未知──②
◆
「おぉ……やっぱ凄いね」
今日、約1ヶ月ぶりに剣の里を出た。
目の前に広がるのは、広大な大森林。
1本1本の木々がとにかく大きい。見上げても、一番下の枝が遥か上空にあるくらいだ。正直、首が痛くなる。
「来るときはあんまり見れなかったけど、本当に見事な大森林だ……」
空気も美味いし癒される。
何より新種の樹木や草花が数えきれないほど生えている。俺が知ってるわけじゃなく、スフィアが教えてくれるんだけど。
そんな中、クレアが俺の肩に乗ってつまらなそうに呟いた。
『私はあんまり好きじゃないわねぇ。木なんて炎を使うと簡単に燃えちゃうし』
「いや発想が怖いから……」
こんな見事な自然を燃やそうと考えるんじゃない。
因みに、今回はライガは付いてきていない。何でも、今後剣の里の守護を受け継ぐ警備団に訓練をつけなきゃならないらしい。
まあ、スフィアの検索とマッピングがあれば、迷うことはないか。
『ご主人様、こちらをご覧ください』
「あ、これ……薬草?」
記念すべき、俺達の最初のクエストで採取した薬草だ。
こういう馴染みのある植物なんかも自生してるんだ。
『いえ、ご主人様。こちらも新種になります』
「え? でも……完全に薬草じゃない? あれだけ採取したんだから、間違えるはずないし……」
『はい。こちらは薬草と見た目が完全に同じながら、成分が従来の薬草や上薬草の完全上位互換となっています。私の生成するフルポーションの原材料、と言えばいいでしょうか』
「フルポーションの原材料!?」
確かにそれはとんでもない代物だ。
薬草や上薬草は、ポーションやハイポーションの原材料となっている。
そして今現在、世界に流通している回復薬はこの2つしかない。それ以上の効果の回復手段は、俺の知る中では魔法師の治癒魔法かスフィアのフルポーションのみ。
しかも治癒魔法もフルポーションほどの回復力はない。現存する回復手段の中でフルポーションが世界最高のものになる。
それの原材料となる薬草……とんでもない発見だ。
「す、スフィア、これを持って帰ったら……!」
『申し上げにくいのですが……恐らく、無駄になるかと』
「どうして?」
『今の人類には、この薬草からフルポーションを生成するだけの技術がないからです』
あ……そうか。フルポーションはスフィアの持つ回復手段の中でもトップクラス。
それはつまり、今の人類の持つ科学技術の、数千年先の技術の集合体と言うことになる。
そんなところにこれを持ち帰っても、今は無駄なだけか……。
『人類がこの大陸に自力で到達できるようになるまで、このことは伏せておいた方がよいと思います』
「……残念だけど、仕方ないね」
それによく考えたら、フルポーションの存在を知られたらそれを巡って戦争になりそうだ……。
これはこのままにしておこう。
その後も、スフィアのマッピングと案内で大森林の中を散策していく。
今のところまだ魔物も出てこないし、順風満帆な散策ができてるな。
見渡す限りの大森林だが、どれもこれも新種だらけ。
もしここにその手の研究者がいたら、幸せすぎて卒倒するんじゃないかな……素人の俺でもこんなに感動してるんだし。
『すんすん。むっ、コゥ。向こうの方から水の匂い!』
「水の匂い?」
こんな大森林にあるとしたら、川とかかな?
フェンリルの後に続いて森の中を歩く。
暖かな木漏れ日が差し込む中、のどかな散歩気分で歩いていくと。
「お?」
いきなり大森林が開け、巨大な湖が姿を現した。
湖の反対側にも森が見える……てことは、ここは大森林の中にある湖らしい。
湖のほとりに跪き、水の中を覗き込む。
……凄い。綺麗な水質だ。綺麗すぎて水底がしっかりと見える。こんなに綺麗な水質の湖、見たことがない。
『綺麗な湖ね。一切人間の手が入ってないからか、信じられないくらい透き通ってるわ』
『こんなに綺麗な水質の湖は、この世界でここだけのようです。これは見とれてしまいますね……』
『喉渇いたー』
見渡すと、草食っぽい魔物が湖に口つけていた。飲めるんだ、この水。
俺も水を掬い、口をつけると。
「! うっま……! こんなにうまい水飲んだの、初めてだよ」
『ホント! 美味しいわね!』
『大自然でろ過されて、雑味の一切ない天然のミネラルウォーターになっています。これはいくらか貯蔵しておきましょう』
スフィアが水に手をつけ、モーター音と共に水が吸収されていく。
確かにこれは、いつでも飲みたくなるくらい美味いね……ちょっと衝撃を覚える美味さだ。
大自然の中、天然水を飲んでのんびりと過ごす。
あぁ……この1ヶ月の疲れが癒される。
こんな時間がずっと続けばいいんだけどなぁ……魔王が復活するから、そうも言ってられないけど──。
『──ッ! スフィア!』
『わかっています! 防御シールド!』
……え?
突如、スフィアが俺達の背後に防御シールドを展開。
次の瞬間、轟音と共に何かが防御シールドに突っ込んできた。
「な、何だ!?」
『コハク、魔物よ!』
魔物!? こんなにのんびりできてたのに、いきなり!?
慌ててフラガラッハを抜き、構える。
振り返るとそこにいたのは、フェンリルと同サイズの巨大な猪……いや、サイ? 猪の体にサイの角が付いている……そんな感じの魔物だった。
『へえ……スフィア、これくらいならコハクでも行けるんじゃない?』
『ええ、今のご主人様ならば余裕でしょう』
「……2人共、何の話をしてるの?」
え、嘘。嘘だよね? 嘘だと言ってよ2人共!
『ご主人様。今こそ修行の成果を見せるときです』
『コハク、ファイト!』
『ボクらが応援してるよ、コゥ!』
ちきしょうなんてこった!!!!
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