おとなりさんは、どんな人?

永田 透

第1話 あの日、彼女はやってきた(前編)

 「やっと着いたか」


 俺はこの景色が大好きだ。

 一日が終わり、アパートの自室までの一直線の廊下。この瞬間に俺は自由を実感する。

 27歳にもなって誇れるものは何も無いが、どうだっていい。この自由があれば何もいらないね。


 ガチャガチャ


 「さて…今日は何をしてやろうか」


 「こんばんは」


 「えっ…?」


 振り返ると、この古いアパートには不似合いな、可憐な女性が立っていた。


 「今日から、隣に引っ越してきた飯田美姫いいだみきと申します。よろしくお願いします」


 「あっ、えっとよろしく…お願いします。俺は…」


 「須浦貞晴すうらさだはるさん」


 「えっ…なんで」


 彼女は、そっと俺の家の表札を指さした。


 「ああ、なるほどね」


 「ご迷惑おかけしないように気をつけますので、これからよろしくお願いします。それではお身体に気を付けて」


 「あ、ああ…そちらも」


 ガチャ


 「このご時世で随分丁寧な人だな。迷惑なんて起こしそうにないっての……って!俺も、深夜のゲーム通話に気をつけなきなきゃじゃね!?まぁ、これも社会だな。皆に一言言っとくか」


 チン!


 20時に、熱々のエビドリアを食べる。これも俺のルーティンの一つだ。


 「あっつ…!いつになったら慣れんだよ俺。てか、お隣さん初めてだし、どう接したら……。というより、俺どこかであの人のこと……」


 モグモグ


 「気のせいだよな。あんな綺麗な人、俺が覚えていないはずないし。ゲームするか」


 「········」


 「なんだ?なにか聞こえるな、ベランダからか?」


 ガララッ


 「うん、大丈夫そう。周りの人も良い人そうだし…ありがとう」


 さっきの、飯田さんだっけ?親とでも電話してんのか?


 「うん…ありがとう、シューくん」


 シューくん!?なんだ、彼氏と電話してるのか?

 

 まぁ……あんだけ綺麗ならおかしくねーよな。でも、確かにこんな会話を毎日聞かされるとなると、迷惑だな。


 「けっ、悩んでた俺が馬鹿らしい」


 ポチポチ


 ―ゲーム参加募集〜通話あり―


 俺は、ツイッターでゲームの募集をかけた。


 「返信は……こないな。こういう日に限って、誰もやってないのか。仕方ない、漫画でも読むとするか」


 読みかけの漫画に目を預け、俺は日常から離れることにした。

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