「たいあっぷ」さんについて

一色孝太郎

「たいあっぷ」さんについての雑感

2021/03/03 14:05 運営会社の方よりコメントを頂いたので追記しました

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最近話題になっているたいあっぷさんですが、一通り触ってみました。


 運よく書籍化までの一連の流れを経験した泡沫作家として思うことをお話したいと思います。


 最初にお断りしておきますが、ここの運営さん(責任者?)である公式作家のにーしゅん先生とは一度お会いしたことがあります。しかも、開発担当のエンジニアさんが知り合いでした。世間とはなんと狭いものでしょうか。


 そういった事情も相まって多少肩を持っている部分があるかもしれませんし、逆に中の人を知っているがゆえの厳しい批判になっているかもしれません。ですが、できるかぎり公平に自分の感じたことを率直に書いたつもりです。


 長文ですが一作家の意見としてお読みいただき、何かを感じ取って頂ければ幸いです。


 なお、本エッセイは、「ポジティブなこと」、「ネガティブなこと」、「まとめ」の構成となっております。結論だけを知りたいという方は読み飛ばして最後までご移動ください。


〇ポジティブなこと


 まずはポジティブなことからお話いたしましょう。 


 「つなぐがつくる観る感動と創る未来」


 たいあっぷさんはこれがコンセプトとなっています。小説とイラストを組み合わせて、「二人だから作れる」イラストと文章でより小説がより魅力的になる、とのことです。


 なるほど。これはとても素晴らしいことだと思います。


 特に、作家にとってイラストレーターの先生は切っても切れない関係です。これについては誰も疑問などないでしょう。


 無料の Web 小説がこれだけ流行っているこの時代に、その Web 小説を書籍化した本が売れるのはイラストの力があってのことだといっても過言ではないでしょう。


 筆者も書籍化の際にイラストをご担当いただいた先生には感謝以外の言葉はございません。


 そんな小説とイラストのコラボを誰もが手軽に始められるというのは素晴らしいことでしょう。


 しかも、出版した場合は通常の出版社を通した書籍化と違って 50 ~ 70% という高率の還元を作家とイラストレーターに行うとしています。


 たいあっぷさんから電子書籍として出版したとして売れるのかは定かではありませんが、その還元をしようとする姿勢は良いことだと思います。


 私の記憶によると Amazon での自費電子出版の場合は非独占で 30%、独占の場合は 70% ということからもいかにその還元率が高いかはわかると思います。


 高い還元率で作家とイラストレーターがより創作に専念できる環境が作られるということはとても良いことだと思います。



〇ネガティブなこと


 それでは次にネガティブなことをお話いたします。


 まず、このたいあっぷさんで作家ができることは以下の三つです。


①自分の作品に絵をつけて頂く

②イラストレーターの先生の作品に物語をつける

③一から物語を二人で作り上げ、作品にする


 この中で作家が圧倒的にやりやすいのは①ですし、たいあっぷさんもこの使い方を推奨しているように見受けられます。


 というのも、「たいあっぷに使う小説は、既存小説投稿サイトに投稿している自身の小説を利用することを推奨します。」と書かれているからです。


 つまり、他の大手小説投稿サイトである程度人気を得ている作品を要求しているのです。それは「他のサイトのブックマーク数」を公表するように求めていることからも、コンテストの期間がたった二か月しかないことからもわかると思います。


 ですが、その状況で作家として最初に感じることは「イラストレーターの先生に対して申し訳ない」ということです。


 というのも、本来はお仕事として対価をお支払いし、数週間かけてやっていただくべきお仕事を無償でやってくれ、と要求しているに等しいわけです。


 このことについて何も感じないのが普通なんでしょうか? 少なくとも私にはそうは思えません。


 もちろんコンテストで受賞すれば良い(大賞は一人 100 万円)ですが、現実問題として受賞できない可能性の方が圧倒的に高いわけです。


 コンテストで受賞できなければタダ働きなわけですから、イラストレーターの先生だけが一方的に割を食うことになります。


 もちろん、たいあっぷさん側の言い分は分かります。自社のサイトはまだできたばかりですから、お客さんを集めるだけのパワーはありません。であれば他のサイトにいる人を連れてきて商売をしなければ潰れてしまうでしょう。


 であれば、人気のあるコンテンツごとお客さんを引き抜けばいい。それが間違ったことだと言うつもりはありません。


 ですが、既存の作品の読者の方々を連れてくるのであれば必然的にイラストレーターの先生「だけ」が苦労することになります。


 これがイラストレーターの先生に申し訳ない、ということの大きな理由です。


 そしてもう一つ問題なのは、他の小説投稿サイトから誘導できるほどの読者を抱えている作品は書籍化予備軍ということです。


 私が確認した時点でブックマークが 7,000 以上という作品がちらほら登録されていました。このクラスの作品であれば、何かの拍子でどこかのレーベルから声がかかってもおかしくないでしょう。


 もしそうなった時、たいあっぷしたイラストレーターの先生と一緒にお仕事ができればよいですが、担当編集さんから「この先生では無理」と言われたら書籍化をお断りするのでしょうか?



 続いて、②や③に目を向けてみましょう。


 ここには、作家としては非常にやりづらい現実が待っています。というのも、普段物語を作るプロである作家が行っていることにイラストレーターの先生という絵を描くプロが口を出すことになります。


 もちろん、多少の意見をくみ取ることは可能でしょう。筆者も、いわれてみれば、と考え方を変えることは良くあります。


 ですが、思っていた展開と違うと言われたらどうしますか?


 しかもそれが、キャラクターが勝手に行動を始めてプロットなんて投げ捨てて大暴れした結果だったらどうでしょうか?


 作家であればこういった経験をした方がほとんどだと思いますし、良い作品を作るにはそれが必要不可欠という方も多いのではないでしょうか?


 そんな時、イラストレーターの先生の意見を受けいれて改稿しますか?


 プロの編集者に指摘されて改稿するならまだ飲み込めるかもしれませんが、物語を作るプロでない方の意見で自分の子供たちが生き生きと動き回った結果を無に帰すことに納得できるでしょうか?


 身も蓋もない言い方をすれば、そもそも作家をやっている時点で自分の頭の中の妄想を吐き出しているわけです。


 それを投げ捨てて大人になるということは、仕事をしているのとほとんど同義なわけです。お金のやり取りになしにそこまでやりますか?


 仮にやるとしても、こういった話を舵取りしていくにはお互いにコミュニケーション能力が必須なわけですが果たして……?


 しかも、そんな問題をうまく乗り越えたとしてももう一つの大きな問題が立ちはだかります。 


 まず、二人で作り上げた新作をたいあっぷさん「だけ」で公開するということはコンテストで大賞を取る可能性を捨てることになります。


 なぜなら、他の作品は大手小説投稿サイトでの告知誘導がかかるわけです。そもそも最初から勝負になりません。なお、不正云々はここでは脇に置いておくこととします。


 となると他の大手小説投稿サイトに同時掲載することになりますが、5万文字(20~30話くらい)で 7000 以上のブックマークを獲得できるとなると、「小説家になろう」さんであれば日間ランキングに載っていますね。その他のサイトであれば一位になってるのではないかと思います。


 あれ? これもう、そっちで書籍化できるんじゃないでしょうか?


 50,000 文字まで、なんてことを言わずにお付き合いのある担当編集さんに連絡したほうが良いんじゃないですか?


 これならたいあっぷさん、必要ないですよね?


〇まとめ


 現状のたいあっぷさんには良し悪しございますがニーズに合っているのは、


・作家/イラストレーターで交流し、一緒に作品を作り上げる体験をしてみたい方

・報酬など気にせずアウトプットしたい方

・賞金を絶対に取れるという自信のある方

・細かいことは考えない! 新しいことはやってみよう! という方

・イラストレーターにも印税の権利が与えられることに魅力を感じた方(2021/03/03 14:05 追記)


 ではないかと筆者は考えます。


 無料の Web 小説でもイラストを添えるという試みはとても面白いものだと思います。読者の方々もイラストがある Web 小説を楽しめるということは大きいですし、作家としても絵になってくれるというのはとてもとても嬉しいことです。


 筆者は新しい取り組みをすることは良いことだと思います。そしてこういった形でクリエイターのための場が提供されることは非常に素晴らしいと思います。


 ですが、もう少しイラストレーターの先生がきちんと報われる設計をしてくれれば良いのにな、と強く思いました。率直な意見として、普通にイラストレーターの先生に報酬をお支払いしてマッチングするのではだめだったんですかね?


 そうでないなら、未発表のオリジナル作品に限定すればよかったと思います。それならお互いにフェアな関係で作品作りに取り組めたと思うのですが。


 なお、そんな事情もあり筆者は「この先生であれば絶対に編集さんが首を横には振らない」と思えてかつ「作品の雰囲気に合っている」という先生にのみお声がけいたしました。


 もし仮に書籍化できたとしても末永くイラストをお願いしたく、かつ書店に並んだとしても決して見劣りしないと自信をもって推薦できる先生であれば、万が一編集さんが NG を出したとしても躊躇なく打診を断れるでしょうから。


 「テイマー少女の逃亡日記」と「ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです」は掲載しておりますが、「勘違い吸血姫」は向こうのサイトに合わせたレイアウトに直すのが面倒くさすぎて掲載は諦めました(笑)


 最後に、これは私の個人的な意見です。立場や考え方の違いにより異なる意見があることは重々承知しております。


 あくまで個人の、一意見として受け止めて頂けたなら幸いです。


※2021/03/03 14:05 追記

 運営会社の方よりコメントを頂きましたのでまとめます。


 作家とイラストレーターの報酬はおおむね半々になるように設定するつもり、とのことです。先にお金が支払わないことはイラストレーターにとっては負担かも知れないけれど、イラストレーターには印税という権利が与えられていないということについて問題意識を持っており、その点を改善するためにもこうした制度設計になったそうです。

 つまり、作家だけではなくイラストレーターにも印税が入るようになるということです。

 そのうえでクリエイターへの還元率を高く設定することでお客さんの人数が少なくとも、作家もイラストレーターのも最低限生活していける世界を作りたい、とのことです。

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