第11話 表
「葵ー、帰ろー」
放課後になり玲奈がそう誘ってくる。これももはや見慣れた光景だ。クラスの人も最初は注目してたが今ではいつものかという風になっている。
「ああ、行くか。」
俺も玲奈と帰ることに慣れてきた。玲奈の歩くペースにあわせて校門へと向かう。
「ねぇ、葵。今手繋いじゃだめ?」
「だめ。せめて校門出てからな。」
ここで手を繋いだら周囲の目線が……。それに連動して俺が恥ずか死ぬ。校門出た後なら人も少なくなるしあまり恥ずかしがることはない。
「むぅ、けちぃ~」
「言ってろ。」
ぶーぶーという玲奈の文句を聞きながら昇降口に辿り着く。靴を履きかえ外へ出たところで……
「えいっ」
ギュッ
「ちょっ、おまっ」
「もう近いし良いよね~」
急に手を繋いできた。いくら校門に近いとはいえまだ他の生徒が結構いる。握ってきたことに関しては俺も嬉しいから良いのだが、結果として注目を浴びるわけで……
「……っ!は、早く行くぞ。」
「あー待ってよー。」
俺は少し早歩きになり、玲奈を引っ張るような形で歩く。それでも玲奈はなんだか楽しそうだった。
「沢優さん!」
後少しで校門を出れると言うところで、後ろから玲奈が呼ばれた。いったいなんだろうと2人して後ろを振り向くと……
「今、時間いいかな?」
なかなかのイケメンがいた。しかしいったい何の用だろう。玲奈は部活・委員会に入ってない。用事なんてあるわけ……
いや、1つだけある。
「う、うん。大丈夫だけど……葵、ちょっと待っててくれる?」
「……あ、ああ。分かった。」
恐らくイケメンの用事は告白だろう。玲奈は学校でも有名な美少女だ。彼女にしたいというやつはごまんといるだろう。俺は告白が終わるまで待つことにした。
でも……なんだろう。
このどす黒い感情は。
告白されて玲奈が頷いたら2人は付き合うことになる。とても喜ばしく祝福することなのに、なのに……
なんであいつとなんかという感情と玲奈は俺の、俺だけの女の子だという感情が沸いてくる。
俺は、玲奈が来るまで今にも暴れだしそうな2つの感情を押さえ込むのに必死だった。
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もうすぐで家に着く。俺達はお互い無言だった。無言だったが手は指を絡めて繋いでいた。玲奈は何か言いたそうにしてこちらを見る。でも、今の俺にはそれに応えれる余裕がない。
「あ……着いちゃったね。」
「……そうだな。」
もう家に着いてしまった。チラリと玲奈の方を見る。聞きたいことが沢山あるのに聞こうとすると思ったように声がでない。
「じゃ、じゃあね。また明日一緒に学校行こうね?」
玲奈も気まずく、早く帰りたいのだろう。そう言って家に入ろうとする。しかし……
ギュッ
「……え?」
「待て。」
気付けば玲奈の手を掴んで止めていた。まだ、まだ離れたくない。玲奈にさっきのことを聞くまでは。
「今日は泊まっていってくれ。」
「……ええ?」
流石に玲奈も訳が分からないんだろう。だけどどうしても近くにいて欲しかった。
「わ、分かった。」
玲奈はしばらく悩んでいた後に承諾した。
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「母さん、今日玲奈泊まるから。」
「あらお帰り、玲奈ちゃん泊まってくの?急ねぇ。」
「お邪魔します。おばさん、急にごめんね。」
母さんにも玲奈が泊まることを伝えて俺は部屋に行く。玲奈を先に入らせ後から俺も部屋に入って……
ギュッ!
「ふぇ?ちょ、ちょっと!?」
俺は玲奈を後ろから抱きしめた。急だったので玲奈もビックリしたのだろう。声が上擦っていた。
「なぁ、さっきの奴告白してきただろ?」
俺は校門であった出来事を話す。玲奈はそれに反応しピクッとした。可愛いと思うが今はそれどころじゃない。
「う、うん。」
「そうか。じゃあ……そいつと付き合うのか?」
俺は幼馴染の一線を越えそうな質問をした。もう戻れない、戻れる気もしない。
この気持ちを知ったとしても。
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