第38話 カノジョも彼女??
「千代の言いたいことは分かる。だけど……ごめん。俺は大好きな彼女に、順番なんてつけられないんだ!」
俺の言葉に、彼女たちは頬を赤く染める。
「友君なら、そう言うと思ってたわ……」
千代は俯きがちにそう呟いた。
それから、続けて彼女は言う。
「それでも、今ここで|本当に好きな恋人(・・・・・・・・)を決めて、その一人だけと恋人を続けてもらうわ!」
「だから、決められっこないんだよ……!」
「いいえ、今から私が提案する方法を使えば、本当に好きなのは誰かが分かるわ!」
自信満々に答える千代に、視線が集まる。
「私たちに関するクイズを出すから、友君はクイズに答える。そうね……例えば、私たちの血液型は何でしょうか?」
「亜希がO型、瑠羽がB型、麻衣ちゃんがABで、千代がA」
俺が即答すると、
「正解よ」
「何気なく話したことを覚えてもらえると嬉しいかも」
「ちなみに、友馬さんがB型だって、私も覚えてますからっ!」
亜希と瑠羽と麻衣ちゃんが照れくさそうに言った。
「……こんな感じで、私たちが代わる代わる問題を出すから、その中で正答数が一番高かった人が、友君の一番好きな人と認定して、恋人を続けられる権利を手にします」
千代も、照れくさいのか頬を赤らめつつ、そう宣言した。
「こんなバラエティ番組みたいなノリで決めて良いの?」
「そもそも、付き合ってから一番日が浅い伊院さんが不利な気がしますけど」
俺と麻衣ちゃんの言葉に、
「私は友くんのこと、信じてるから。問題ないわ」
千代は即答した。そう言ってもらえて、嬉しい。
……のだが、その信じた男に4股されていたことは良いのだろうか、と冷静に突っ込みそうになるが、それは自分の首を絞めるだけなのでやめる。
「それで良いんじゃない?」
亜希がそう答えた。
誰よりも先に否定するものだと思っていたから、これは意外だった。
「とりあえず、一回伊院さんの言う通りにした方が話早そうだしね」
「……そこまで言うなら、伊院さんには一度現実を見てもらった方が良さそうですね」
納得した様子で、瑠羽と麻衣ちゃんはそう言った。
……一体、三人は何を考えているんだ?
「それじゃあ、決まりのようね。質問が一巡する間の正答数の一番多かった人が勝ち、もしも一巡で勝負が決まらなかったら、正答数が多かった人を残して、二巡、三巡して最後の一人になるまで続ける。このルールで、良かったかしら?」
「問題ないわ」
千代の言葉に、亜希は答える。
瑠羽と麻衣ちゃんも、無言のまま頷いていた。異議はないようだ。
「それじゃあ……折角だし、友くんと付き合った順番で質問していきましょう」
「……自然な流れで、友馬と付き合った順番を把握しようとしているわ」
「流石は学年一位、学力は伊達ではないってわけだ」
「これは、油断できませんね……」
「学力関係あるか……?」
彼女たちの繰り広げる茶番に、俺は一応ツッコミを入れた。
俺の言葉に、「こほん」とわざとらしく咳をしてから、亜希は言う。
「それじゃあ、第一問! 最初だし、簡単な奴で……私たちの好きな映画は何でしょうか?」
亜希の質問に、それぞれの回答が即座に思い浮かんだ。
「念のため、回答はスマホのメモアプリに入力しておきましょう」
彼女たちはその言葉に頷いてから、スマホを操作する。
全員、特に迷うことなく入力を済ませたのを確認して、俺は回答する。
「亜希は『ダイ・ハード』瑠羽は『天使にラブ・ソングを』、麻衣ちゃんと千代は『君の名は。』」
俺の言葉に、彼女たちはスマホ画面を見せた。
もちろん、全員正解だった。
「伊院さんも、『君の名は。』好きなんですね」
「え、ええ」
「今度皆で一緒に観ましょうよ」
「ええ。……うん?」
麻衣ちゃんの言葉に、千代は大変混乱した様子だった。
「それじゃあ、次は私の番だね」
混乱状態から戻らない内に、瑠羽はそう言った。
「ええと、私たちが初めてやった習い事は?」
亜希もそうだったが、特にヒネリのない質問だな。
再び、全員がスマホへの入力を終えたタイミングで、俺は回答する。
「亜希は空手、瑠羽はダンス、麻衣ちゃんはピアノ、千代は水泳」
俺の回答を聞いた皆は、スマホの入力画面を見せてきた。
今回も全員正解だった。
「へー、水泳やってたんだ」
「え、ええ」
「あたし、実は泳ぐの苦手で。良かったら今度教えてよ」
「ええ。……うん?」
亜希が言うと、再び千代は混乱する。
「一つ聞きたいんだけど。……主さんも真木野さんもどうして、この後も良好な関係が続く前提で話をするの……?」
千代の質問はもっともだと思ったのだが……。
質問を受けた亜希と麻衣ちゃん、そして瑠羽は互いに顔を見合わせてから「はぁ」と溜め息を吐いてから、無言のまま肩を竦めた。
「……一体、どういうことなのかしら?」
わけが分からないといった様子の千代。
それは俺も、千代と同じ気持ちだった。
「これまでの質問はちょっと簡単だったみたいですし。次の質問は、難しいやつにしますね」
そう前置きをしてから、麻衣ちゃんは質問をする。
「私たちが友馬さんと初めてキスをした場所は、どこですか?」
「おっと麻衣ちゃん、急にブッ込んできたな……」
俺は額を流れる冷や汗を拭いつつ、彼女たちの表情を窺う。
……口元は微かに嗤っていたけど、目は笑っていないようだった。
それから、無言のままスマホのメモアプリに答えを入力した彼女たち。
「亜希と瑠羽は公園、麻衣ちゃんは屋上、千代は教室。……です」
彼女たちのスマホの文字を見る。
俺の答えは、もちろん正解たった。
「ふぅん……」
と、彼女たちは小さくそう呟いた。
責められることはなかったが、この妙な空気のせいで、俺は正直生きた心地がしなかった……。
「それでは、最後の質問ね」
千代が、得意気にそう言った。
「勝った気になるのは早すぎるわよ?」
亜希の言葉に、千代は首を腕を組み、堂々と答える。
「あなたたちが、友君だけでなく、お互いのことも大切に想っているのは、よくわかったわ」
優しい眼差しを、亜希と瑠羽、麻衣ちゃんに向ける千代。
「そして同時に、あなたたちのこれまでの質問で、このクイズで私の勝ちが揺るがないのは分かったわ。お互いが大切だからこそ、他の誰かを出し抜くための質問を、誰も出来なかった。それが、あなたたちの敗因よ」
そう言ってから、彼女は俺に向かって口を開く。
「最後の質問は――」
もったいぶって間を開ける千代に対し、俺は……いや、千代以外のこの場にいる全員はきっと、同じことを考えている。
勝敗が決していないのに、種明かしからの勝利を宣言を行うのは明らかな負けフラグだと思います、と――。
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