うわっ!マジか!」
「撤退!」
さすがに手榴弾はまずいと思ったのか、無防備に姿を晒しこちらに向かって来た。タイミングを計りまずはリアンが解放宣言を行う。その直後、丁度相手方3人が水溜まりに足を踏み入れた瞬間に次はアイゼンの解放宣言。
ビキビキ…と、辺りが凍り付いた。
相手方には何が起きたのか把握が出来ない。何よりもここで足止めされたら手榴弾が。退避したくも、足が床に凍り付いて動かない。故に冷たい床に揃いも揃って転倒した。
「申し訳ありません」
見上げれば笑顔のリアンとアイゼンが、揃ってハンドガンを向けていた。2人合わせて3発のペイント弾が発砲され、ここで3人が脱落した。
「因みに投げた手榴弾はダミーです。安心して下さい、爆発なんかしませんよ?さぁ、失礼します」
再びボディチェックが入る。1人のポケットからUSBメモリーを押収した。これで目的の半分を果たした。
──あと6人。
─────────────────
2階に下りる。2階フロアの窓には遮光カーテンでもひかれているのか、薄暗さすらなく闇。人の気配は感じない。だからと言って、誰も潜んでいないとは限らない。フロアの造りは3階と共通。そっと壁の影からアイゼンが様子を伺うべく少しずつ身を出した。
「駄目だな。暗くてわからない」
彼等の装備に暗視スコープや暗視ゴーグルはない。ここの人数が何人居るのか、それを炙り出さなくてはならない。この暗さを考えると相手側はこちら側を把握出来ると思って間違いないだろう。
「リアン、炙り出すぞ」
タクティカルベストから小さな金属の塊を取り出す。それを右手でしっかり持つと左手でピンを思い切り抜いた。そのままそれをカウンターの向こう側へと放る。リアンとアイゼンの2人は階段側の壁に身を潜め両手で思い切り耳を塞ぎ、目を閉じる。
少しの間ののち、このフロアに響き渡る衝撃音と閃光が潜伏していた人達を襲った。
フロアから相手方の呻き声が聞こえる。スタングレネードを使った事により、1階に居る人が上がって来る可能性は否定出来ない。2階を早く片付けなければならなかった。
2人は腕に取り付けたライトを点灯させフロア全体を確認する。スタングレネードの餌食になったのは2人。悶えながら身動きが取れなくなっていた。どうやら2階の人員は2人だけの様だった。2人の始末をアイゼンに任せ、リアンは残りの4人を片付ける算段を付ける。
ぱしゅん、ぱしゅん…と悶え倒れる相手方に容赦なくペイント弾を撃ち込む。彼等の所持品を改め、データらしき物がない事を確認した。
「アイゼン、お前ら本当に何なんだよ。9人がかりでお前ら潰して良いって言われたのに全然じゃん」
「アイゼンとリアンで組まれると、誰も勝てねぇな」
彼等の戯れ言聞き流しながら、アイゼンは次の行動に移る。もうサイレンサーは必要ない。それを外しポケットに仕舞う。2階の窓を開け下方確認。巡回見張りが居ない事を確認し、窓枠にぶら下がり地上へと降りる。リアンが階段で迎撃する。ならばアイゼンは反対側から挟撃し、階段へと追い込む。
──『アイゼン、お前ら本当に何なんだよ。9人がかりでお前ら潰して良いって言われたのに全然じゃん』
ふと、さっき言われた言葉を思い出す。『9人がかりで』と言った。アイゼンは『10人』と聞いていた。人数が合わない。教官が『9人』を『10人』と言い間違えたのだろうか。否、それはない。かと言って相手側が『10人』居るのに『9人』と言い間違えるのも不自然だ。両方の言い分を満たすポイントは1つだけだった。
──あと4人。
────────────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます