ひとりぼっちのアンソロジー

鬱になるくらいなら

雪が降る町

「結婚しよ」

100回目のデートの帰り道、暗い夜道を歩きながら彼女はそうポツリと呟いた。

「えっ?」

「だから~、そろそろ結婚しないの?」

唐突に言われ、余裕をなくして焦る僕。

言葉を失い挙動がおかしくなる。

「えっと.....ま.....待ってね.....」

「もう.....」

空から雪が静かに降る夜、街灯に見下ろされているように感じて、赤くなった顔をマフラーで隠した。もじもじしている僕を横目に、彼女は少し微笑みながらゆっくりと口を開いた。

「私達、出会ってからもう長いよね」

「10年、だっけ」

「うん。そうだよ。はじめてあったときのこと覚えてる?」

忘れもしない。中学校に入ったばかりの部活見学の日、クラスのとある一人の女の子に吹奏楽部に誘われた。

『一緒に見学に行かない?』

明らかに陽キャな彼女は、もたつく僕の返答も待たずに腕を引っ張っていった。

『ま、ま、待ってくださいよ!』

『やだ!』

『と、いうか誰ですかあなた!?』

『私はなつき!伊藤夏希!!君のことは調べさせてもらったよ!田辺彰君!!』

『な、なんで知ってるの.....!』

『だから調べたっていってるじゃないの!!』

『そ、そもそもなんで僕なんですか~』

『だって、なんか君面白そうだもん!』

『そ、それだけ!?』

『そう!あなたは今日から私の友達になるのよ!!』

訳がわからなかった。だけど、心が動くのを感じる自分がいた。


「おぼえてるよ。君が僕の腕を引っ張ってったじゃん」

「ちゃんと覚えてるんだ~!!」

「忘れたくても忘れられないよ」


部活に入ってから僕となつきは親友と呼んでも過言でないくらい仲が良かった。時には彼女の恋愛相談に乗ったり、時には部長の愚痴を言い合ったり、時には一緒に遊びにいったり、時には一緒に勉強したり.....。僕の青春のすべてだった。

高校は別々になり、やがて疎遠になり、連絡もまともにしなくなった。僕は国立大学に合格し、一応そこそこの企業に就職して仕事に明け暮れ、ふらっと本屋に立ち寄った四年前の冬、見慣れた顔に気づいた。

『あ.....アキラ君.....?』

『.....なつき.....?』

電撃が走ったかのような衝撃を感じた。


「あのときの本屋のアキラ君、本当に変な顔してた」

「な、そんなこと思ってたの」

「そうだよ」

彼女がものすごくニヤニヤしだした。

「ねぇ、アキラ君」

「ん?」

「実はさ、.....本当は.....私達もっと前から出会ってたんだ.....」

「え?」

突然意味不明なことをなつきは呟いた。

「どういう意味なの?」

僕はハッとして夏希の顔を凝視した。

「.....どうして.....泣いているんだい.....?」

関を切ったかのように泣き出した彼女は、すすりながらかすれ声で言葉を発した。

「間に.....合わなかった.....」

「.....え?」

「アキラ君」

そう彼女が言った瞬間、さっきまで真っ暗だった空が突然光りだした。何の前触れもなく、何の音もなく、まるで一瞬で昼間になったかのように。

「.....!!」

それは息をする間もないくらいにあっという間だった。

「アキラ君!!」

なつきが叫んでいる。

「負けちゃダメよ!!頑張ってね.....!」

僕は答えることができず、ただその光に飲まれ、意識を失った。


すべてが儚く散る灰のように舞った。


・なつき


「行っちゃったか.....」

一瞬だった。あまりにもあっけなかった。分かってたこととはいえ、もう少し兆候があるのかと甘い期待をしていた。

「私も頑張らなきゃ、アキラ君もきっと必死なんだ」

バックから黄ばんだ古いメモ用紙を取り出した。そこには汚い字だけど、ハッキリと要項が殴り書かれていた。

「待っててね」

こぼれた涙を拭き、私は歩き出した。


ここであなたにとある質問をします。

「壊滅前夜、何ヲ思フ?」


これは私なりの答えの物語です。


To be continued

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