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 ヒトヨンヨンマル。本日の天候、曇りから雪雲。天候悪化をしてもおかしくはない。視界、良好とは言えず。

 …ピッ…。耳に装着したコンパクトなヘッドセットから無線を繋げる。


「第6小隊、総員に告ぐ。本日の戦闘は演習ではあるが、各員全力を持って敵小隊の掃討に努めよ。ヒトゴマルマルより演習を開始する。各員持ち場にて準備に努めよ。以上」


 北方地区に存在する市街地戦を想定した軍事演習施設、今回ここで彼等は戦闘演習を行う。

 相手は他地区司令部の遊撃班。リアンが率いる部隊は30人の前線及び警備部隊に対し、相手は15人の遊撃班だ。人数に差はあるものの、相手は潜伏及び撹乱、移動攻撃に長けている。それぞれ長所短所が違う為、どう事が進むかわからない。


 演習上での決め事としては、銃器は模擬戦闘用、銃器の弾は実弾ではなくペイント弾を使用、模擬刀剣は使わず模擬ナイフのみ許可。その際には軍服に取り付けられたペイントパックを狙う事。攻撃目的でなければ施設内に置かれた物を使ってよし。

 呪符に関しては対人使用はどんな呪符も不可。対物使用は人的被害を出さない範囲での使用は可。故に実質的に考えれば演習において呪符の使い所はないに等しい。

 勝利条件は相手を全滅させるか、それぞれの登録指揮官を討ち取るかのどちらかだ。

 演習故にどうしても多少の負傷は避けられないが、実践の様な負傷はさせない事が前提となる。


 リアンとアイゼンは共にいくつか決めたポイントとなる建物のひとつに潜伏していた。昼の市街地戦には慣れていたが、今日は一筋縄ではいかない。外の風景は白かった。


「雪、これから降りそうだな。リアン、大丈夫か?」


 建物の隙間から外を窺ったアイゼンがぽつりと呟く。空は暗く雲は厚い。外は雪景色、演習施設全体が雪に覆われている。これは厄介だ。足跡が残る故にどうそれを扱うか、それが重要となる。


「この程度なら問題ないよ。市街地だし」


 演習戦が北方地区に決まった時点で彼等はまず雪を想定した。相手は遊撃班、間違いなく身を隠しながら進撃して来る。それならこちらは下手に進撃するよりも迎撃に徹底する方が良い。彼等は雪の地を利用すべく事前に地図と図面を入手し、予定よりもかなり早い段階で施設に入り布陣した。

 それは功を奏し、布陣が終わる頃には地に付いた足跡は目立たなくなっていた。はらはらと舞い落ち始めた雪を見る。幸い視界はそこまで悪くないしここは平地だと言う事と、この分なら吹雪くまではいかないだろう…と思いたい。


 30人の内、リアンとアイゼンは拠点となる建物に、15人を前線となり得る箇所に配置、12人を長距離狙撃と高所及び中層地からの偵察要員に振り分けた。残りの1人には全体が見渡せる場所からの補正指示を任せた。吹雪いてしまえば高所からの偵察及び狙撃は出来ない。どこで高所班の指示を変更するかが問題となる。地上で動くリアンとアイゼン、補正指示要員の1人はそれぞれの場所からどう人員を動かすか。


 リアンとアイゼンが時計を確認する。

 ヒトゴマルマル、演習開始。


────────────────


 …ピッ…。

『南エリア3高所より通達、敵、南エリア3Dにて確認』

 …ピッ…。

『南エリア3狙撃、了解』


 …ピッ…。

『南エリア5狙撃より通達、敵、視認せり。狙撃したが南エリア1F方面へと移動』

 …ピッ…。

『南エリア1前線、了解』


 …ピッ…。

『南エリア2前線より通達、敵、狙撃。被弾確認完了』

 …ピッ…。

「拠点了解。残り14人」

 …ピッ…。

『補正了解。現状このまま進めて下さい』


 …ピッ…。

『南エリア1前線より通達、味方1名被弾確認及び、敵1名被弾確認!』

 …ピッ…。

「拠点了解。残り13名。拠点より南エリア1・2・3前線に告ぐ。──」


 無線を介し、拠点と各員の報告と指示が飛び交う。被弾した兵士はもう演習行動も無線介入も出来ない。時間が経つにつれて、少しずつ無線が減って行く。


 …ピッ…。

『補正より。ターゲット候補を確認。拠点、動いて下さい』

 …ピッ…。

「拠点了解」


 無線が入り、リアンが腰を上げた。伽羅色の髪を隠すかの様にフードを深く被る。がちゃり…。普段は持つ事をしないスナイパーライフルを手にした。


「アイゼン、僕はどうしても勝利判定が欲しい」

「…あぁ、わかっている」

「だがそれは僕の手でも皆の手でもなく、アイゼンの手で取った勝利判定が欲しい。必ず来る。僕はサポートに回る。アイゼン、必ず取れ」


 リアンは拳を突き出した。それに応えるかの様にアイゼンも拳を出す。こつん…と、2人の拳がぶつかった。


「アイゼン、検討を祈る」


 滅多に使わないスナイパーライフルを持ったリアンは、拠点となるいつ屋根に積もった雪の重さで潰れてもおかしくない小屋から、外を警戒しつつ立ち去った。どうしても足跡が付くので直ぐに目的の場所には行かず、辺りを踏み荒らしてから予定していた待機ポイントへと移動した。

 残されたアイゼンもフードを深く被り、テーブルらしき物を倒し簡易的なバリケードを設置した。その後ろ側へ移動し、息を潜める。ハンドガンと模擬ナイフとリアンから貰った呪符が1枚、それが彼の装備だった。


 ──さぁ、来いよ。ユーディアルライト・グラス!


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