第74話 表

『以上で終業式を終わります。この後はHRを行ってください。』


「やっと終わったぁ。今日で学校ともおさらばだよ。」


「しばらく、がつくけどな。だが、教室でやる意味あったか?」


「体育館暑いから教室ってなってるけど、別にエアコンついてるわけじゃないから教室も暑いのにね。」


「そこ、もう終わるってのにぐちぐち言うとHRが長くなるぞ?」


「「すみませんでした。」」


 熱休み前日の最後の学校、終業式も終わり後はHRをやって帰るだけなので皆好きなように話している。


 俺たちも話していたのだが、学校が決めたことにぐだぐだ言うのは駄目らしい。さすがにHRが長引くのは嫌なので素直に謝っておく。


「じゃあHR始めていくぞー……っておい。お前ら話聞く気ないだろ。」


「「「ないでーす。」」」


「はぁ……まぁいい俺の話の邪魔にならないように話せば俺は何も言わない。まず、夏休みの過ごし方だが……」


「担任もなんだかんだ言って甘いよな。」


「しー、そんなこと言ったら駄目だよ。せめて凄く生徒にやさしいって言わなきゃ。」


 俺たちの様子についに担任は諦めたらしい。小さい声で話しても良いらしいのでまた玲奈と話すことにする。他の人達もちらほらと後ろ向いて話している人もいた。


「それにしても暑いね。」


「あぁ、今日は真夏日になる予定だそうだ。昼頃はもっと暑くなるな。」


「そんなぁ……」


「どっか涼みに行くか?」


「それも良いかも。イ〇ンはどうかな?エアコンが効いて涼しいし。」


 これからもっと暑くなると家にいても暑いだろう。エアコンはあるがあまり使い過ぎると母さんに怒られるんだよな。なので玲奈とイ〇ンに行って涼みに行くことにした。


 それにしても。よく担任もあんなに暑い中長々と話せるよな。いや、話さなきゃいけないのか。頑張ってくれ担任、応援だけしているから。


「む、今なんだか応援された気がしたが最低な応援だった気がするな……気のせいか。後もうちょっと話をつづけるぞ……」


「でもただ涼みに行くだけじゃなんだかもったいない気もするし、申し訳ない気がする。」


「それはまぁ確かにな。どこかでご飯でも食べるか?たまには外食でもってな。」


「冷たくて美味しそうなものを頼んで食べるのも良いかも。」


「いやいや、暑いからこそ熱いものを食べるって言うのもありかもしれないぞ。」


「むむっ、その手がありましたか。」


 ここ最近外食もしていなかったのでイ〇ンに行くんだしせっかくだからと昼ご飯を外食で済ませることにした。


「何の店があったけな……」


「ラーメン屋とうどん屋とかつ丼屋と焼き肉……もうちょっとあった気がするけどこれくらいかな?」


「ラーメン屋かうどん屋で冷たいのを頼むがベストかもな。」


 かつ丼は出来立てだろうしこの熱い中であまり食べたくないな。逆にラーメンとか麺類なら暑い中でも熱いものを食べられるんだが……


 焼き肉は……申し訳ないが論外だ。焼くのにも火で熱くなるし高校生の経済的にも大ダメージだ。


「……以上で終わりだが、もうほとんどが聞いてないな。納泉、桔梗、お前らだけだよ聞いてくれた奴は。」


「そんなことないですよ先生。」


「そうですよ、きっと話している人の中にも実はちゃんと聞いてる人がいますよ。」


「慰めの言葉ありがとう!その気持ちだけでも嬉しいぞ。」


 ついに聞いている人が数人しかいなくなっていたらしい。小さいころからずっと同じようなことを言われたらそりゃ飽きて来るだろう。


「……ちゃんと聞いてたぞ?」


「う、うん。話しててもちゃんと聞いてたんだから。」


「じゃあ終わるから……どうせ1学期最後なんだし学級委員長と副委員長の2人で締めくくってもらおうか。」


「「特にないです。」」


「そ、そうか……じゃ、じゃあ日直挨拶任せた。」


「はい!きりーつ!」


 流石に可哀そうだったのでポツリとそう呟いておく。聞いていなかったわけじゃないぞ、聞き流していただけなんだ。


 そろそろ前を向いた方がいいと思ったので前を向くと納泉さんと石晶にあっけなく振られた先生が涙目で挨拶をしようとしていた。


「「「さようなら!」」」


「先生早く彼女作れよ!じゃーな!」


「うるさい余計なお世話だ!」


「「あはは!」」


 1学期最後の挨拶をしたとたんにすぐに帰っていく人達。その中には担任をからかって帰る人もいて担任を少し怒らせていた。


「俺たちも帰るか。」


「そうだね。いつまでもここにいてもね。」


 俺たちも先に帰っていく皆に倣って帰ることにする。納泉さんと石晶に挨拶をしてイ〇ンへ涼みに行った。





















「すっかり涼しくなったね。」


「あぁ、夕方になるとこんなに涼しいものなんだな。」


 昼ご飯を食べ夕方まで時間を潰していた俺たちは涼しくなった頃に家に帰ろうとしていた。


「少し寄り道してもいいか?」


「良いけど、どこに行くの?」


「玲奈も良く知ってる場所だよ。」


 寄り道をしたいという俺に合わせて少しだけ遠回りをして家に帰ることになった。俺の目的地は数分もしないうちにたどり着いた。


「ここって、私たちがよく遊んでいた公園?」


「あぁ、少しブランコでゆっくりしよう。」


「ふふっ、この年でブランコってなんだか新鮮だね。」


「確かにな、もう高校生だもんな……」


 それから俺たちはブランコに揺られながら2年生になってからのことを話していった。玲奈も1学期にあったことを思い出して笑ったりもしていた。


「玲奈が朝にいきなり家に来たのはびっくりしたな。」


「そ、それは……夢で葵が別の人の彼氏になったから怖くなって……」


「俺が誰かと付き合うなんてほぼあり得ないよ。」


「そ、そうかもしれないけど、その時は焦ったの!」


 玲奈が急に家に来たこと、イ〇ンに買い物に行った後に勘違いをさせてしまって泣かせてしまったことなどなど2年生になってから劇的に変化していった気がする。


「なぁ玲奈。」


「ん?どうしたの?」


「好きだ。」


「え?」


「ずっと、それこそ小さいころから好きだったんだろうな。気づいたのは最近だったが、玲奈がいない日常なんて考えられないし、嫌なんだ。」


 気づけばそう口走っていた。あぁ、もうちょっと話を伸ばしてから、心の準備ができてから言おうと思っていたんだけどな。


 俺はブランコから降りて玲奈の前で立った。ポケットの中にはちゃんと目当てのものが入っている。


「玲奈が俺の前で告白を受けに行ったとき、胸が凄く痛かったんだ。玲奈は俺の女の子なのにって、付き合ってもないのに独占欲だけ一人前に持っていてさ。」


「けど、それがきっかけだった気がする。玲奈が好きだって気づいてからは毎日が前よりももっと楽しくなった。楽しすぎて1日何てすぐに過ぎていったよ。その日々が幸せだった。」


「俺は玲奈を他の誰にも渡したくないし、これからは幼馴染じゃなくて恋人として毎日を過ごしていけたらいいなと思っている。」


「だから、こんな俺で良かったら付き合ってください!」


 もう何を言っているのか分からなくなりそうだった。けれど、大事なことはちゃんと喋り玲奈に手を差し出した。


 告白って怖いんだな。慣れた人ならそうでもないんだろうが俺は初めてだ。好きな人に自分の気持ちを曝け出してその上で断られるのがとても怖い。


「……うん、いいよ。」


「……っ!ほ、本当か?」


「断るわけないじゃん、私が葵のこと好きなの知ってるでしょ?それにキスもしちゃってるし……私、遊びでキスなんて絶対に嫌なんだから。」


「……そっか。よかった……」


「えへへ……これで恋人同士、だね?」


 顔を上げて玲奈を見てみるとはにかんでそう言った。確かに、玲奈とキスをしたときに両想いってことが分かった。


 だけど、何も言わないでもう恋人ということはあり得ない。曖昧な関係よりもちゃんとした関係にしたかったんだ。


「そ、そうだな。」


「んふふ、いままで我慢してきたこと、どんどんしちゃうんだから!」


「それは、お手柔らかに頼む。そうだ。」


「どうしたの?」


「渡したいものがあってな。」


 俺はこれからどんなことをされるんだろうなと思いつつ。ポケットに入れたものを忘れそうになっていた。危ない危ない今渡さなきゃ渡す機会が無くなってしまう。


「これ、受け取ってくれないか?」


「これ、指輪?」


「真ん中に填められている宝石はアメトリンって言ってな、3月15日、玲奈の誕生石なんだ。」


 この指輪は付き合って初めての贈り物と、他の男の牽制としてプレゼントしたいと思っていた。


 ポケットから出したアメトリンの指輪は、夕日が反射してアメジストのような紫色とシトリンのような黄色、2つの色で輝いている。


「いいの!?」


「玲奈に似合うと思って選んだんだ。玲奈が付けなきゃ意味がなくなる。」


「その、ありがとう。」


「まだ、本物はつけれないけどこれで予約しておくから。」


 そう言って玲奈の指に指輪を付ける。本物は大人になって玲奈と共に助け合って生活できるようになってから。


「えへへ……本当に、ありがどう゛。」


「泣かないでくれよ。」


「だってぇ、う゛れじくてぇ。」


 付き合えたことが嬉しかったのか、将来も一緒にいたいと遠回しに言われたことに気づいたからなのか、はたまた両方か。玲奈は泣いてしまった。


 泣いている玲奈を抱き寄せて玲奈が泣き止むのを待った。しばらくすると収まったのか玲奈が顔を上げて俺を見てきた。


「そう、本当に大好きだよ。」


「……っ!」


「えへへ、ほら、帰ろっ。」


「まったく、不意打ちでこんなことするのは卑怯だぞ。嬉しかったし、可愛かったから良いけど。」


 最後に不意打ちでキスをされて、俺たちは家に帰ることにした。母さん達には恋人になったって言った方がいいのだろうか?いや、どうせ言わなくても分かってるか。


「これからもずーっと一緒にいようね。」


「当たり前だろ。むしろ逃がさないからな。」


「逃げないし、私だって葵を逃がさないんだからね。」


 そう言いあってまた2人で笑って、笑いが収まったら自然と恋人繋ぎをして家に帰った。





                  fin.




















 とある山奥にて、


「ふぃ、お、良い所だな。ここらで休憩でもするか。」


 そこには散歩でもするように山を歩いている男がいた。男はちょうどいい場所を見つけたので休憩をしようとシートを敷こうとするが、止めた。


「これはこれは、こんな山奥で生えるなんてないだろうに。珍しいものでもあるんだな。さすがにこれは俺の方がお邪魔虫か。」


 男がシートを敷こうとしたところには2つの、山奥に生えることなんて無いであろう花が生えていた。


「まるでみたいに寄り添いやがって。かぁー!妬けるねぇ。さて、邪魔者の俺はまた別のところを探しに行くとするか。」


 そう言ってシートをカバンに戻し、また別の道に向かって歩き出していった。








 イカリソウ(碇草・錨草)……本小説での花言葉は【君を離さない】を採用

 イカリソウ→カリイソウ→仮色葵



 ワスレナグサ(勿忘草)……花言葉は【真実の愛】を採用

 ワスレナグサ→サワスグレナ→沢優玲奈



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