第71話 表

「ご飯、ありがとうございました。」


「こっちもカレーの量を減らしてくれて助かったわ。私たちじゃ3日くらいはかかっちゃうから。」


「葵、またお母さんの手料理食べに来てね。」


「ああ、機会があればだけどまた来たいな。」


 晩御飯の時間が過ぎ、そろそろ良い時間だと思い帰ろうとしたのだが玲奈とおばさんに少し止められていた。


「いつでもいらっしゃい。玲奈も喜ぶから。あ、でも2人はいつも一緒だからそんなに変わらないかしら。」


「場所が違えば結構違う感じがしますよ。」


「私はそんなにかなぁ。葵の家もいっぱい行ってるからかも。」


「玲奈はもう少し抑えたほうがいいんじゃないかしら。」


 確かにおばさんの言う通り俺たちは大体一緒にいる。学校ではお互い友達との時間を大切にしているが他ではそんな感じだ。


「あら?葵君、その首の赤くなっているの、どうしたの?」


「え?」


「知らなかったの?虫にでも刺されたのかしら、赤くなってるわよ。」


「……あぁ、確かに時々かゆく感じたので虫刺されかもしれませんね。」


 俺はその原因をチラ見するが原因は目を合わせずに知らないふりをしていた。おばさんが教えてくれたおかげであの時何をしたのか予想がついた。


「あ、そろそろ母さん達も帰ってくる時間なので俺も帰ってゆっくりしますね。」


「そうね、私も話しすぎたかもしれないわ。葵君のお母さん達にもよろしく言っておいてね。」


「勿論です。では、お邪魔しました。」


「葵、また明日ね。」


「また明日。」


 玲奈に別れの挨拶をしてすぐ隣の家に帰る。ふぅ、少なくてもおばさんには多分キスマークだと気づかれてない気がする。


 いや、多分だけど分かっていたが知らないふりをしていたって言うこともある。俺が帰った後に玲奈に聞いてそうだよな。


「そういえばこれってどうやって隠せばいいんだ?」


「たっだいま!」


 ドン!


「いっ!……なんだ、母さんかお帰り。」


「葵も今帰ったところかしら。そんなところにいると邪魔になるわよ。もうすぐあの人がお土産とかいろいろ持ってくるから。」


 俺が考えていると母さんが帰ってきたようだ。もう少し時間がかかると思っていたが思っていたよりも速かったらしい。


「そっか、じゃあ俺は風呂でも入ってるよ。」


「そうしなさい、お風呂あがったらお土産食べても良いわよ。」


「じゃあ美味そうなのいくつか置いといてくれると助かる。」


「分かった分かった……ところで首の赤いのどうしたの?」


 母さんに出来るだけキスマークのことを知られたくなかったため早く風呂に入ろうと思ったのだがばれてしまった。


 くそっ、これがばれたら絶対にやにやした顔で何があったか聞いて来るじゃないか。適当に誤魔化しても感が良いんだよな。


「虫刺されだよ、今日の朝、起きたら刺されてた。」


「ふーん……やっぱり痒いのかしら。」


「そういわれると痒くなってくるからやめてくれよ。」


 俺は母さんに虫刺されだと思わせるように首を掻く。確か玲奈がつけたのはここら辺だったよな?これなら良い感じで誤魔化せるんじゃないか?


「あまり掻き過ぎないようにしなさい。お風呂あがったら掻くんじゃなくて薬塗ること。分かった?」


「分かってるって。」


 母さんは完全に虫刺されだと信じている様子だ。これでもうキスマークだと思われずに済む。俺は安心して風呂場に向かおうと歩き出した。


「あ、お風呂上がったらそののことについて詳しく聞かせてもらうわよ。お土産もあるんだしリビングでゆっくりできるでしょ?」


「…………」


「私を騙せるとでも?むしろすぐ分かったわよ。それに首を掻く位置だってちょっと違ったしね。ほら、速く聞きたいんだからお風呂入ってきなさい。」


 結局母さんには全部筒抜けだった。最初から分かってたならそうと言ってくれればいいのにな。本当に性格が悪いと思う。


 俺はさっきよりも重くなった気がする足を動かして風呂場に向かった。さっきまでは嬉しかったのに今では嬉しくなかった。


















「ふーん……【おとぎ電鉄】の罰ゲームでつけられたのね。葵は最初気づかなかったと。」


「……あぁ。」


「それであなたは逆に玲奈ちゃんに何をしたのかしら?最初の罰ゲームと最後の罰ゲーム、内容が知りたいなー?」


「…………」


 風呂上り、お土産なんて捨てて部屋に逃げようとこっそり移動していたんだが、階段の前に母さんが立っていたため無理だった。


「ほらほら、早くしゃべりなさい。」


「最初はくすぐっただけだ。」


「あら、仲いいわね。それで、もう1つ言うことがあるわよね。」


 最初の罰ゲームは別の話しても問題ないのだが2回目の罰ゲームは話したくない。母さんだったら絶対喜ぶだろ。


「言わないなら玲奈ちゃんから聞こうかしら。」


「玲奈に聞いても恥ずかしがって言わないと思うけどな。」


「それならますます聞きたくなってくるわね……あら?」


 ピコン!


 2回目の内容だけは何としてでも言わないようにしなければいけない。そう思っていると母さんのスマホに誰かから連絡が来たようだ。


「あー……ふーん……あ、もう遅いから寝て良いわよ。お母さんこれからちょっとお話しなきゃいけないから。」


「そ、そうか。じゃあ俺はこれで、お休み。」


「ええ、お休み…………ふふっ。」


 さすがに言うしかないのかと思い始めていた時、唐突に解放された。まぁ、知り合いから連絡来たらさすがにな。


 その知り合いには感謝しなきゃな。こうして罰ゲームの内容を話さなくてもよくなったんだし。ふぅ、やっとゆっくり寝れる。


「あ、もしもし。玲奈ちゃんも葵も大胆ね。葵がまさかキスするなんて思わなかったわ。玲奈ちゃんにはちょっと傷がついたから葵に責任を取って………」

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