第58話 裏

「あ、葵。おはよぉ。」


「あぁ、おはよう。早速だが帰っていいか?」


「ダメだよ。嫌でも頑張らなくちゃ。」


 朝、家を出てから葵と会うと、家から出たばかりなのにもう帰っていいなんてことを言ってきた。いくらなんでも早すぎると思うな。


「なんで、ドームに行かなきゃならないんだ。どうせ無観客なら学校のグラウンドでもいいだろ。」


「学校のグラウンドじゃ小さいんじゃないかな?ほら、私たちの全校生徒数って結構多いって言うし。」


「そうかもしれないが……わざわざ少し遠い所に集合って言われるとなぁ。」


 私たちの学校の生徒数は近くの学校と比べても結構多い。だから体育祭も少し大きめの所でやらなきゃいけないんだけど……葵はドームに行くのが嫌みたい。


 でも、正直に言うとだよ?私も少し面倒くさいなって思っちゃう。だって、頑張れば学校でもできるのになんでやらないんだろう。


「ほら、午前で終わって帰れるって思おうよ。帰ったら一緒にご飯食べよ?」


「……そうだな。ポジティブに考えよう。帰ったら何食べようか。」


「何にしよう……帰りにスーパー寄って帰る?」


「そうするか。俺も食べたいやつ考えておくよ。」


 今日のお昼ご飯は何にしようかな。まぁ、体育祭が終わってからでも時間はたっぷりあるから今考えなくても大丈夫かな。あ、そういえば……


「あ、二人三脚用のタオル持ってきた?」


「うん?……あぁ、カバンの中に入ってるぞ。」


「よかったぁ。二人三脚も頑張ろうね。」


「油断は禁物だが1番大丈夫そうな競技だよな。そういえば石晶と納泉さんは上手く出来るようになったのか?」


「どうだろう。でも翠ちゃんから練習してるってことは聞いてるよ。」


 ふぅ、良かった。葵がちゃんとタオルと持ってきてくれたみたい。タオル忘れてきちゃったから葵が持ってきてくれた良かった。


 翠ちゃんと桔梗君に関してはあまり聞いてないけど、翠ちゃん曰く「だ大丈夫だから安心して。」ってこの前言ってたから大丈夫だと思う。


「お、ドーム見えてきたな。」


「ほんとだ。これなら余裕で間に合いそうだね。むしろ暇になっちゃうかも。」


「ほかの人達も少しくらい入るんじゃないか?特に石晶と納泉さんは議長副議長だから早いうちに来るかもだし。」


「議長って大変そうだよね。」


「見ていても大変だってわかるよな。HRの進行とかもやらなきゃいけないし、昼休みに招集がかかる時もあるしな。」


 あ、そっか。議長とかが遅く来ると議長が知らせる必要のあることも遅くなっちゃうもんね。翠ちゃんは頑張り屋さんだね。二人三脚も頑張ってるし議長も頑張ってる。


「あ、あそこにいるの翠ちゃんと桔梗君じゃない?」


「お、本当だ。2人も今向かってたんだな。」


「おーい!翠ちゃーん!」


 翠ちゃんは私たちの目の前の道で2人で歩いてた。私が大きな声で呼ぶとびっくりした気がする。桔梗君はそんな翠ちゃんに笑って何か言って蹴られてる。


「葵っ、行こ。」


「あ、おいちょっと待ってくれ。」


「早くしないと置いて行っちゃうもん。」


 せっかく会ったんだから4人でドームに行きたいな。















【さぁ、いよいよ体育祭の始まりです!選手の皆さん頑張ってくださいね!実況の私はここでゆっくりしとくから!どうだ、羨ましいだろ!】


「いいなぁー、私もゆっくりしていたいなぁ。」


「実況の人、一言多いが実際に羨ましいな。」


【あ、ちょっ、先生……え?今のダメ?やり直し?……そんなぁ。】


 あーあ……せっかく楽しめそうだったのに、怒った先生のせいで台無しだよぉ。他の人もあちこち「えぇー!?」って感じになってるし。


【あー……これから体育祭、始めまーす……選手の皆、頑張ってねぇー】


「あ、やる気なくなっちゃった。」


「ドンマイと言えばいいのか、自業自得と言えばいいのか……」


「さっきの方が良かったなぁ。どうせなら少しでも面白くすればいいのに。」


「どうせ出番じゃない限り暇だしな。少しでも面白い方が楽しいのにな。」


 でも、やる気のない実況の声も緩そうで、また先生に怒られないかちょっと心配。だけど、こうピシって感じじゃないから少し良いかも。


【アー、アー……えっと、まずは団体競技になった二人三脚からだね。噂で聞いたんだけどいい感じのペアがいるってほんと?】


「良い感じのペア……翠ちゃん達かな?練習の時も楽しそうだったし。」


「確かに、言い合ってたりしていたが、終始楽しそうだったよな。」


【あ、まじ?本当に居たんだ、ありがとう秘書君。この調子で私が気になったことの情報収集よろしくぅ。】


 どうやら実況の子には仲のいい人が情報を集めてくれてるみたい。確か、実況の子って今の人だけだからそれもしょうがないのかな。


「俺たちのクラスは、もうちょい先だから、まだゆっくりしているか。」


「そうだね。葵、膝まくらしてもいい?」


「ほかの人に迷惑にならないなら良いぞ。」


「私たちも周りに誰もいないから大丈夫だね。」


 ぽすっ


「んん~やっぱり膝まくらって気持ちいいね。」


 いっぱい楽しむためにしばらくこうやって時間つぶして、体力温存しとかなきゃ。

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