未知──①
◆
絶海の
来る日も来る日も剣精霊達と刃を交え、戦う毎日。
もう自分がどんな動きで動いているのかもよくわからない。ただ何となく、直感と本能だけで避け、捌き、斬り掛かる。
体力増強のトレーニングと同じだ。
無駄な動きを省き、必要最小限の動きで攻撃する。
が。
『そこまで!』
ピタッ──。
え……あっ、いつの間に心臓に突き付けられてる!
『いえーい! また僕らの勝ちー!』
「くっそー」
フラガラッハを片手に倒れ込む。
何連勝したんだっけ? もうあんまり覚えてないけど、なかなかいい線行ってた気がする。
でも……あー、悔しいなぁ。
青空を見上げていると、側で見ていたライガが近付いてきた。
『コハク様、新記録ですぞ』
「どのくらい?」
『158連勝です。昨日より24連勝、伸びてましたぞ』
「そんなに!?」
数なんて気にせず、無我の境地でやってたから驚いた。
でも、そうか……少しずつだけど、俺も成長してるんだな。
『ご主人様、フルポーションです。それと、お食事も用意致しました。休憩に致しましょう』
「ありがとう、スフィア」
この無謀にも思える訓練が始まってから、こうして途中途中で休みを入れるようにしてくれた。
真剣を使う訓練だ。集中力が切れ、大事故に繋がる可能性があるからだとか。
スフィアのフルポーションがあれば即座に回復できるが、念には念を入れてだ。
怪我に対する耐性より、まずは戦闘力を上げることだけに集中するため、らしい。
てことは、いつの日か怪我に対する耐性も付けるのかぁ……想像しただけで背筋が凍る。
『にしても、コハクも随分と上達したわねぇ』
俺の肩に座って肉をかじっているクレアが、足をパタパタと動かしながら呟いた。
それを聞いていたスフィアも、首を縦に振る。
『ライガからの手解きをほとんど受けず、真剣での斬り合いだけでここまで上達するとは、正直思ってもいませんでした』
そう、そうなのだ。
この1ヶ月間。俺はライガから剣術に対するいろはを受けていない。
ただひたすら、剣精霊との実戦、実戦、実戦。
今の俺の動きは、無数にいる剣精霊達の
俺が一番動きやすく、違和感なく、最短の動きに凝縮された、俺だけの剣技。
いや、まだ剣技とは言えるような代物じゃない。
それでも生き延びるために必死で身に付けてきたものだ。それなりに使えるものにはなっている。
でもライガと魔人化するには、今の実力じゃ足りない。
もっともっと、精進しなきゃ。
スフィアに用意してもらった肉にかぶりついた。とにかく動いて、食って、力を付ける。それが今の俺にできる唯一のことだ。
「ライガ。この調子で行けば、どのくらいに1000連勝できると思う?」
『ふむ。コハク様の今後の成長率を考えると……恐らく、早くとも3ヶ月。遅くとも半年後と言ったところでしょうか』
3ヶ月から半年、か。
その間に魔王が復活する可能性は大いにあるけど、焦っても仕方ないかな。
俺の背もたれになってくれているフェンリルをもふもふしていると、クレアが口を開いた。
『ねえコハク。この1ヶ月、ずっと剣技の修行ばかりでこの大陸のこと知らないわよね? だったらさ、実戦も兼ねて3日間くらいこの大陸を旅しない?』
「え? それは……」
いいんだろうか。
ライガを見ると、顎を撫でて思案していた。
『ふむ……よいと思います。ご存知の通り、この大陸には強力な魔物が多数存在していますから。剣精霊のように知性と理性のある戦闘以外にも、魔物のような本能で生きる生物の戦闘にも慣れた方がいいかと』
『さすがライガ! よくわかってるじゃない!』
あ、これクレアが飽きただけだな。
まあ俺も、この大陸にどういう物があるのかは興味がある。
新種の魔物のように、未知の物質もあるかもしれない。
テイマーギルドの一員として、そういう未知のものは調査したい気持ちもあったし。
『ご主人様。それでしたら、これからは1ヶ月に1度、3日間ほどこのような時間を設けてはどうでしょうか』
『うむ。私もそれがいいと思います、コハク様』
「……そうだね。よし、なら明日から3日間はこの大陸の新種の調査。そして魔物との戦闘訓練に当てよう」
新種の魔物。未知の物質。謎に満ちた生態系。
ハンターとしても、男としても、楽しみだ。
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