ふたりの旅④
(こっこっこっこれは…どうしたらっ!!)
エミリアは顔を真っ赤にしながらオロオロしていた。
心臓もドクンドクンと大きな音を立てており、今にも飛び出しそうな状況である。
『動くな』
アルフレッドに耳元で囁かれる。
もう駄目だ、これ以上はエミリアのキャパオーバーだ。こちらは箱入り娘なので、刺激的なことは遠慮してもらいたい。
現在エミリアはアルフレッドの胸元に顔うずめている状態、そう、抱きしめられている状態だ。強く抱き寄せられているので、身動きが全く取れない。
先程までいつも通り二人で歩いていた。
少し雰囲気の柔らかくなったアルフレッドと他愛もない話をしていた。のだが、話の途中で突然抱きつかれた。
前触れもなかったので、エミリアとしてはビックリ仰天だ。結婚したいとは言ったが、順序を守ってまずは告白からしてもらいたい。
しかし、ここはただの林の中だ。彼を刺激する何かがあったのだろうか。
一人でアワアワしていると、今度は『追手だ』と囁かれ、状況を把握する。
(そういうこと…)
どうやら追手が来ていることに気づき、エミリアごと隠れるために抱き寄せただけらしい。心臓に悪すぎるので、先に教えて欲しかった。何だか無駄に疲れたような気がする。
「こっちには居ないぞ!」
「あっちも探せ!」
「隠れている可能性もある、じっくり探せ」
「痕跡がないかも確認を―――」
複数の男達が聞こえてくる。
今朝倒した男達とは異なる声なるので、新たな追手だろう。
(そういえば、私を狙っているの犯人は誰だろう)
王女と分かって狙ってい、かつ手練の者を雇えるだけの財力があるようなので、それなりの立場の者だとは思うのだが。
エミリアはう~んと悩む。何人か目星はつけているのだが、決定打に欠けるのだ。
ふと、服で隠れている胸元に目が行く。やはりこれがらみだろうか。
実はエミリアの体には呪いがかけらている。十二歳の時に謎の男にかけられた呪いだ。
ランドルフ家の血のおかげでまだ生きていられているが、年々呪いは身体を蝕んでいる。呪いの模様は心臓を中心に現在上は鎖骨、下はお腹辺りまで広がっていた。
お父様達が血眼になって呪いを解く方法を探しているが、今の所見つかっていない。
エミリアは女王になる気満々なので、長く生きたいのだが、正直あとどのくらい生きていられるのか分からない。
だから、早く理想の人と結婚しなければ。
ランドルフ家は一代に一人の子どもしか生まれない。
エミリアがもしも早くに死んでしまえば、家系が途絶えるという大問題が発生する。
(のんびりしてられないわ)
よし、と自分に気合いを入れ直す。
抱き合ったくらいで動揺してたら、いつまで経っても結婚にたどり着かない。これを良い機会と思い馴れよう。
とりあえずエミリアはアルフレッドの背中に手を回してみた。恋人どうしの包容はこういった感じだったはずだ。本で学んできたので知識はある、後は実践あるのみ。
ちにみにまだ恋人ではないが、細かい事はこの際放って置こうと思う。
『おい、何してるんだ』
困惑した囁き声が耳に届く。
顔を上げると、いつも通りの無表情だが困惑の色が滲む顔が視界に広がる。
こんなに間近で彼の顔を見たのは、初めてかもしれない。本当に整った顔をしている。つい、まじまじと見つめてしまえば、何とも言えない表情をされた。初めて見る表情であるが、一体どういう気持の顔なのだろう。
そんな事を考えていると、ある事が頭を過る。
(そういば私、数日お風呂に入ってない)
濡れた手ぬぐいで身体を拭いたりはしていたが、お風呂には入れていない。無論、頭も洗えていない。
(もしかして私…臭うんじゃ…!?)
だから何とも言えない表情をしたのかもしれない。
エミリアは慌ててアルフレッドから離れようと試みる。
が、急に動いたエミリアに驚きつつもアルフレッドはガッチリとエミリアを抱きとめ動けないようにしてきた。
『おい!まだ追手が近くにいるかもしれないんだぞ!』
抗議されたが、エミリアはそれどころではない。乙女のピンチなのだ。結婚したい相手に臭いと思われたくないという乙女心を分かって欲しい。
そんなエミリアの心の叫びは伝わる訳もなく、また動かないようにと、先程よりもガッチリと抱きしめられてしまった。密着度がアップして余計にピンチだ。
エミリアは絶望した。もうこれは、追手が遠くに行くまで離してもらえないだろう。
(行ったか…?)
アルフレッドは耳を澄ませて音を探る。
どうやら追手はこちらに気づかず行ったようだ。しかしまだ安心できないので、動かずに待機する。
今朝の男達の追手が来るだろうなと思っていたが、案外早くやってきた。
どうしようか悩んだが、丁度林に入ったところだったので、エミリアを抱きとめる形で草木の影に隠れ事なきを得る。
しかし、エミリアは何が気に食わなかったのか、モゾモゾと動き暴れた。ついでに一人で赤くなったり頷いたり青くなったりして忙しい。
本当に表情がよく変わる奴だ。
しかし、今は敵に見つからないように大人しくしていて欲しい。
そんな事を思っていると、今度は何故か背中に手が回った。何が始まったのだろうか。困惑しながら声をかけると、水色の透き通った目が見上げてきた。
(ガラス玉のような目だな)
思わず彼女の目をジッと見てしまう。やっぱり見覚えがある気がする。
しかし、向こうもジッと見つめてくるので、何だかいたたまれない気持ちになってきた。
そうこう考えていたら、突然彼女が身をよじり初めたので慌てふためく。追手がまだ近くにいるかもしれないので、暴れられて見つかったら元も子もない。
身動きができないよう、更に力を込めて抱き込むと、絶望したような目を向けられた。一体今度は何があったというのだろうか。
アルフレッドは困惑しつつも、追手の動きに耳を澄ませることに注力することにした。
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