歌舞伎町、雑居ビル、ネットカフェ

ユートラ

インターネットカフェ ほーむ新宿店

 朝の新宿サブナードから靖国通りへと上がる階段は饐えた臭いがして、先ほどまでここにホームレスがいたことを知りたくもないのに教えてくれる。午前九時の太陽の入射角度に近い角度の階段を上り切って一分ほど歩き、どこにでもあるような雑居ビルのエレベーターの↑のボタンを押す。エレベーターの階数表示ランプがゆっくりとここへと向かってくるのを眺めながら、耳からイヤホンを外し、スマホでSpotifyの再生を止める。

 一階に着いたエレベーターからは昆虫の眼のようなサングラスをかけた女の子が派手なケースのiPhoneで話をしながら出て来た。エレベーターの中は予想通り香水臭い。入って四階のボタンを押す。

 インターネットカフェほーむ新宿店。ここが役者を目指しながらフリーターをしている僕の仕事場だ。


「おはようございます」

 遅番の見慣れた顔に決まりきった挨拶を済ませ、何よりも先にやらなければいけないことはタイムカードを切ることだ。印字された時刻は八時五十五分。今日は来る途中にコンビニに寄ったためいつもより余裕のない出勤になった。定時を一分でも過ぎたら三十分間ただ働きをすることになるため、制服に着替えるのはタイムカードを切ってから、ということがほーむ新宿店スタッフの暗黙のルールとなっている。

 遅番のスタッフとの会話もほどほどにフロア中央の急で狭い階段を下り、三階の更衣室へと向かう。ドリンクバーでは二十歳前後の金髪の若者がジュースをグラスに注いでいる。何度か見た記憶があるので常連の一人だろう。

 階段を下ると左に曲がり、トイレの近く、階段の下に位置する僅かなスペースが僕たちアルバイトに与えられた更衣室だ。今ではその狭さに慣れたものの「もともと掃除用具かなにかを入れるために造られたスペースを、更衣室に見立てているだけじゃないか?」と働き始めた時は少し不満に思ったものだ。

 ドアを開けるとスタッフの星君が腰にサロンを巻いているところだった。ライトグレーのシャツに黒いサロン。下は各々の私服のままだが、当然スカートやショートパンツはNGである。これがほーむ新宿店の制服だ。

「おはようございます」

「おはよ。あれ、今日星君早番だったっけ?」

「いや莉奈さんが例の如く出れなくなったらしくて」

「例の如くね。あ、大西さんおはようございます」

「うぃーす」

 今日一緒に早番で働くことになるのは星君と大西さん。

 もともと今日の早番に入っていた莉奈というアイドルをやっている女の子が、芸能の仕事のためシフトに出られなくなってしまい、急遽星君が代わりに出ることになったのだという。

 ただアイドルと言っても知名度はないに等しく、仕事と言ってもドラマや映画のエキストラ、イベントのコンパニオンばかりだと自嘲気味にぼやいていたがある。一度興味本位で仕事中に大西さんとインターネットで彼女の名前を検索し、彼女のオフィシャルブログ“ケセラセラ”を閲覧すると、毎日健気にしっかりとした内容の記事を投稿しているにも関わらず、常にコメントは彼女のファンと思われる同一の男たちからの三、四件に留まっており、同じショービズ界で身を立てることを目標としている僕は現実の厳しさに改めて凹まされた。尚、ブログの画像を見る限りでは胸は思ったより立派なものであることが判明し、後日彼女と一緒にシフトに入った際には目線が通常より下がってしまった。

「星君、今日授業じゃなかったっけ?」

「そうなんですけど、別に大丈夫だと思います。今日の授業は出席とらないし、単位取りやすいことで有名なやつなので。この前莉奈さんには急遽替わってもらった恩もあるし。じゃあ先に行ってます」

 星君はそう言うと僕と大西さんの脇をすり抜け、狭い更衣室を後にした。

 星君は一年前からここで働き始めた大学生二年生。偶然僕と同じ大学で学部こそ違えど、文系というところまで同じだ。そういった経緯もあり、彼とは一番仲が良いかもしれない。私大の文系なんて遊ぶために行くなんてことをよく耳にするが、自分の数年前と今の彼の姿を見てあながち間違いではないかもしれないと思う。

「莉奈、またかよ。でもいくらルックスが良かったり、演技力あっても結局はコネだったりがモノを言う世界なのにな」

 大西さんは上着を脱ぎながらぼやいた。

「やっぱそうなんですかねえ」

「慎君、そりゃそうだよ。例えば芸人なんかにしてもそうで、いくら面白いコント出来たり、ネタ持ってても、結局先輩芸人やお偉いさんに気に入られなきゃ成り上がるのは難しいんだよ。俺の知り合いの芸人でもライブとかでの客受けはすごい良いんだけど、ずっとそのポジションで止まってる奴らとか腐るほど見てきたもんな」

 そう息巻く大西さんは今年三十一歳になったお笑い芸人。今年の夏に三十路を迎えた相方が家業を継ぐと言って実家の広島に帰省してしまったため、今後ピン芸人でやっていくか、新しい相方を捜すか悩んでいるらしい。先週も「俺のツッコミを活かせるのはあいつしか考えられなかったのに」と口惜しそうにしていた。ただ大西さんがやっていたお笑いコンビ“メンチカツ”のライブをほーむのスタッフのみんなで観に行って以来、大西さんはピン芸人ではやらない方がいいという意見が僕たちスタッフの間では共通認識となっている。

「莉奈みたいに実家暮らしはいいよな。俺なんて、昨日も一昨日も牛丼とカップ麺。飲み物はここのドリンクバーだよ。でもさ、まだ俺なんてマシな方で俺の知り合いの芸人は給料日前五日間白米のみっていう強者がいたよ。令和の食生活じゃないよね。慎君だってやりくり大変じゃない?」

「そうですねえ。もう必要なものしか買えなくなっちゃいましたね」

「そうそう。俺もいよいよこれやばいもん」大西さんは履いていたコンバースをひっくり返す。ソールは激しく摩耗していた。

「あーそれは限界に近づいていますね。しかし靴はまだ良いとして、そんなに厳しい食生活していたら体壊しませんかね?食費は確かに安く上がりそうですが」

「確かに最初は体調が優れなかった気がしてたのよ。それが人体って不思議なものでさ、どうやら続けていくうちに俺の体がこの食生活に適応してきたのか、最近は特になんともないぜ」そう言って大西さんは少し出っ張った腹を叩いた。

「なるほど。じゃあ僕も先に上行きます」

 まだしゃべり足りなさそうな大西さんにささやかなリアクションを残し、僕も四階の受付へと向かう。

 受付に着くと星君が“連絡ノート”と呼ばれているスタッフ間での連絡事項が書いてあるくたびれたキャンパスノートを渡してくれた。さっと目を通すが、今日は特に注意すべきことはないようだ。

「いやはや今日は大変でしたぜ」そう言って深いため息をついたのは遅番のラブ。愛沢という姓から“ラブ”と名付けられ、今ではスタッフみんなにそう呼ばれている。ラブは新宿、渋谷、下北沢を中心に活動するロックバンド“魔球”のギタリストで、時折ライブ後に終電を逃してギターを担いだままここに泊まりにやってくることもある。一度ラブに誘われて魔球のライブを観に行った際には、素直に格好良い音楽だと思ったが、ライブハウスのフロアに客は僕以外にほとんど見えなかった。演奏が終わった後、ラブとその話をすると決してその日が珍しいわけではなく、いつもそのような具合なのだと言う。僕が所属しているほぼ無名の劇団でさえ、舞台をやる時は全日程を通して席の七割から八割くらいはなんとか埋めることができる。それを思うと売れないミュージシャンというのもまた日々辛酸を舐めているのだと感じた。

「どうしたのさ?」

「聞いて下さい。俺が幸せの、そして人生の意味を考えていた二時くらいに、五階から血相を変えたうら若き乙女がどたどたと降りてきたんです。何かと思って話を訊くと、なんとこの季節にゴキブリが出たというじゃないですか」

「ええ、本当かよ?」

 僕たちが働いているこの雑居ビルは一階がコンビニ、二階が現在空きテナント、三階から五階が我らがほーむ新宿店、そして階上の六階が居酒屋、七階がエステサロンとなっている。そのため夏の間に多発するゴキブリの出現には僕たちもしばしば頭を悩ませているが、十月のこの季節でも現れるとは。

「俺もまさか晩秋に遭遇するとは思いませんでしたよ。さらに不幸なのが、その時五階の八割以上は埋まっていたのです」

「あらあら」

「その時は夜も静まり返った丑の刻、殺虫剤は良くないと思い週刊誌のバックナンバーを持って乙女を背に五階へ向かいました」

「面白そうな話だな」大西さんも興味津々のようだ。

「それで現場に辿り着きドアをゆっくり空けて、注意深くブースを見渡すと、ひたりと壁にしがみついたチャバネゴキブリがいました。こいつがまたブースの壁の色に似てましてね、俺は一瞬“プレデター”でシュワルツェネッガーが身を隠すため体に泥をなすり付けるシーンを思い出しましたよ」

「はいはいあったね」僕もそのシーンを思い出した。

「あ、分かります?プレデター面白いですよね。で話を戻しますが、まずは乙女の荷物を取り、離れたところで固唾を飲んで俺の一挙手一投足を見守ってる彼女に渡しました。そして微動だにしないゴキブリに接近していって、ゆっくりと週刊誌を振り上げました」

「でも外したんだろ?」僕は予想した。

「そうなんです‥‥勢い良く振り下ろした週刊誌がブースの壁を叩きばんと大きな音を立てると、なんとゴキブリがカサカサと隣のブースに行ってしまったんです」

「うわあ…」その光景を想像して思わず声が漏れた。

「俺はゴキブリを追うように隣のブースの側まで行き、背伸びをしてブースの壁の上から中を覗き込むと、ヘッドホンをかぶった男がネットゲームに夢中になっていました。ゴキブリの侵入にはまだ気付いていないようで、ゴキブリもまた静観を決めていました。乙女にはとりあえず安全な四階に移動して頂きました。吊り橋効果によってここから恋が生まれないかなと思いましたけど、残念ながらそれはありませんでした」

「だろうよ」大西さんは笑った。

「俺は迷いました。お客さんに説明をして一時的に避難してもらうか、それともこのことをもう忘れてしまおうか」

「いやいや忘れちゃ駄目だよ」

「そう悩んでいると男が席を立ちました。俺はゴキブリの侵入に気付いたのかと危惧しましたが、そうではなく幸運にもただトイレに行きたかっただけのようでした。俺は催したのが便意であることを祈りつつ、男が離れた隙にブースにこっそり忍び込み、もう一度週刊誌を振り上げました」

「おっ?」

「やってやりましたよ。一撃です。男に同じ失敗は許されませんから」ラブの頬が緩んだ。

「それで男が戻ってくる前に急いで後処理をし、ブースを離れました。戻ってきた男は何事も無かったようにネットゲームを再開しました。なんていうか気分は“プリズン・ブレイク”みたいでしたね。さながら俺はマイケル・スコフィールド」

「見事な話だった」僕は小さく拍手をした。

 ラブは再びため息をついて言う。

「ゴキブリが怖くてネットカフェスタッフはやれませんからね。俺の話は以上です。引き継ぎは特にありませんが、もしかしたら五階のメロンソーダが切れるかもしれません」

 九時を過ぎたのを確認したラブたち遅番スタッフは、タイムカードを切ると三階へと向かった。

 少しして私服に着替えたラブたちが戻って来た。

「では早番のみなさんさようなら」

「お疲れ」

 エレベーターの扉が閉まる。遅番のスタッフ三人が二十三時から九時の勤務より解放される瞬間だった。

「いやあ大変だったでしょうね」

「うんうん。しかしゴキブリもまだ出るんだねえ」

 僕はゴキブリの生命力に改めて畏怖した。

 大西さんがサロンの腰紐を結びながら尋ねる。

「星君、入るのいつ以来?けっこう久しぶりじゃない?」

「うーん、確か先週の金曜以来ですね」

「そっか。星君も久々の早番ということだし今日はのんびりやろうや。な、慎君?」

 僕から見ると大西さんはいつものんびりやっているように見えるのだが「そうですね」

と一応相槌を打っておいた。

 受付から見える靖国通りは今日もせわしなく動いている。

 少し身を乗り出して見下ろした下の路地にも朝からたくさんの人たちが歩いていたが、ここ、ほーむ新宿店四階受付にはそんな東京、新宿、歌舞伎町のスピード感とは無縁の様に穏やかでゆっくりとした時間が流れ、有線から聞こえるJ-POPだけが少しだけ場違いに活発な様に思える。このようにして、僕の新宿での時間が始まってゆく。


 九時四十五分。今の滞在客数はちょうど三十人。この時間の平均よりもやや少ないといったところだ。全ての客の料金、ブース、滞在時間などはカウンターにある二台のパソコンで全て把握出来るようになっている。

 延長料金が高額になっている客の有無を軽くパソコンでチェックしていると、正面のエレベーターが開きOLの様な格好をした、おそらく二十代と思われる女子が現れた。見たことのある様な、ない様な。少なくとも常連ではないことだけは確かだ。

「いらっしゃいませ。お煙草は吸われますか?」

 エレベーターで四階に上がってきた客は目の前にある受付で、まず喫煙席か禁煙席か、リクライニングチェアかフラットシートなど座席の種類を希望する。

 基本的には客の希望を聞いて僕たちスタッフが座席を指定するのだが、自分のお気に入りの座席番号を指定してくる常連の客も多い。

「禁煙で」

「リクライニングチェアの席とフラットシートの席、ご希望ございますでしょうか?」

「リクライニングで」

「ただいまのお時間ですと、二時間、三時間、五時間パックがご案内出来ます。いずれのパックも延長料金は基本料金と同じく、十五分ごとに百円となっておりますので、お気をつけ下さい。また入店後のパックの変更はできませんのでご了承お願いします」

 次に訊くことは客の希望する料金体系だ。ここでは基本料金が十五分百円となっている  ほか、時間帯によってさまざまなパック料金がある。例えば僕が出勤する九時だと二時間、 三時間、五時間パックがあり、料金はそれぞれ五百円、八百円、千三百円となっている。

 例えば基本料金で二時間利用すると八百円だが、最初に二時間パックを選べば五百円で済むというわけだ。パック料金は全て先払いとなっているが、基本料金と延長料金は退店時に受付で払うことになっている。

 ただ座席を訊くか、料金体系を尋ねるかというこの二つに優先順位はマニュアルとして特に設けられているわけではないので、スタッフ各々で訊く順番は異なり、細かい言い回しなども十人十色である。

 入店時間、座席という入店情報が印刷された伝票を小さなバインダーに挟みOLと思わしき女子に渡す。基本料金、禁煙リクライニングという組み合わせで入店し、受け付け近くのドリンクバーでコーヒーか紅茶を手にした後、ヒールの音をカツカツと立てながら五階へと上がっていった。

「清掃溜まってますか?」

 星君が尋ねた。

「三階に少しあるかな」

「じゃあ俺三階の清掃行ってきますね」

 カップ麺やスナック菓子など物販の在庫を数え終えた星君がトランシーバーを腰に付けながら、フロア中央の階段に向かっていった。ここではスムーズな接客を可能にするため、勤務中は各自一つずつトランシーバーを持つことになっている。

 清掃し終えた座席番号を受付にいるスタッフに伝え、連絡を受けたスタッフがカウンターのパソコンの店内マップの「清掃中」を解除する。暇な時ではそうでもないが、忙しい時はトランシーバーがなければ店を回すのは非常に難しい。

「三十二、三十三、四十八、解除お願いします」

 星君の声が届き、それに対して受付にいる僕が答える。

「三十二、三十三、四十八了解です。あと五十も帰ったんで、清掃お願いします」

「五十番了解です」

 ここでは各々に割り当てられた業務がほとんどないので、柔軟にその都度しなければならない仕事をこなしていく。しかしそういった勤務形態のため、仕事に対して姿勢の差が現れやすいと言えばそうかもしれない。


「真鍋が辞めるって話聞いた?就活をそろそろしなきゃいけないため、みたいな感じで店長に話していたらしいよ。なんかみんな就活のためとかってよく言うけど、そんなに就活って忙しいのかなあ」

 大西さんが受付の奥にある流し場で、客が使ったグラスをスポンジに突っ込みながらカウンターの僕に聞こえる大きさの声で言った。

「本当ですか?それは初めて聞きましたね。まあ三年だししょうがないといえばしょうがないですよね。僕も就活はしてないからあんまり詳しいことはよく分かんないですけど」

 真鍋というのは十七時から二十三時の中番のシフトに主に入る現在大学三年生の男だ。将来はテレビ関係かマスコミの職に就きたいと飄々と語っていた。そんな真鍋に対して大西さんがさながら“ギョーカイジン”のような口ぶりでいろいろ話していたことがあり、後で「大西さんって全然売れてないのに、どういうつもりなんですかね」と呆れた顔で言われたのを覚えている。

「俺が高校の頃にしたものとは別物なんだろうなあ。あの時はけっこうあっさり決まっちゃったもん」グラスと灰皿を洗い終えた大西さんが僕の横にやって来て言った。

 確か大西さんは地元群馬の工業高校を卒業後、一度金物だかなんかの工場に就職したとかいう話を思い出した。その後どういった経緯でお笑い芸人になったのかまでは知らないが。

「就活をしていない僕が語るのもなんですが、言ってみりゃ人生の第一クォーターの集大成みたいなところありますよね。良い高校入るのも、良い大学入るのも、結局良い企業に入る為ですし」

 大西さんが苦い表情をする。

「へっ、それってどうなんかね?履歴書に縛られる人生なんて俺は嫌だな。それにあいつがどっかの局に内定決まったとしても大変だぞ。業界も今はいろいろ大変だからな。テレビ局もネットに押されてるっていうのは本当だし」

「そうかもしれないですね。週刊誌かなんかで読みましたよ、いやネットだっけかな?局も大物タレントのギャラが払えなくなってきてるから、若手芸人とかをガンガン起用してるって」

「なんだかんだ日本にはまだまだ金ない人たちいっぱいいるからね。だからネットカフェみたいなのがあちこちにあるのであってさ」

  インターネットカフェの店舗数は減少傾向らしいが、それでもほーむ系列店でここ新宿以外に高田馬場、中野、吉祥寺、赤羽と四店舗存在し、各店舗がいわゆる“ネットカフェ難民”と言った人々を支え、そして支えられていることも揺らぎようのない事実だ。一時期貧困ビジネスなどとも言われあまりポジティブなイメージのないインターネットカフェだが、これも社会の一側面であることは否定できない事実なのだろうと大西さんとの会話で改めて感じた。もちろん僕たちスタッフには社会がどうだとかいう崇高な意識などは微塵もなく、非常に簡単でストレスの少ない業務内容に惹かれここで働いているのだが。


 奥の通路から一人の男が受け付けに向かってくるのが見え、僕に昨今のテレビ事情を講釈していた大西さんは口を閉じた。常連の“アジア”である。大西さんは伝票を受け取り、バーコードをスキャンするとほぼ同時に「延長料金ありません。ありがとうございました」と言い、のそのそとエレベーターに向かうアジアの後ろ姿を眺めていた。その姿は僕に先日NHKのドキュメントで観たカンボジアの水牛の姿を思い出させた。

「久々に見たなあ」

「確かこの間も来てましたよ。日曜だったかな」

「相変わらずの存在感だね」

 ほーむ系列店では会員登録をやっていないため、特別な事情がない限り客の名前を知ることはない。そのためスタッフは特徴のある客に影であだ名を付け呼んでいる。逆に言えばあだ名を持っているということは僕たちの印象に強く残っている証でもある。もちろん名誉のあるものではないが。

 アジアは一年前くらい前から訪れるようになり、その時にいつもかぶっていたキャップの前面に“ASIA”というロゴがあったことからそう呼ばれている。今ではそのキャップをかぶっていないため、あだ名の由来を知らない新人の頃の莉奈に、ラブが「あいつはアジア青少年友好団体の顧問なんだよ」と適当なことを言っていた。いつも仏頂面で言葉遣いも丁寧とは言えないが、特にブースを汚すこともなく、僕が知っている限りではスタッフと何か揉めたということも聞いた話もないため、特別やっかいな客というわけではない。

 またアジアは、携帯電話で英語や中国語、韓国語でもない謎の言語で誰かと話していたという不思議なエピソードも持っている。当時そのことはスタッフの間で少し話題になり、彼の過去をみんなして推測したものである。ラブがその時のアジアの物真似をことあるごとに披露していたのには正直ちょっと鬱陶しかったが


 三階から星君がグラスとカップを両手いっぱいにして、落とさないように慎重な足取りで戻ってきた。

「五十番、やばいですね。雑誌が十冊くらい、漫画は三十冊くらいありましたよ。グラスとカップも合わせて八個くらいありました。本当勘弁して欲しいですね。どんな奴がいたかわかります?」

 星君が呆れ顔で流し場にグラスをそっと置きながら言った。

「確か普通のサラリーマンだったと思うけど」

「そうですか。全くだるいですねえ」

「僕も片付け行くよ」

 ほーむ新宿店スタッフの業務のうち入退店の接客と共に最も大きな役割となるのが、座席の清掃だ。マナーの良い客の場合はダスターで机の上とパソコンのキーボードを軽く拭くだけで終わりなのだが、先ほど帰った客のようにブースの中にグラスや雑誌、漫画などを大量に残していく客の場合は片付けを終えるのにやや手間がかかる。清掃のためブースのドアを開け、大量の漫画や雑誌が視界に入ってきた時は、この仕事をしていてうんざりする瞬間の一つである。しかしそれだけならばまだ良いと言えるかもしれない。使用済みのコンドームや生理用品が置いてあることもあり、かつて真鍋はリクライニングチェアの手すりに付着していた禍々しきDNAに遭遇したこともあるという。そのブースを清掃したのが真鍋で、女性スタッフでなかっただけことは幸いだった。

 四階から三階へ階段を降りると、すぐ左手にドリンクバーがある。三階の通路は漢字の“日”の様な形をしており、階段は右下、正しい書き順で書いた時、一番最後にペンを止めるところにあり、五十番は右の通路真中央付近、正しい書き順で書いた時の三画目のペンを置いたところだ。

 木目調の合板でできたドアをスライドさせると、黒い合皮のマットの上に無造作に置かれたパチンコ情報誌と、机の上にスープだけ残ったカップ麺が目に飛び込んできた。

「うわ、こりゃ面倒だね」

「そうなんですよ、どうせこんなに読めないだろうに」

「とりあえずブースからどかそうか」

 明らかに読めない量の漫画を席に持ち込む客も多い。そういう者に限って本棚に戻さないことが多いので、僕たちスタッフにとってはいい迷惑だ。基本料金で入って一時間以内で出店したにも関わらず、漫画が三十冊くらいあったと大西さんが本気で怒っていたこともあった。

 しかしこんなことでいちいち腹を立てていてはそれこそ心療内科の世話にでもならなければいけない。「ドアを開けた時、きれいな状態を期待しちゃいけないよ。雑誌が二、三冊、漫画が十冊、それにスナック菓子の袋が散らかっている状態をあらかじめイメージしておくんだ。そうすればドアを開けた時に、例え汚い状態でもなんにも思わなくなるから。ご飯を食べにいった時、みんながみんなお皿をきれいにして席を立つわけじゃないだろ?そういうことさ」これは僕がここに勤め始めた時、当時の先輩に言われたことだ。それを聞いた僕は「なるほど」と納得したものだが、その先輩は結局、クレームを言ってきた客に対して思わず舌打ちをしてしまい、殴り合いにまで発展しそうな騒動の末結局ここを辞めてしまった。

「ごくろうさん、しかしタチの悪い客はいつでもどこでもいるよねえ」大西さんが受付近くで雑誌を立ち読みしながら言った。

 それを見た星君が皮肉の意味を含め「慎さん、助かりました」と僕に礼を言ったが、大西さんはそんなことに気付きはしないだろう。

「往復しなくちゃいけない量は面倒くさいねえ」

「あんまり不安定だと、ここの階段、急だから危ないですし」星君がすっかり冷たくなったカップ麺のスープを流し場に捨てながら言った。

「慎君、そういえば今日倉柳さんは?」

 ほーむ新宿店店長、倉柳さん。もともとは倉柳さんも僕たちと同じ一介のアルバイトだったのだが、今は統括本部長となった当時の新宿店の店長がその倉柳さんの姿勢を評価し、正社員として推薦した。統括本部長となり新宿店から離れた当時の新宿店の店長の後を継ぎ、倉柳さんは晴れて一国一城の主となったのが四年前。今でこそ少しマンネリ化しつつあるほーむ新宿店の業務だが、オープニング当時の倉柳さんの気合いは凄まじいものがあったと聞く。

「今日は確か品川で店長会議に出席してからこっちに向かうらしいんで、中番の時間くらいに来るみたいですよ」

「お、やった」大西さんの目が爛と輝いた。

「しかし新宿店もなかなか経営が大変みたいですよ。この間、倉柳さんが少なくともあと五万はいきたいなってぼやいてました。もちろん一日の売り上げのことだと思うんですけど」

「今ここの売り上げが一日二十五万くらいだから三十万かあ。客単価千円とざっくり考えるとあと五十人の来店が必要になると。いやー難しそうだ」

「ですよねえ」

 そのような話をしているうちにサラリーマンらしき男が来店してきた。男の右手のバーバリーのバッグに見覚えがある。

「いらっしゃいませ。お煙草はお吸いになられますか?」

「吸います」

 サラリーマンを基本料金で案内した後は三十分ほど来店が途絶えた。やはり一日の売り上げを五万円伸ばすというのはなかなか難しそうだ。


 ローテーションで組んだ一時間の休憩を済ませて受付に戻ると、大西さんと談笑をしている星君に次の休憩に入るよう促す。

 ほーむ新宿店では基本的に一つのシフトを三人体制で勤務するため、早番の休憩は十二時過ぎから三人が一時間ずらしながら入る仕組みになっている。ただ不慮の事態に備えてブースを使って休憩する場合はトランシーバーを持っていき、受付と連絡を取れるようにしておくのが僕たちのマナーだ。もちろん休憩中のスタッフを呼びつけるような事態はそうないが、かつて一度だけ休憩中に「申し訳ないですが、受付までお願いします」とトランシーバーで呼び出されたことがある。何かと思って受付に急ぐとカウンター越しに莉奈に激昂している男がいた。

 男は“信長さん”という常連の一人で、ここに来ては戦国時代のオンラインゲームに没頭していたことからその名が付けられた。入退店の際にも常に礼儀正しく接してくれていたのでスタッフの間でもすこぶる評判はよく、きっとやり手の営業マンで空いた時間を使ってオンラインゲームをしているのだと、僕たちの勝手な想像の餌食となっていた。

 信長さんはその日もにこやかな笑顔とスーツ姿で現れ、正午過ぎに三時間パックで入店しオンラインゲームに興じていたようだが、思わぬ悲劇が起こってしまった。

 ほーむ新宿店ではインターネットの回線のハブが三階の二十番、四十番、五階の六十五番に点在しているのだが、その時に四十番に入った客がなんらかの理由でハブのプラグを抜いてしまったため、三階のおよそ半分のインターネットの回線が切れてしまったのだ。どうやらオンラインゲームでちょうど面白いところだった信長さんは、受付に駆け足でやって来て、こめかみに青筋を浮び上がらせながら「どうしてくれるんだ!」とまくし立ててきたという。

 僕がトランシーバーで呼ばれ受付に着くと顔面を真っ赤に紅潮させた信長さんと、真っ青な表情を浮かべ謝罪の言葉を繰り返す莉奈の姿が見事なコントラストとなっていた。店長不在時はシフトリーダーである僕がクレーム処理を担当することになっているので、興奮冷めやらぬ信長さんを五階の店長室に連れて行き二十分ほど怒声を浴びた後、その日の利用料を全額返金してなんとかお帰り頂いた。もちろんその後、信長さんの姿は見ていない。


 午後四時四十五分。久々の来店かと思い身構えたが、エレベーターから現れたのは今日の中番のスタッフ、秀成と川島さんだった。

「おはようございます」

「やあ、今日は客少なめだけど、倉柳さんが来るらしいぞ」

「倉柳さんが来るならむしろ客が多い方がありがたいのにな」

 秀成は各店舗の店長の上司にあたる統括本部長の年の離れた従兄弟で、ほーむ新宿店含む、ほーむ系列店の中でも間違いなく一番の頭脳の持ち主だ。統括本部長の話によると秀成は幼少から勉強において恐るべき才能を見せ、小学二年生で分数の四則の計算を理解し、小学四年生で二次方程式を把握し、小学六年生には微分積分を学んでいたという。両親は秀成をもちろん地元の中学校には進ませず、地元埼玉県で偏差値の一番高い私立中学に通わせたのだが、結果としてこれが大きな間違いとなる。埼玉県の特別な秀才が集まるその中学校においても、彼は他をまるで寄せ付けず入学以来圧倒的な成績を見せつけたのだが、そのことがまるで面白くなかった級友たちの悪意を呼び寄せてしまう。小さな悪戯から始まった級友たちの苛めは凄まじい早さでエスカレートしていき、夏休みに入ったまま、彼が中学校に登校すること二度となかった。その後三年間に渡って引きこもりとなり、社会から断絶されインターネットの中にしか居場所を見出せなかった彼の行く末を心配した両親が、甥にあたる統括本部長に相談をし、統括本部長の手配によりほーむ新宿店のアルバイトとして社会復帰を果たすことになる。一年前に秀成が初めてここで働き始めた時は、声は聞き取れないほど小さく、会話をする時は全く目を合わさなかったため、とても接客はさせられなかったのだが、今ではコミュニケーション能力はだいぶ向上し、他のスタッフ同様接客を任せられるようになった。

 タイムカードを押して早々に更衣室に向かったのは、ほーむ新宿店の数少ない女性スタッフの川島さんだ。彼女は音楽大学のピアノ科を卒業した後、自宅でピアノ教室を開いているのだが、やはりそれだけでは当然十分な収入を得ることは難しく、ここでアルバイトとして働いている。おそらく全スタッフの中で最も生真面目な性格で、勤務中は何かしら仕事見つけ、終始黙々と働いている。川島さんと同じシフトとして働く時は、彼女があまりにも真面目に働くので若干気後れしてしまう。川島さんの様な人物がなぜここ欲望渦巻く新宿歌舞伎町のネットカフェで働くことを選んだのか疑問に思ったラブがそのわけを彼女に尋ねてみると、恥ずかしそうに「漫画が好きなので」と語ったという。

 そして中番勤務開始時間直前の四時五十九分にタイムカードを滑り込ませてきたのは、今日大西さんとの会話に出てきた真鍋。都内一流大学の法学部で、一見だらしない私立大学生の見本の様だが押さえるとこはしっかり押さえる器用な男である。大西さんの話では就職活動に備え近いうちにここを去るという話だ。


「じゃあ今日も特に引き継ぎはないかな」

「了解です。十二時間オーバーはいないですよね?」真鍋が連絡ノートに視線を落としたまま尋ねた。

「いないよ」

 ほーむ新宿店ではどのパックで入った客にも滞在時間が十二時間を超えた場合、一度延長料金を支払って清算をしてもらう様にしている。延長料金が高額になり、支払いができないという事態を未然に防ぐためだ。僕が働き始めた頃にはこの制度はなかったのだが、ある日五時間パックで入店後、三十時間延長した客にまんまと逃げられてしまったという事件があり、それ以来この“十二時間清算制度”が施行された。

「じゃあお疲れ様、またね」

「お疲れ様です」

 僕、大西さん、星君の三人でエレベーターに乗り込む。

「慎君、最近舞台とかやんないの?」

「次は二月ですね。年明けから稽古に入るのでまたちょっとお休みをもらうと思います」

「そっかー劇団はお笑いとかバンドマンと違ってそんな頻繁にやれるもんじゃないからねえ」

「次も時間が合えば観に行きますよ」星君が嬉しい一言を発してくれた。

「それ本当助かるわ。うちの劇団も一番客呼べる奴が前回を最後に辞めちゃってさ。これから動員どうなるんだろうとけっこうみんな焦ってるんだよね」エレベーターが一回に着いた。目の前には僕たちが出てくるのをカップルが腕を組んで待っていた。我がほーむ新宿店に行くのか、それとも六階の居酒屋または七階のエステサロンに行くのだろうか。

 この時間の靖国通りには通行人をハントするためにキャッチたちがぞろぞろと湧いて出てくる。何度も声を掛けては拒絶されては繰り返す彼らの仕事もなかなか大変なのだろう。

「慎君は役者で食えなかったらとか考えない?」

 歩行者用信号機が青に変わるのを待っている間、大西さんが尋ねてきた。

「もちろん考えますよ。僕も二十五ですからね、いつまでも若くはないですし」

「だよねえ。ただちょっと待って、二十五で若くないとか勘弁してよ」

「うーん、でも今テレビに出ている主演級の俳優の多くは二十代前半の時から活躍してますからね、それを思うともう二十五ですよ。お笑いの人たちは四十前でブレイクとかもよく聞くし、年齢的はまだまだじゃないですか?」

「うーん」大西さんが唸った。

「俺も相方辞めて、ピン芸人になるか新しいコンビを作るかで悩んでるんだけど、ぶっちゃけもしかしたら悩むところはそこじゃないんじゃないかって思い始めている今日この頃だよ。てか悪いね星君、こんなシリアスなトークしちゃって」

「いやいや全然。気にしないて下さい」

 歩行者用信号機が青に変わった。たくさんの人々が靖国通りの八車線の上ですれ違う。

「馴染みの奴らがテレビとか出ているのを見てるとさ、なんともいたたまれない気持ちになるのよ。ビビンバボーイズって知らない?最近けっこう地上波に出てきてる芸人なんだけど、あいつらが正に俺と同期でさ、昔一緒に小汚い飲み屋でお笑い論を語り合ったり、お互いの芸風を罵ったり、慰めあったりしてたんだよね。そんで売れたらベントレーに乗って、中目黒のマンションに住んで、あの女優とかどこぞのアイドルと付き合うんだとか、もうくだらないことを飽きるほど話してたのよ。それをあいつらは現実のものにしようとしているんだ。一方、俺はというと時給千五十円で穴蔵みたいな新宿のネットカフェであくせく働いている。こんな悲しい現実を思うと、もうお笑いなんか、って気持ちにもなろうってもんじゃない」

 言うほどあくせく働いているか?と思ったが、さすがに今この場面でそのツッコミはいくら芸人の大西さんと言えど無粋だろう。

「俺、今年で芸歴十年なんだよ。もちろん十年でまだ芽が出てない奴もたくさんいるけど、これからスターダムに上がれるのかってなことを考えるとねえ」

 想像以上にネガティブな大西さんの気持ちの吐露に、僕は二の句を継ぐことに失敗してしまった。

 賑やかな新宿駅構内で僕たち三人をしばしの沈黙が支配した。

「でも俺、やっぱりお笑い好きだからな」

 ぽつりと呟いて改札へと向かう大西さんの後ろ姿はやはり寂しかった。

「いつになく悲壮感漂ってましたね」

「うん、いつもの自虐ネタとは違って今日はガチだったね」

「でも僕思うんですよね」前からスマホを操作しながら来た男に間を割られた後、星君は続けた。

「みっともなくても無様でも、生きてさえいれば価値のあるものなんじゃないかって。死んでしまえば悩むことすらできないですしね。じゃあお疲れ様です」

 そう答えた星君の姿も今日はなぜか寂しげに見える。

 二人と別れ四番線のホームに向かいながら、ポケットからスマホを取り出す。イヤホンが絡みあっていて解くのに少し時間がかかった。

 新宿駅構内には新しいドラマの広告が苛立たしいくらいに大きくアピールしている。主演の若手俳優は確か僕と同じ二十五歳。読者モデル出身の身長百八十センチを超える美男子だ。どうせこんなルックス先行の奴に大した演技はできやしないだろうと思っていたのだが、いざ彼の演技を見てみるとこれが案外しっかりしたもので驚いた記憶がある。

 やっとの思いで解いたイヤホンを耳に突っ込む。再生するのは今朝の続きのアヴァランチーズ。

 埼京線の車内は運良く空きがあり座ることができた。瞼を閉じるとあの大西さんもどうしようもない現実に葛藤しているという事実が僕の肩に重くのしかかってきた。


 大学三年の夏、友達に誘われて初めて舞台を観に行った。名前が売れているとは到底言えない小さな劇団の小さな舞台だったが、僕の人生を揺り動かすに十分だった。それから演劇の世界にのめり込み、就職活動はもちろんせず役者で生きていくのだと人生の舵を切った。親にはもちろん反対された。「何のために大学まで出たの」と何度も説得されたが、決心は変わらなかった。

 仕送りが当然なくなる僕は家賃を下げるため、大学を卒業する少し前に住居を吉祥寺から埼玉に引っ越し、バイト先もここ、ほーむ新宿店に変えた。それから約三年が経とうとしている。所属している劇団の舞台の稽古の合間に幾度となくオーディションも受けた。小さな役をもらい映画やテレビドラマにも出演したが、エンドロールに名前が載ったことは未だない。

 有難いことに僕の演技が好きと言ってくれる人も少しはいるが、現状を突破する糸口は正直見えてはいない。この世界が完全な実力主義などど思っている人はおそらく一人もいないだろうが、それでも今の僕にできることは演技を磨き、愚直にいろいろなオーディションを受けるしかない。大西さんの感傷が流れ込んできたのか、妙に考え込んでしまった。果たして僕は演劇が本当に好きなのだろうか?そんなことを思っているうちに、心地よい埼京線のリズムに揺られ眠りに落ちた。

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