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──どうするか。
迷った末に始末を選ぼうとホルスターに手を掛けた。だが結局始末する事は出来なかった。少女が目を覚ましたのだ。
「…あ…」
とても始末出来なかった。多分、俺に隙が出来てしまっていたのだろう。一瞬で絆されてしまった。見えた瞳が綺麗な青紫だった。黒だらけの自分にはない色、ほんのりと灰色掛かった青紫。それと目が合ってしまった。もう始末は無理だと判断出来た。
ホルスターに掛けた手をそっと離す。拘束されて身動きが取れない少女を起こしてやり、声を掛けた。
「怯えなくて良い。俺は君を助ける。…名前は?」
明らかにこちらを不審に思い、怯えている。
「…なまえ、きらい」
名前が『きらい』な訳ではなさそうだから、本名が彼女にとって口にするのも嫌なモノなのだろう。
「歳は?」
「…15」
思っていたよりも上だった。それまで居た場所の環境がさぞかし悪かったのだろうか。少女は痩せて窶れて顔色も悪く、実年齢よりも幼く小さく見える。言葉もたどたどしい。何も学ばせて貰えてないのか、それとも国外から連れ去られて来たのか。はたまた両方か。
「どうしてここに?」
「わからない。おしこめられて、きがついたらここにいた」
「ここがどこか知っているか?」
「しらない!…こわい…」
「元居た場所に帰りたいか?」
「いやっ!」
軍服のポケットから小さなナイフを取り出すと、手足を拘束していたロープを切り、彼女を解放させた。
「…俺の所に来るか?」
「あなたはわるいひと?」
「悪いかどうかはわからない。君が俺を悪い人と思えば悪い人なのではないか?」
「…あなたのなまえは?」
「シュタール」
「…しゅたーる?…ありがとう」
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あれから11年、スミはずっと俺の傍に居る。
名前を嫌がったスミの為に『菫』と言う名を与えたのは俺だ。スミの瞳の色が綺麗な青紫だったから、アイオライトみたいだったから『菫』の名を与えた。
小さくて痩せていて窶れていたスミは、今や人を平気で騙せる程の良い女になった。アイゼンと共に知識をどんどん吸収し、様々な技術も習得した。代替わりで俺が東方管轄区管理課の責任者となった今、副官として置ける存在と成り上がった。
お互いに共依存なのは理解している。俺はスミが傍に居なければきっと生きては行けない。11年と言う歳月は、俺をスミに染め上げるのには充分過ぎる期間だった。
「スミ…」
スミが一緒に暮らす様になり、スミの部屋も用意出来る様に少し広い部屋へと引っ越した。自分が好きに使える空間を得られて、とても良い笑顔で喜んでくれたのを覚えている。だがその部屋で夜間スミが眠る事はなかった。1人で眠るのが怖いと言い、結局俺のベッドで一緒に眠る日々。寛ぐのには使っていた様なので、無駄にはならなかったと言え様。
「…スミ…──」
スミが20歳になってから、堰を切った様にお互いがお互いを求め身体を重ねた。1番最初に会った頃よりも健康的にふっくらとしたスミは、心地良い程に温かかった。 今でもお互いを求める。自分達は良い意味での共依存だと自覚している。自分がスミに支えられていると言うのに、『スミには自分が付いていてやらなくては』とつい思ってしまう。もしスミに何かあったら、果たして俺はどうなるのだろうか。
俺は存外強くない。スミが傍に居てくれるから虚勢を張れる。
──スミにもアイゼンにも、格好悪い姿は見せられない。
本当に小さなプライドだけで生きている。 27歳になったスミは、今でも俺の隣で眠っている。そのさらり…とした黒い髪を撫でる。
──明日も俺を生かしてくれ。
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2020/03/29/EX001
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