行動開始──①
◆
「そうですか。まだ見つかってないですか……」
数日が経ち、何回目かの定期連絡をしていたが、これと言って明確な情報は得られなかった。
サノアは間違いなくアレクスに潜伏してるらしい。
けど、その行動は正確に掴めないでいた。
『面目ないです〜……』
「い、いえ。トワさんのせいじゃありませんよ」
『優しい言葉が突き刺さります〜……』
しかしトワさんは、さっきからずっとこの調子だ。
テイマーギルドは、文字通りテイマーが所属するギルド。
勿論、戦闘面の依頼を受けるが、人探しの依頼も多く請け負うことが多い。
そのギルドの長であるトワさんは、数日かけても対象を見つけられないことにへこんでるみたいだ。
「ま、まあ、俺がここにいる限り、サノアは何もできませんから。あっちが諦めるか、こっちが見つけ出して捕まえるか……時間の問題ですよ」
『ぐぅ……! し、しかしっ、それではテイマーギルドのギルドマスターとしての威厳がぁ〜……!』
いや、あなた元々戦闘特化で人探しできなそうじゃん……。
映像の向こう側で悔しそうに唸るトワさん。
それを見ていたクレアが、『ねえ』と声を掛けてきた。
『やっぱり、スフィアだけでも戻って探した方が早いんじゃないかしら? ここからは遠すぎて探知できないけど、アレクスに戻れば確実に見つけられるだろうし』
『そうですね。羽虫に言われるのは癪ですが、その方がよろしいかと』
『ちょっと! せっかく活躍の場を提供してあげようとしてるのに、その言い方は何よ!』
『あら、自分じゃ見つけられないという、自分の無能さを自己紹介しているのかと思いましたわ』
『はああぁん!? よゆーだからぁ! よゆーで見つけられるけど、コハクと離れたくないから譲っただけだからぁ!』
『ちょっ、今本音出ましたね!? 私だってご主人様と離れたくないんですよ! だからイヤです!』
『コハクの役に立ちたくないって言うの!?』
『それなら羽虫が行けばいいじゃないですか!』
『アンタが行きなさいよ!』
『あなたが!』
『アンタが!』
『『ぐむむむむむむ!!』』
ごめん。俺を好いてくれてるのは嬉しいんだけど、ちょっと今は黙って。
『で、ですがっ、不本意ながら……ほんと〜に不本意ながら、バトルギルドのハンターがサノアらしい人物の気配を感じ取ったらしいです〜』
「えっ、本当ですか!? 一体誰が……?」
『魔闘拳鬼ロウンさんです〜』
っ、ロウンさん……!
やっぱりサノアは、ロウンさんと戦いたがってるんだ……!
「い、今ロウンさんはどうしてるんですかっ?」
『バトルギルドのチビとアシュアさんの指示で、1人での行動は控えているそうです〜』
ほ……よかった。もし1人で行動してたら、間違いなくサノアはロウンさんに仕掛けていただろう。
「なら、しばらくはテイマーギルドの方でも、ロウンさんの周囲を警戒した方がいいかと。あの人の周囲に、絶対にサノアはいます」
『ふむぅ〜。バトルギルドの輩にうちの人材を割くのは不服ですが〜……ロウンさんを囮に刺客を探すと考えると、納得できます〜』
嫌な方向で納得しないでください。
俺、別に囮とかそんなの考えてませんから。……考えてませんから!
『わかりました〜。それでは、数人のテイマーを配置しますねぇ〜』
「はい。……これはトワさんに言うことではないかもしれませんが……油断しないでください。サノアはプラチナプレートのハンターです。下手をすれば……」
──殺される。
この言葉が出てこなかった。
それは、テイマーギルドの仲間を信じていないということと同義だから。
でも……それ以上に、サノアの強さは俺が1番よくわかっている。
そんな俺の真意を悟ってか、トワさんは聖母のように微笑んだ。
『安心してくださ〜い。もし危ないようでしたら、直ぐ逃げるよう指示を出しますので〜』
「……よろしくお願いします」
そこで定期連絡は終わり、映像が途切れた。
『コゥ。みんな大丈夫かな? かな?』
「……わからない」
心配そうに擦り寄ってくるフェンリルの頭を撫で、そっとため息をつく。
……やっぱり、ここでじっとしてるだけじゃ落ち着かない。
「スフィア。ロウンさんを中心に、半径数キロ圏内の人間の動きを全て把握することはできる?」
『可能です。ですが、膨大な処理が必要になるため、一時的にスリープモードに入らせていただいてもよろしいでしょうか?』
「うん。お願い」
『承知しました』
スフィアは草原に座り込むと、まるで糸が切れたかのように全身から力が抜けた。
さてと。あっちはみんなに任せるとして。
いつサノアとぶつかるかわからないし、俺も呑気にしてる場合じゃないな。
「ライガ、直ぐに訓練に入ろう。フェンリルはここで、スフィアを見てて」
『承知』
『任せて!』
クレアとライガを伴い、草原からいつも訓練に使っている荒野へと移動するのだった。
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