魔人化──②
『さあ、次は私よ!』
『いえ、次こそわた──』
『私私私私私私私ーーーー!』
『う、うるさい……はぁ、わかりましたよ』
『へへんっ』
お、次はクレアか。
ぴゅんぴゅん飛び回るクレアを見つつ、スフィアに目を向ける。
悪いな、という思いを込めて苦笑いを浮かべると、スフィアは微笑んで首を横に振った。大人だなぁ、スフィアは。
元気に飛び回っているクレアが、俺の肩に座った。
『コハク、私の魂を感じて』
「うん」
目を閉じ、クレアに集中する。
凄い……燃え盛るような熱い魂を感じる。
正に烈火のごとく。超高密度のエネルギーだ。
こんな小さな体なのに、フェンリルと同等の魂の密度……やっぱりとんでもないな、
『ふふ。これがコハクの魂……暖かいわ』
「クレアには負けるよ」
『当然よ。なんて言っても私は炎を司ってるからね』
ない胸を張ってドヤるクレア。本当、子供みたいな子だ。
『今失礼なこと思わなかった?』
「気のせいです」
え、まだ魔人化してないよね?
ナチュラルに人の心読むの止めて。
『さあコハク、準備はいい?』
「いつでも」
『それじゃあ行くわよ。“魔人化”』
俺とクレアの魂が繋がり、溶け合う。
フェンリルのときと同じく、膨張した光が急激に圧縮されていき。
俺とクレアの体が1つになったのを自覚した。
直後──両腕が発火した。
「なっ!?」
『落ち着きなさいコハク。これは私と1つになったことで発生した炎よ。熱くないでしょ?』
そう言われたら確かに。
姿見で、今の自分の姿を確認する。
髪は赤く燃え上がり、左目にも炎が灯っていた。
更に両腕も燃え、なんなら足まで燃えている。
これが、クレアと魔人化したときの姿……。
『早速魔法を撃ってみましょうか。誰もいない方に手を向けて』
(こう?)
『そうよ。イメージはぐって溜めて、ぱぱぱーって感じで撃つの』
ごめんわからん。
え、ぐってやってぱぱぱー? は?
『じゃあ、ぎゅってやってぽーんの方がわかりやすいかしら』
(……クレアって、人にものを教えるの苦手なんだね)
『失礼ね! 超わかりやすいじゃない!』
どこが!?
って、そんなツッコミを入れてる場合じゃない。
早くしないと魔人化が強制解除される……!
えっと、えっと……。
『ご主人様。魔法を撃つにはイメージが大切と言われています』
「イメージ?」
『はい。威力は気にせず、突き出した腕を砲台に炎の球を放つ。それを頭の中で強烈にイメージするのです』
めっちゃめちゃわかりやすいアドバイスありがとう。
誰もいない方向へ手を向け、目を閉じる。
……うーん。自分の中から何かを出すって、イメージしづらいな。
イメージ、イメージ、イメージ……。
溜める。我慢する。解放する。発射する。押し出す。
……あ、もしかしてこんな感じ?
『今よ!』
押し……出すッ!
「ハアァッ!」
次の瞬間──フェンリルをも凌駕するほどの極大の火球が、大気を揺るがす轟音と共に放たれた。
って、こんなものの近くにいたら妬けちゃうんだけど!?
『大丈夫よコハク。あんたは今、炎のそのもの。熱さは感じないでしょ?』
あ、本当だ。
放たれた火球が数十メートルの距離を飛び、地面に着弾。
灼熱を伴った爆風が発生し、俺達の体を叩いた。
……言葉も出ない。
フェンリルの力もやばかったけど、クレアの魔法もとんでもないぞ、こりゃ……。
火球が放たれた方を見ていたスフィアの目が妖しく光り、冷静に口を開いた。
『ご主人様、着弾を確認しました。半径8メートルの範囲が蒸発し、表面は溶解してマグマと化しています』
「……すっげ……」
なんつー威力だ。
『今のは1番下の魔法、ファイアーボールよ。威力の調整が出来てないからこんな派手になってるけど』
1番下? これが1番下だって?
これ、使い所間違えたら街が消し飛ぶな。……威力調整の練習とかしなきゃ。
で、例に漏れず意識が飛びかけ、スフィアに回復してもらい。
『さあ、最後は私ですっ』
鼻息荒いスフィアが、俺の手を握った。
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