救出


(アルフ…気づいてくれたかしら…)


エミリアは現在、外務大臣のコリン・カータスが雇った男達に捕まり屋敷に閉じ込められている。


最初に攫われた時の誰が犯人であるか、追ってくる敵を見てある程度目処はついていた。しかし、確信と証拠がなく困っていた。


しかし、二度目に攫われる際に、男達がカータス家の紋章が入った剣を持っているのを見て犯人を確信した。


そこで、どうにかして手掛かりをと思い、アルフの外套の袖の裏に植物の実を潰して文字を書いて落としてきた。


袖の裏に書いてある名前なんて気づいてもらえるか分からないが、信じるしか無い。


(それにしても、コリンは誰から情報を得たのかしら)


この屋敷に連れて来られてから、一度コリンがエミリアの元へ来た。そして、エミリアに呪いを解いてほしくはないか?と言ってきたのだ。


エミリアに呪いがかけられていることは、ごく一部の者しか知らされていない。コリンが知るはずは無いのだ。


だからエミリアは、呪いとは何のことかとすっとぼけてみせた。すると、コリンはまた夜に来るからそれまで良く考えるようにと言い出ていった。きっと公務に戻るのだろう。


(もしかして、この呪いをかけた人達と繋がっているのかしら)


もう少し情報が欲しい、そう思っていると扉が開く音がした。


(誰?)


振り向くと、そこにはコリンの姿が見えた。

エミリアとしては会いたくないけど、情報の為に会いたかった人ではある。


「ご機嫌うるわしゅう、王女様」

「麗しくないわ」


ツンとした態度を取ってしまった。

情報は聞き出したいが、優しくできそうにない。

そんなエミリアの気持ち知ってか知りずか、コリンはニコニコしながら近寄ってくる。


「王女様の呪いは、現在どれ程まで広がっていますか?」

「呪いなんて知らないわ」


エミリアは近寄ってくるコリンから遠ざかる。


手は後ろで縛られているが、足は自由なのが幸いだ。しかし、逃げるエミリアを追いかけるように、コリンはどんどんと近づいてくる。


「知らないふりをしても無駄ですよ。ベヴァン一族から受けた呪いのことです」

「ベヴァン一族…?」


聞いたことのない一族だ。

コリンはそいつらと繋がっているのだろうか。


「ええ。いくらランドルフ家の血があっても、呪いはだいぶ広がったのではないですか?」


そう言ってコリンがエミリアに手を伸ばしてくる。エミリアはそれを避けようとするが、何かに躓き後ろに倒れてしまった。


(なっ、何!?)


倒れ込んだ先は柔らかく、痛みはない。どうやらベッドの上に倒れ込んだようだ。コリンから遠ざかろうとして、部屋の隅のベッドまで来てしまったらしい。


立ち上がろうとするが、倒れているエミリアの上にコリンが覆いかぶさってきた。


「っ!?どきなさい!」

「確か、呪いは心臓を中心に広がるのですよね」


そう言うと、コリンはエミリアの首元に手を伸ばしてくる。逃げようともがくが、男性の力には叶うわけがなく逃げられない。


「や、やめなさい!」

「痛いことはしませんよ」


エミリアの首元のリボンが解かれた。

そして、ゆっくひと服を胸元まで脱がす。


「…っ!」

「おぉ…」


エミリアの胸から鎖骨にかけて、花のような模様が描かれていた。年々広がっており、今は上は鎖骨、下はヘソの辺りまでに広がっている。


「もぅここまで広がっているのですね」

「…あなた、ベヴァン一族とどういう関係なの」


見られてしまったものは仕方ない、出来る限り情報を引き出そう。そう思いコリンを睨みつける。


「完成している呪いを初めてみました」


コリンはエミリアの話が聞こえていないようで、じっくりと呪いの花を眺めながら触っていた。その顔はまるで何かに取り憑かれているかのようだ。


(き、気持ち悪い…!)


そもそも胸元を触らないで欲しい。

この状況をどうにかしなければ、そう考えていると、突然部屋の外が騒がしくなった。


「何事だ?」


コリンが顔を上げ、入り口に待機している男達に声をかける。しかし、男達も分からないようで困り顔だ。


(そんな事よりも、まずは私の上からどきなさいよ!)


嫁入り前の娘に何て事をしてくれるのだろう。段々と怒りが湧いてきた。


「部屋の外の様子を見てこい」


コリンがそう命令した瞬間、ドアが勢いよく蹴破られた。


「な、なんだ!」

「人だ!」


入り口にいた男達が慌てている。エミリアも入り口の方を見ると、見慣れたエメラルドグリーンの瞳と目が合う。


「アルフ!」


(あの手掛かりに気づいてくれたのね!)


アルフレッドが来てくれたことが嬉しくて堪らない。自分の今の状況も忘れて彼の名前を呼んだ。


しかし、彼は無反応だ。


(もしかして、まだ、怒ってる、、、?)


一瞬にして不安になる。

正体を隠していた事をまだ怒っているのかもしれない。まずは謝らなくては。


「アル…『何してるんだ』」


エミリアの声を遮りアルフレッドが喋った。

その目はコリンに向いている。岩壁を貫くような、そんな鋭い目つきで見ているので、コリンも怯えている。


(何してる、、、?)


なぜそんな事を言うのだろうか。


首を傾げながら、今の自分の状況を確認する。

コリンに押し倒され、上に乗られて服を首から胸元にかけて剥かれている。


…誰がどうみても、コリンに襲われている状況だ。


(こっこれは…!)


エミリアは絶望しながらアルフレッドの方をもう一度見る。彼は怒っているのか、いつもに増して冷たい表情をしていた。


(この状況…何て説明しよう…)


求婚してる相手に、こんな姿を見られたくなかった。


違うの、私は身持ちが堅いのよ、と弁明したかったが、今この場でその言葉が相応しいのか分からない。


そもそも、彼は何に怒っているのだろう。


エミリアは途方に暮れた。


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