様々なジャンルの短編小説集

青水

【ハイファンタジー】少年賢者と貴族令嬢のスローライフ

 賢者。


 それは魔道を極めし者にのみ与えられる称号である――。



      ◇



 帝国で賢者の称号を与えられし者は、建国から三〇〇年で六名であった。その六名はいずれも晩年になってから賢者の称号を得た。今までの最年少は五三歳である。


 そして、今日、七人目の賢者が誕生した。


 帝国は大いに盛り上がった。しかし、それは三〇年ぶりに新たなる賢者が生まれたから――という理由だけではなかった。


 もう一つの理由――それは七人目の賢者の年齢だ。


 少年の年齢は一〇歳だった。


 帝国建国以来、史上最高といえる魔導師誕生の瞬間だった。



      ◇



 僕が生まれたのは帝国の最北端、教国との国境付近にある小さな村だった。国境付近ということもあり、時折、教国の魔導師の魔法などが飛んできて、そのたびに村は甚大なダメージを受けていた。もちろん、村はとても貧しく、皆生きていくのに精一杯だった。


 父は僕が幼い頃に死んだ。なので、僕の頭に浮かぶ父の姿はいつも靄がかかったように霞んでいた。


 母は女手一つで僕を育ててくれた。しかし、僕が九歳の頃に流行病に罹って、とても呆気なく死んでしまった。


 今にも崩れ落ちてしまいそうにボロボロであった我が家には、いくつかの魔導書があった。魔導書というのは魔法発動の原理などが記された書物である。なぜ、魔導書が我が家にあったかというと、それは父が魔導師だったからである。


 父は昔、高名な魔導師であったらしい。しかし、怪我が原因でろくに魔法が使えなくなり、職を失ってしまった。稼ぎがなくなった我が家は、父の故郷であるこの村に引っ越してきた、というわけだ。


 魔導書は高級書物である。使い込まれていてボロボロであるが、売ればそれなりの金額にはなっただろう。しかし、父はそれらを決して手放そうとはしなかった。


 なぜかはわからない。


 魔導書は父にとって自らの支えとなっているほど大切な宝物だったのかもしれないし、あるいは息子である僕に読ませて、魔法の勉強をさせようとしたのかもしれない。


 父が死んで生活がより苦しくなっても、母は魔導書を売ろうとはしなかった。母にとってそれらは父――失った愛しき人――の唯一の形見だったからだろう。


 僕は父の形見である魔導書を読み込んだ。父の保有していた魔導書はいわゆる超がつくほどの上級編であったらしいが、僕はさほど苦労することなく、それらに記された魔法の数々を習得した。


 国境最寄りの村であるこの村には、帝国軍所属の兵士たちが時折やってくる。彼らは立派な全身鎧やローブをまとって、時折、教国と小競り合いを行った。


 母が死んでから数日ほど経ったある日、教国の兵士数人が国境を越えてむらへとやってきた。彼らは教国の中でも過激派と呼ばれている派閥の人間だった。一口に教国といっても、様々な考えの人がいる。それは帝国も同様だ。


 教国の兵士は武器や魔法を使って村を蹂躙しだした。


 本来ならば、帝国の兵士が対応するところであるが、ちょっとしたアクシデントがあり、帝国の兵士は国境付近に二人ほどしか配置されていなかった。


 そして、その帝国の兵士二人は教国の兵士たちに呆気なく殺されてしまった。帝国の兵士たちが弱かったのか、教国の兵士たちが強かったのかはわからない。


 村には戦力となる人間が僕以外には誰もいなかった。魔法を行使することができるのは、僕一人だけだった。


 戦闘経験のない僕が戦闘のプロフェッショナルとまともに戦うことができるのか、といった疑問が一瞬頭をよぎった。しかし、考える時間などなかった。


 僕は覚えたての魔法を教国の過激派の兵士たちに放った。


 帝国の兵士たちが呆気なく殺されたように、教国の兵士たちもまた、呆気なく死んでいった。人間は簡単に死ぬものなんだな、と僕は思った。


 救援を呼びに行った村の人が帝国の兵士を多数引き連れて戻ってきた。そのときにはもう戦闘は終了していて、村の中央の広場に教国の兵士の死体が集められていた。


「教国の兵士をやったのは誰だ?」帝国の兵士は尋ねた。


「ええとですね……」村長はきょろきょろと辺りを見回した後、僕のことを指さした。「あの子ですね」


「本当にか?」


「ええ」


「まだ一〇にも満たない子供だぞ!?」兵士たちは驚いた。


 きっと、正直のところ、半信半疑だったのだろう。しかし、村長を含め、僕が魔法を発動させるところを見ていたたくさんの村人が懇切丁寧に説明した結果、兵士たちは僕が教国の兵士たちを殺した、という事実について納得した。


 兵士たちにもたらされた情報は、あっという間に拡散した。やがて、僕のことが帝国の皇帝にも知れ渡った。


 皇帝は徹底的な能力至上主義者であり、能力がある者は身分の貴賤に関わらず優遇した。


 僕はただの村人だったが、皇帝にその能力を認められた結果、帝都にある帝立魔法学院に飛び級で入学することとなった。


 帝国屈指の魔導師育成機関である帝立魔法学院。


 その歴史は古く、帝国の年齢とそうは変わらない。その長い歴史の中で飛び級で入学した者は二〇名ほどしかいないらしい。


 僕が九歳で入学した魔法学院だが、通常の入学年齢は一二歳である。入学するためには、実技試験と筆記試験の二種の試験をパスする必要があり、その入試倍率は一〇〇倍はくだらない。特に名門である帝国魔法学院は、他の魔法学院よりも入学難易度が一段か二段上がる。


 無事、試験をパスし、魔法学院へと入学した生徒たちは、六年間かけて魔道の真髄を学んでいく。しかし、僕は飛び級をして一年で帝国魔法学院を卒業した。


 魔法学院を卒業した生徒の就職は主に二つだ。


 兵士。


 冒険者。


 比率としては兵士が六割、冒険者が四割といったところだ。


 しかし、僕はそのどちらにもなることはなかった。


 帝立魔法学院を卒業した瞬間に、僕は七人目となる賢者の称号を授けられた。といっても、かつての賢者たちと比べると、僕はまだまだ実績に欠ける。


 賢者の称号を授けられた数日後、僕は皇帝に呼び出された。


「幼き賢者よ。貴様に引き合わせたい人物がいる」


「ええと……」僕は震える声で言った。緊張していたのだ。「どなたでしょうか?」


「勇者だ」


 勇者。


 それは世界にはびこる魔物の王――魔王を倒す役目を担う者のことだ。


 勇者になるためには、強力な魔物が巣くう試練の塔に赴いて、その頂上に刺さっている聖剣を引き抜く必要がある。


 試練の塔を攻略するのは至難の業だ。そして、もし仮に、試練の塔を攻略したとしても聖剣を引き抜くことができなかったら、勇者になることはできない。


 なぜなら、不老不死と称される魔王を殺しきるためには、聖剣の持つ不思議な力――それは神聖力と呼ばれている――が必要不可欠だからだ。


 僕が賢者となる少し前。


 ついに聖剣を引き抜いた者が現れた、とすごく話題になっていた。世間の情報に疎い僕ですらそのことを知っていた。


 街は――いや、国はお祭り騒ぎである。ありがたいことに、僕が賢者になった際も同じように国は沸いた。


 僕は王城のある一室へと案内された。そこにいたのは、一人の少年だった。


 少年、と僕は称したが、年齢は僕よりもいくつか上だ。多分、一五歳くらいだろう。整った顔立ちをしているが、その目つきは鋭く、そこから意志の強さを感じる。


「おまえが賢者か」勇者は僕のことをじっくりと、見定めるようにして言った。「随分と幼いな」


「えっと……」


 勇者の瞳からは嘲り、といった感情は見られない。しかし、どことなく不満そうな、失望したかのような感情が見て取れた。


「年齢はいくつだ?」勇者は僕に質問した。


「一〇歳です」僕は答えた。


「一〇歳!?」勇者は驚いた。「こいつが本当に帝国七人目の賢者なのか?」


「はい」兵士は答えた。「歴代の賢者様と比べても遜色することのない、屈指の逸材である、という話を伺っております」


「ふうん……」勇者は僕のことをじっくりと、ねっとりと見つめた。「一応聞いておくけど、おまえ、性別は?」


「えっと……男です」


「だよなあ……」勇者はため息をついた。「いくら可愛くても、ショタは興味ねえわ」


 ショタ? 


「俺はハーレムパーティーを作りたいんだよ」勇者はぶつぶつと小声で呟いた。「あー、ロリだったら最高だったのにな。ロリ賢者。語尾は『なのじゃ』がいいな。あー、でも、それだとロリババアか?」


 勇者の口から聞き覚えのない単語が次々に発せられる。


 僕が辺境の村出身だから知らないだけだろうか。しかし、よくよく考えてみると、一応、僕は帝都で一年という決して短いとはいえない時間を過ごしているのだから、帝都特有の言葉、というわけではないのだろう。もしかしたら、勇者の出身地特有の言葉なのかもしれない。


「んー……」勇者は腕を組んだ。「本当にこいつを俺のパーティーに入れなきゃいけないのか?」


「はい」兵士は頷いた。「これは決定事項です」


「極論、聖剣を保有している俺さえいたら、後のメンバーは誰でもいいと思うんだが」


「魔王を侮ってはいけません」兵士は勇者をたしなめるように言った。「たとえ、聖剣を持っていようとも、それを魔王に突き刺すことができなければ、何の意味もないのです。きっと、仲間のサポートなしでは魔王を倒すことは難しいでしょう」


「そんなに強いのか?」


「ええ」兵士は頷いた。「特に現魔王は歴代でも最強なのではないか、と言われているほどです。だから、勇者様のパーティーのメンバーに妥協は許されません」


「ふうん」勇者はどうでもよさそうに言った。「ちなみに、魔王はどんなやつだ?」


「と言いますと?」


「見た目とか年齢とか……性別とか」


「見た目や年齢はわかりませんが、性別は女だそうです。歴代でも女の魔王は少な――」


「女なのか!?」勇者は兵士の言葉を遮るように言った。


「え、ええ……」兵士はやや引いている。


 勇者は少しの間、黙って考えていた。


 勇者がどのようなことについて思索を巡らせているか、については僕にはわからない。わからないが、予想してみる。


 きっと、僕の必要性や能力について考えているのだろう。さすがは勇者だ。周りの評価を鵜呑みにしたりはしない。思考を停止させ、ただ命令に従うのではなく、自らよく物事を考えている。


 どのような選択を取ることが、魔王を倒すためにベストなのか。


 勇者になるような人間は、その能力だけではなく、人間性も優れているのかもしれない。


 僕の中での勇者の好感度が少し上がった。


 やがて、勇者は口を開いた。


「よし、決めた!」そう言って勇者は立ち上がった。「魔王を倒すためにはおまえの力が必要だ。ぜひ、俺のパーティーに入ってくれ」


 僕は勇者の『俺のパーティーに入ってくれ』という言葉に感銘を受けた。彼は僕の実力を認め、僕のことを必要としてくれている。それは、とても嬉しいことだった。


「わかりました」僕は答えた。「微力ですが、魔王を倒すお手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします」


 僕と勇者はがっちりと握手をした。


 こうして、僕は勇者パーティーに加わった。



       ◇



 私には婚約者がいた。


 婚約云々は両家の両親が決めた政治的なものであったが、私は彼を実の兄のように慕っていたし、淡い恋心も抱いていた。


 彼も私のことを好いていた――と思った。思っていた。しかし、それは大きな間違いだった。


 彼は私のことなど全然、これっぽっちも好きではなかった。それどころか、私に対し嫌悪感を持っていた。


「正直言って、俺はおまえのことが昔から嫌いだった」


 パキリ。


「いつもいつもいつも俺に付きまとっていて、鬱陶しかった。早く消えて貰いたかった。婚約関係を解消したかった」


 パキリ、パキリ。


「だから、こうなってくれて俺は嬉しい。とても嬉しい。とてもとても嬉しい」


 パキリ、パキリ、パキリ。


 私は心の中で何かが音を立てて崩れ去っていくのを感じた。


「……罪悪感はないの?」私は尋ねた。「私に無実の罪を着せて、あなたは何も思わないの!?」


 そう、私は無実の罪を着させられた。世間――貴族社会――の中では、私は性根の腐った悪女扱いだ。


「罪悪感なんてないし、何にも思わないさ」彼は言った。「おまえは生け贄だ。俺が幸せになるための生け贄になるんだ」


「最っ低!」私は彼を睨み付けた。


「その最低な俺のことが好きだったんだろ?」彼は嫌らしく笑った。


「今は大っ嫌いよ!」


「家を追い出されたんだろ? これからどうするんだ?」彼は話を変えた。


 そう。私は家を追い出された。勘当された。なので、もう、私は貴族ではない。家の名を名乗ることも許されない。


 私はただの私でしかない。


「どうって、適当に生きるわ」私は答えた。「冒険者になるっていう道もあるし」


「そういえば、おまえは魔法を使えたな」


 私は帝国屈指の名門である帝国魔法学院を卒業している。


 飛び級こそできなかったが、主席での卒業だ。もちろん、引く手数多であり、私は兵士になろうとした(宮廷魔導師になるためだ)が、思わぬところから横やりが入った。


 それは、実家である。


「兵士になることは許さない」父は言った。「おまえには婚約者がいる。やがては貴族の妻となり、家庭に入るのだ」


「ですが、結婚まではまだ時間があります。それまで仕事をしたいと――」


「仕事をするのは夫の役目だ。妻の役目は家庭に入り、子を産み、育てることだ」父は当たり前だ、と言わんばかりにそう言った。


 それは、旧時代的な考え方だ。今では、働いている女性はたくさんいる。冒険者になる女性だって大勢いるのだ。


 いや、父の考え方は旧時代的、というよりも、貴族的なのかもしれない。


 平民は貧しい人も多く、夫婦ともに働いている人も珍しくない。二人とも働かなければ生きていけないのだ。


 また、夫よりも妻の方が魔法や戦闘能力に優れている場合がある。そういう場合は、妻が働き夫が子を育てるというケースもあるらしい。


 一方、貴族は金持ちが多い。むしろ、貧しい貴族の方が珍しいといえる。貴族には貴族独自のルール、というものが存在する。だから、父の言ったことも、そのルールのうちの一つかもしれない。


「おまえは我が娘として、貴族の妻としてふさわしい女になるべく、花嫁修業をしてもらう」


 ということで、私は働くことができず、専門の先生の指導による花嫁修業を行うこととなった。


 まあ、花嫁修業を行った意味はなくなってしまったけど。そう、この男のせいで。


「そんなに睨み付けるなよ」彼は微笑んだ。この柔らかな笑みに騙される女性は少なくない。「そうだ、何なら愛人にしてやってもいいぜ」


「……」


「おまえ、スタイルいいもんな」下卑た視線が私の体を這う。「どうだ、これから俺の家で――」


 パンッ、と鋭い音がした。


「死ね」


「くうっ……」彼は叩かれた頬をなでた。「このアマ……」


「本当はあなたを殺したくて殺したくて仕方がないんだけど……」


「ひ、ひいっ……」


「特別にそれは勘弁してあげるわ」


 私は彼に背を向けて歩き出した。




「さよなら」



      ◇



 二年という月日が経過し、僕は一二歳になっていた。


 幸い、勇者パーティーは誰一人欠けることなく今に至っている。その勇者パーティーのメンバーを紹介しようと思う。


 勇者。


 一七歳で背が高く端整な容姿をしている。彼と旅をしている間にわかったことだが、かなりの女好きである。


 女好きであることは決して悪いことではないが、彼の場合は度を超えていて、彼に対する好感度はかなり下がってしまった。


 それと、旅の途中でお互いの話をしたのだが、そのときに彼は自らが転生者である、と語っていた。

 

 転生者。


 聞き覚えのない言葉だが、彼の話曰く、彼には前世の記憶があるらしく、時折使う謎の言葉は、彼の前世で使われていたものらしい。


 勇者の髪色は黒であるが、帝国ではほとんど黒髪の人間は見かけなかった。彼曰く、自らの容姿は前世のものと同一である、とのことだ。


 剣聖


 勇者と同じく一七歳であり、燃えるような真っ赤な髪を後ろで束ねているのが特徴だ。美人であり、勇者とは恋仲だ。


 恋仲ではあるんだけど、勇者は彼女以外の女性とも懇意の間柄にある。それも、大勢だ。旅の途中で出会った女性には、片っ端から手を出していた。そのことを彼女は気にしていないのだろうか。


 彼女は剣聖と呼ばれるだけあって、恐ろしく強い。それも剣術だけではなく、純粋な格闘能力も優れている。


 剣聖は元々奴隷だったらしい。しかし、恐ろしいほどの戦闘能力を持っていたので、性奴隷などにはならなく、武闘大会に戦闘奴隷として出場していた。そのルックスと圧倒的な剣術が話題となり、武闘大会では屈指の人気を誇っていた。


 そんな彼女の噂は皇帝の元まで広がった。皇帝は彼女を奴隷から解放し、勇者パーティーに入るように命令した。そういう事情があって、彼女は勇者パーティーに加入した。


 聖女。


 年齢は二〇歳で、長く美しい金髪と神官服の上からでもよくわかるほどの大きな胸を持っていることが特徴の女性である。


 元々は教国の神殿に仕えていたらしいが、様々な政治的事情があり、勇者パーティーに加わった。といっても、彼女の回復魔法は超がつくほどの一流で、勇者が油断して大怪我を負った際も、その傷を一瞬にして治して見せた。


 そして、やはり勇者とは懇意の間柄である。それは聖女の様子を見ていればよくわかる。彼女はかいがいしく勇者の世話をしている。


 夜になると、勇者は剣聖や聖女とテントの中へ消える。音が漏れないように、防音魔法をかけていたりもする。


 僕はまだ一二歳だが、テントの中で何が行われているかは、想像がつく。毎日のようにそういったことをし、なおかつ、街の娘などにも手を出すので、どんだけ絶倫なんだよ、と僕は呆れて言葉も出ない。


 勇者と剣聖と聖女と賢者(僕)。以上、四名が勇者パーティーのメンバーである。


 僕は居心地の悪さを感じつつも、三人と仲良くやってきたつもりだった。賢者の名に恥じないように頑張ってきたつもりだった。


 勇者が行く先々で問題(主に女性関係)を起こしたときは僕が何とか事を収めたし、勇者が他のメンバー二人と喧嘩したときは、僕が間に入った。


 しかし、勇者は僕のことを評価してくれなかった。そのことに対し、僕は不満を持っていたが、それを表に出すことはしなかった。



      ◇



 ある日のことだ。


 勇者パーティーに新たなメンバーが加わった。


 彼女――そう、新メンバーは女だった――は、僕と同じく賢者だった。帝国八人目の賢者である。


 僕が賢者となってから、二年しか経っていない。こんなにも短いスパンで新たな賢者が誕生したのは、初めてのことだった。


 僕たちは新たなる賢者の誕生の知らせを、とある街で受け取った。街は随分と沸いていたし、勇者は自らのパーティーに女が増えることを喜んでいた。


 街では号外が配られていた。号外には八人目の賢者の詳細が記されていた。それを読んで僕は驚いた。八人目の賢者は僕のよく知る人物だったからだ。


 彼女は帝国魔法学院時代の同級生だった。


 年齢は一五歳。彼女が魔法学院に入学したのは、一般生徒と同じく一二歳のときだった。彼女は平民の出であるが魔法の才能があったらしく、試しに帝国魔法学院の試験を受けてみたところ、全体二番目の成績で合格した。ちなみに、全体一番目は僕である。


 だからかはわからないが、彼女は僕のことをライバル視していた。もはや、敵視しているといってもいいくらいだった。

 

 彼女は僕が一年で帝国学院を卒業し、賢者の称号を授かった際、もの凄く悔しそうな顔をして「おめでとう」と言ってくれた。


「私もすぐにここを卒業して、賢者の称号も頂くわ。だから、せいぜい首を洗って待ってなさい!」


 そんなことも言っていた。


 そんな彼女はそれから二年――つまりは三年――で帝国魔法学院を卒業した。そして、魔法学院時代に様々な武勇伝を残し、実績を積み上げ、卒業とともに賢者となった。


 彼女を勇者パーティーに加えろ、という皇帝からの手紙が、彼女が賢者になった後すぐに届き、数日後には僕たちが滞在している街までやってきた。


「久しぶりね」彼女は再会するなり言った。「二年で随分背が伸びたみたいじゃない」


「君もその、結構変わったね」


 僕が知っている彼女は一二歳から一三歳のときの彼女で、一五歳になった彼女は背が高くなったし、大人っぽくあるいは色っぽくなっていた。


「おまえが八人目の賢者か」勇者は嬉しそうに言った。どうやら、好みのタイプだったようだ。「これからよろしくな」そう言って手を差し出した。


 しかし、彼女はその手を見なかったことにした。


 彼女は剣聖や聖女のように、勇者に対して好意あるいはそれ以上の感情を持っていないようだった。


 勇者は苛立ったような表情を浮かべた。



      ◇



 新たに彼女が加わって五人となった、新生勇者パーティーの旅が始まった。


 勇者の色狂いっぷりは相変わらずであり、彼女も何度も口説かれた。しかし、彼女は勇者の誘いを断った。彼女は剣聖や聖女のようにちょろくはなかった。


 彼女は勇者に対し好意を抱くどころか、日に日に嫌悪感を強めていった。勇者とは最低限の会話しかしなかったし、魔物との戦闘の際も、露骨に手を抜いていた。


 就寝の際には、テントが二つ張られた。片方のテントには勇者と剣聖と聖女が、もう片方には僕と彼女が入った。


 勇者たちはもちろん性的行為を行っていたが、僕たちはそのような関係――つまりは男女の関係――にはならなかった。


 僕は一二歳である。そのような行為をするにはまだ早いし、僕と彼女は恋人同士ではなかった。しかし、旅をする中で魔法学院時代よりも仲良くなっていた。


 本来、一つにまとまるべきであるパーティーは二つに分かたれていた。これは由々しき事態である。強力な敵である魔王を討伐するためには、パーティーの連携は必要不可欠だ。こんな状態では魔王を倒すどころか、逆に魔王に倒されてしまう。


 僕は焦りを抱いていた。そんなときである。勇者が僕と二人きりで話をしたい、と言ってきた。


「夜にこっそりとテントを抜け出して来てくれ」勇者は言った。「それと、俺と会うことをあいつには言わないように」


 あいつとは彼女のことである。


 それにしても、なぜ夜中なのか? そして、なぜ彼女に『勇者と二人で話をすること』を秘密にしなければならないのか。


 僕は考えてみたが、まったくもってわからなかった。きっと、深いわけがあってのことだろう。


 だから、僕は彼女が寝てからひっそりとテントを抜け出して、勇者の元へと向かった。この日、僕たちは巨大な森の中でテントを張った。森の中は薄暗い。


「よお」勇者は僕の姿を認めるなり、そう挨拶した。


「話ってなんですか?」


「回りくどい話は嫌いだから、単刀直入に言う」勇者は冷めた目をして言った。「おまえ、パーティーを抜けろ」


「……は?」


 この人はなんて言った?


 パーティーを抜けろ? パーティーを抜けろ?


「どういうことですか?」僕は混乱しながら言った。「説明してください」


「今、パーティーは二つに分裂している。それは、おまえもわかっているよな?」


「ええ」


「おまえがいなくなればパーティーはまとまるんだ。パーティーがまとまらなければ、魔王には勝てない」


「それは――」


「それに」勇者は遮るように言った。「パーティーに二人も賢者はいらない」


「そうでしょうか?」僕は疑問を呈した。


「そうだ」勇者は力強く言った。「魔物との戦闘の際、役割や連携といったものが重要となってくる。そして、連携することは人数が多ければ多いほど困難なものになる」


「でも――」


「戦力は多ければいいってものではない。五人が四人よりも強いとは限らない。人数が多いほど、足を引っ張る者が出てくる可能性は高くなる」


「僕は……足を引っ張っている覚えはないですし、戦闘の際は人一倍頑張っているつもりです」


「それはおまえから見た物の見方だ。物事を客観的に見ると、違った景色が見えてくる」


「……僕は弱いのですか?」


「弱くはない。まあ、最年少で賢者になったくらいだからな。しかし、俺とは相性が悪い。連携がうまく取れない。これは致命的なことだ。魔王を殺すことができるのは、聖剣を持っている俺ただ一人だ。おまえがいくら強かろうと、おまえでは魔王を殺せない」


「……」


「魔王を倒すためだ。パーティーを抜けてくれ」


「私利私欲から、僕にパーティーを抜けろ、と言っているわけではないんですね?」


「もちろんだ」勇者は答えた。「これは世界平和のためだ」


 僕はため息をついた。


 僕という存在がパーティーに不必要どころか枷になっている、と勇者は言うのだ。だから、パーティーを抜けてくれ。


「一つ教えてください」


「何だ?」


「なぜ、こっそりと二人きりで話をしたかったのですか?」


「全員で話し合うとややこしくなるからな。それに、これは俺とおまえの問題だ。他のメンバーには何一つ関係ない。そうだろう?」


 そうだろうか。


「というわけで、できれば今すぐに出ていって欲しいんだが」


「今すぐに?」


「ああ」勇者は頷いた。「それと、お別れの挨拶をするのもなしだ」


「……僕がパーティーを抜けることを断ったら?」


 勇者は一瞬にして距離を詰めてきた。そして、僕の首筋に聖剣の刀身を当てた。


「選択肢は二つしかない」勇者は悪意に満ちた笑みを浮かべた。「パーティーを抜けるか、今ここで死ぬか、だ」


 僕が魔法を発動させる前に、勇者の剣が僕の首を切り飛ばすだろう。それに、もし仮に魔法を発動させることができたとして、その結果、勇者が死んでしまったら、魔王を殺すことができる者はいなくなる。そうしたら、世界は魔王に支配されてしまう。それだけはなんとしても避けたい。


「わかりました」僕は言った。「パーティーを抜けます」


「そうか、悪いな」


「剣を収めてくれませんか?」


「それはできない」


「なぜですか?」


「剣を収めた瞬間に、魔法を発動させるかもしれない」


「そんなことしませんよ」


「俺は疑り深い人間なんでね」


 僕は勇者に剣を当てられたまま森の中を歩かされた。


 しばらくして。


「この辺でいいだろう」


 首に強い衝撃が走り、僕は意識を失った。



      ◇



 目が覚めたときに違和感のようなものを覚えた。何だろうか、と思って隣を見ると、あいつの姿がないことに気がついた。


 テントを出ると、変態勇者とその取り巻き二人がいた。


「おはよう」勇者は言った。


「あいつはどこ?」あたしは尋ねた。


「ああ、あいつならパーティーを出て行った」


「はあ? どういうことよ?」


「パーティーの不和の原因になっていることに負い目を感じたんだってさ。あ、そうそう、あいつから言付けを預かってるんだ」


「何よ?」


「勇者様と協力して魔王を倒して欲しいってさ」


「あのさあ……」あたしは心底呆れた。


 こんな説明で、あたしが納得するとでも思っているのだろうか。どう考えても、こいつが無理矢理パーティーを追放したに決まっている。


「まあ、これからは仲良くしようじゃないか」勇者はにやりと笑った。「そうだ。これからお互いの親睦でも深めないか?」


 あたしはへらへらとしている勇者の顔面をぶん殴った。


「死ねよ、この変態」


「あんた、なんてことするの!?」剣聖はあたしに怒鳴った。


「勇者様、お怪我はありませんか!?」聖女は倒れた勇者の元に駆けつけた。そして、あたしを睨み付けた。「あなた、勇者様に謝りなさい!」


「このアマァ……」勇者は口から流れ出る血を拭った。「この俺がせっかく優しくしてやったのに……」


「あいつはどこ?」


 勇者はあたしの質問を無視して、聖剣を抜いた。


「格の違いを見せつけてやる。このパーティーのリーダーは誰か、強者は誰かをわからせてやる!」


 襲いかかってきた勇者に、あたしはとっておきの魔法をお見舞いした。



      ◇



 その日、街に轟音が響いた。どうやら、近くの森の中で大きな爆発が起きたらしい。爆発の原因はよくわかっていない。多分、何らかの上位魔法だろう。


 爆発が起きてから数時間後、全身ボロボロになった勇者パーティー一行が街へとやってきた。勇者パーティーは五名だという話を伺っているが、三名しかいない。


 街のものがそのことを尋ねると――。


「ああ、不幸なアクシデントがあってな」


 勇者の憂鬱げな表情から街の者は察した。きっと、先ほどの爆発は森に潜む魔物が放った魔法なのだろう。そして、その魔法によって二人の仲間は死んでしまったのだろう。


 街の人々は勇者たちを哀れに思った。


「まさか、あんなに強いなんて……」そう呟いて勇者は倒れた。



      ◇



 勇者からパーティーを追放されてから二ヶ月が経過した。


 とある街で手にした情報曰く、僕は死んだことになっているらしい。だからか、街の人は僕を見かけると、「勇者パーティーの賢者様にそっくりですね」などと言ってくる。


 それと、現在、勇者パーティーのメンバーは三人らしい。魔法学院の同級生だった彼女は死んだらしい。その情報が本当なら、とても悲しい。しかし、街の情報にはそれほどの信憑性がない。なぜなら、僕が死んだことになっているからだ。


 さて、これからどうしよう。


 僕は死んだことになっているから、地元に戻ることはできない。いや、戻ったとしても、僕には父も母もいない。そんな村に一体何の価値がある?


 というわけで、僕は街でのんびりとした毎日を送っていた。幸い、当分は働かなくても食べていくことができる程度のお金はある。


 しかし、働かないでのうのうと暮らしていると、なんだか退屈だし、退屈は人間を堕落させ腐らせる。


 それと、あまり人と関わらない生活をしているので、ひどく寂しい。心なしか、独り言が増えているような気がする。


「うーん……」僕は冒険者ギルドの建物の前で悩んでいた。「冒険者にでもなろうかなあ……」


 冒険者に年齢制限はない。一二歳の僕にでもなれる職業だ。こんな職業はなかなかない。他の職業に就くとなると、どうしても年齢制限がかかるものが多い。


 それに、もし仮に、僕でも就ける職業があっても、きっと薄給だろう。まともな生活を送るために必要な金額は稼げない。

 

 だから、冒険者になろうかな。


 しかし。


「ねえ、あの子、賢者様に似てない?」


「え、でも……亡くなったって話を聞いたわよ」


「あの記事が本当とは限らないし……」


 ひそひそと話す声が聞こえてくる。


 正直、街に居づらい。


 それに、冒険者になったとしても、年齢的に注目を浴びてしまうことは自明の理である。それと、自らの実力を隠し通せる自信もない。


 一〇分以上、その場に突っ立ったまま悩んでいると、どんっ、と体に衝撃が走った。何事か、と頭を上げると、そこには、柄の悪そうな男が立っていた。


 背が高く、ガタイがいい。多分、この男は冒険者だろう。どちらかというと、冒険者というよりも盗賊の方が似合うが……。


「おう、小僧。てめえがそこに突っ立ってるせいで、ぶつかっちまっただろうが」


「すみません」僕は謝った。


「ぶつかった衝撃で、串焼きを落としちまった。しかも……」男は自らの胸元を指さした。「服にソースがついた」


「すみません」僕はもう一度謝った。


「どうしてくれるんだ、ああん?」


「えーと……」


 僕たちの周りにはそれなりに人がいるのだが、誰も僕を助けようとはしない。下手に助けようとすれば、この男に殴る、蹴るなどの暴力を振るわれるからだ。


 だから、見て見ぬふりをする。


 それは仕方のないことだ。知らない少年のために命を張れる人間は、そうはいない。


「その弁償しますので、許してください」僕は下手に出た。下手に事を荒立てると、ろくな事にならないからだ。


「許さねえ」しかし、男は僕の申し出を拒否した。「おまえ、俺の幼なじみを寝取った男に似ててむかつくんだよ」


 とても、理不尽だ。そんな理由で「むかつく」と言われても、とても困る。


 それにしても、幼なじみ、ね……。


「恋人ではなく?」僕は尋ねた。


「きっと、あいつも俺のことを好きだったはずだ。そうだ、そうに違いない!」やや興奮したように男は言った。


「恋人じゃなくてただの幼なじみなら、それは寝取られるとは言わないのでは?」


「うるせえ! ぶち殺すぞ、おらっ!」男は僕の服の襟を掴んだ。そして、そのまま近くの路地裏まで引っ張っていく。


「あの、どなたか助けてくれませんか?」


 僕の言葉は黙殺された。



      ◇

 


 冒険者になってから、ずっと宿暮らしだ。お金もそれなりに貯まったし、そろそろ家を買いたい。別に豪邸が欲しいわけではない。小さい家でいいのだ。今週末あたりに、物件探しでもしようかな?


 自分で家を建てる、という選択肢もありだ。一人で暮らす小さな小さな家だったら、自分で建てられるだろう。


 一人……。


 私が婚約者を失い家を追放されて、冒険者になってから二年ほど経つが、私は未だに恋人の一人も作らずにいた。


 現在、二二歳。


 まだそれなりに若い年齢である、と私は思っているが、同年代で結婚している女性は結構多い。特に貴族の女性は若くして結婚するので、なんとなく焦燥感を覚えたりする。


 自慢、というわけではないが、私はそれなりにモテる。同業者――つまりは冒険者――の男に口説かれることがよくあるが、残念ながらろくな男に会ったことがない。


 もちろん、一口に冒険者といってもいろんな人がいる。だから、ジェントルな男性冒険者だってきっといるだろう。しかし、割合的には粗暴な男の方が遙かに多い。


 はあ、と私はため息をついた。


 私の冒険者仲間は大体、恋人がいる。結婚している人もいる。彼女たちを見ていると、とても幸せそうだ。


 そう、あいつのせいで……あのクソ男のせいで、私はすべてを失った。二年が経った今も奴のことは忘れていない。私は恨んでいる。私はあの男を憎んでいる。


 かつての婚約者のことを考えると、とても不快な気分になる。だから、思考を打ち切って、冒険者ギルドへ向かうことにした。


 露店でパンを買って食べながら歩く。街は帝都ほどではないが、それなりには賑わっている。最初はどうかと思ったが、住んでみると居心地はそれほど悪くない。


 冒険者ギルドの前まで二〇分ほどでたどり着いた。なにやら騒がしい。しかし、騒がしいのはいつものことだ。なにせ、冒険者ギルドは粗暴者が集まるところだからだ。


 また、喧嘩騒ぎか、と思って様子をうかがってみる。どうやら、粗暴な冒険者が小さな男の子にいちゃもんをつけているようだ。


 しかし、誰も助けに向かわない。なので、私が男の子を助けに向かおうとすると、冒険者が男の子の襟を掴んで路地裏へと引っ張っていった。


 私は路地裏へと向かう。


 嫌らしく下卑た笑みを浮かべながら、男の子を殴ろうとしている冒険者に、私は声をかけた。


「やめなさい!」


「ああん?」冒険者は振り向き、私のことを睨み付けた。「なんだ、てめえは?」


「あなた、その子に何をするつもり?」


「何って……」汚らしく声を上げて笑う。「むかついたから、ぼこぼこにしてやろうと思ってなあ」


 私は腰元から剣を引き抜いた。


「そんなことさせないわ」


「おぅ? 俺とやろうっていうのか?」冒険者は剣を引き抜いた。「よく見れば、なかなかの美人じゃねえか」ぐへへ、と笑う。「ここは人気がねえからな。たくさんたくさん可愛がってやるよ」


「ゲスが……」


 冒険者が私に向かって剣を振るおうとしたとき――。


「おい、寝取られ野郎」


 後方から男の子の声が聞こえた。


「ああん? 誰が……誰が寝取られ野郎だあああああ――っ!」冒険者はこちらに背を向けて男の子に剣を振るおうとした。


「隙ありっ!」


 私の大上段からの一撃が、冒険者の大きな背中に縦に刻まれる。


「ぎゃっ!」男は倒れた。即死である。


 これで万事解決……じゃない……。私はうっかり人を殺してしまったのだ。相手が粗暴で下卑た冒険者であっても、別に犯罪者というわけではない。


 まずい。これはまずい。


「あの……」


 青ざめた顔をしている私の元へ男の子がやってきた。


「助けていただきありがとうございます」そう言ってぺこりと頭を下げる。


 礼儀正しい子だな、と思って、男の子の顔をじっと見る。


 目が合うと、男の子は私に向かってにっこりと天使のような笑みを浮かべた。


 ズキュン。


 まるで、心臓が弓矢で貫かれたかのような衝撃が走る。今までに感じたことのない胸の高鳴りを感じた。かつて、元婚約者を好きだった頃も、こんな感覚を抱いたことはない。


 これが、一目惚れというやつなのか……。


「あの、どうかしました?」男の子は心配そうに尋ねた。


「ふぇ!?」私は動揺した。「いや、何でもないよ」

 

「助けていただいたお礼をしたいのですが……」男の子は言った。「何をしてほしいとかありますか?」


 何をしてほしい?


 私と付き合って欲しい……なんてさすがに言えない。この子とはまだ出会ったばかりだし、それに相手はまだ一二歳くらいの男の子。


 いや、だけど、この純真無垢そうな男の子なら、なんだって言うことを聞いてくれるのではないだろうか。


 そんなことを思ってしまうと、欲望が沸き上がる。


「私と一緒に暮らして欲しいな」


 私は欲望に負けた。


 

      ◇



 このままここにいるのはまずいので、私と男の子は路地裏を後にして、近くにあった小さな食堂へと入った。


「どうしよう……」私は小声で呟いた。「街中で人を殺してしまった……。もう、この街にはいられない……」


「ごめんなさい」男の子は謝った。「僕のせいでこんなことに……」


「ううん」私は首を振った。「君のせいじゃないわ……あれ?」


「え?」


「君の顔、どこかで見たことがあるような……」


「そ、そうですか?」男の子は動揺した。


 どうして、動揺してるんだろう?


 私がどこで男の子の顔を見かけたのか思い出そうとしていると、注文した料理が運ばれてきた。私は先ほどパンを食べたので、軽めのスープのみだ。


 スープを音を立てないように飲んでいると、思い出した。


「君、勇者パーティーの最年少の賢者でしょ?」


 図星だったのか、男の子はゴホゴホと咳をして、わかりやすくうろたえた。


「い、いや、違いますよっ! 他人の空似ですよっ!」


「別に他の人に話したりしないから大丈夫だよ」私は優しく微笑んで言った。


「……そうです。僕はお姉さんの仰るとおり、かつて勇者パーティーに所属していた賢者です」そう言って語り始めた。


 男の子がいかにして今に至ったのかを聞いた私は、今度は自分がいかにして今に至ったのか話した。


「その……お姉さんもいろいろと大変だったんですね……」


「君ほどじゃないよ」


 一通りお互いに慰め合った後、男の子は話の話題を、私が先ほど言った『してほしいこと』について、に切り替えた。


「あれってどういう意味なんですか?」


「どういう意味?」私は首を傾げた。「どういう意味ってそのままだよ」


「そうですかー」男の子は言った。「まあ、僕もあの冒険者に絡まれていたところをいろんな人に見られているから、もうこの街にはいられないね」


 それに、と男の子は言う。


「死んだと思われている賢者だってばれるのも時間の問題だし、ね」


「それじゃあ、私と一緒にどこか……人のいないところでのんびりと暮らさない?」私はそう提案した。


 なんとなくだが、この男の子はちょろそうだ。簡単に落ちそうな気がする。


「お姉さんは僕でいいんですか?」


「君じゃなきゃ駄目なのっ!」私は力強く言った。


 うーん、と言ってしばらくの間悩んでいた男の子だったが、やがて「わかりました」と了承した。


「これからよろしくお願いします」


「こちらこそよろしくね」


 こうして、私と男の子は一緒に暮らすこととなった。



      ◇



「ようやく、ここまでたどり着いた……」そびえ立つ魔王城を見上げて勇者は言った。「あいつら――賢者二人が抜けたことは予想以上に痛かったな……」


 勇者は自分さえいればどうにでもなるだろう、と思っていたがそれは大きな間違いだった。彼が思っていたよりも、パーティーを抜けた二人の賢者の存在は大きかった。


 道中、二人の賢者の穴を埋めるように加入してきた者たちは皆、強力な魔物との戦いで命を散らしていった。


 結局、残ったのは、勇者と剣聖と聖女の三人だけだった。


「ま、私たちだけで余裕でしょ」剣聖は言った。


「勇者様さえいれば、魔王を殺すことは容易です」聖女は言った。


「それもそうだな」勇者は二人の言葉に頷いた。「俺と聖剣さえあれば魔王なんてどうにでもなる。魔王が好みのタイプだったら、何とかして俺のハーレムに加える。そうでなければ、殺す。いずれにせよ、俺は救世の英雄として崇められる」


「さあ、行こ!」剣聖は勇者の腕を引っ張った。


「すべてを終わりにしましょう」聖女は歩き出した。


「ああ!」勇者は力強く頷いた。


 勇者パーティー三人は魔王城の中へと入った。


 入り口の巨大な両開きの扉には、鍵がかかっていなかった。まるで魔王が勇者たちをを歓迎しているかのようだ。


 勇者は不用心だな、と思った。


 魔王城の最上階にいるであろう魔王の元まで進んでいくが、道中、一体たりとも魔物は現れなかった。なので、勇者は拍子抜けした。


 やがて、三人は魔王城最上階の奥にある部屋の前までたどり着いた。その部屋の扉は、明らかに他の部屋の扉と比べると、違った。何が違うのかはよくわからない。しかし、本能がこの部屋の中に強大な存在――つまり、魔王がいると告げている。


 勇者は扉を蹴り開け、部屋の中へと入る。部屋はとても広かった。最後の戦いを繰り広げるのにふさわしい部屋だといえる。


 部屋には段差があり、奥の方が高くなっている。その最奥部には、荘厳な玉座があった。玉座には小さな女の子が不敵な笑みを浮かべて座っている。


「妾の城へようこそ、勇者諸君」


「ロリっ娘だ……」勇者は呟いた。


「ロリ……? なんだそれは?」魔王は聞き覚えのない言葉に首を傾げた。「まあいい。それにしても、三人だけか?」


「あんたなんて三人もいれば充分よ」剣聖が馬鹿にしたように言った。


「ふうむ」魔王は不快そうに顔を歪ませた。「妾もなめられたものじゃな」


「この城の中に魔物がいないのはなぜですか?」聖女は尋ねた。


「部下たちではおぬしらには敵わんだろう」魔王は言った。「どうせ敵わないのなら、わざわざ無駄死にさせることもない。そうだろう?」


「魔王でも部下を思いやる心があるんですね」


「妾を猟奇的殺戮者だとでも思っているのか? 妾だって魔物だって生きている。人間と同じように生きていて、感情だってある」


「では、なぜ人間を殺すのですか?」


「なぜ?」魔王は笑った。「では逆に尋ねるが、なぜ人間は魔物を殺すのだ?」


「人間を殺すからです」


「だがしかし、人間だって魔物を殺すぞ?」


「先に手を出したのは魔物の方でしょう」


「証拠はあるのか?」


「証拠!?」聖女はヒステリックに叫んだ。「証拠ならあります。聖典にそう記されているからです」


「その聖典やらが真実のみを記している証拠はあるのか?」


「な、何っ!?」


「まあまあ、そんな不毛なやりとりは戦闘が終わってからにしてくれ」勇者は聖女をなだめた。そして、聖剣を引き抜いた。「一応聞いておくけど、降参する気はないか?」


「降参?」魔王は笑った。「勝つのはこの妾じゃぞ。降参なぞするものか」


「好みのタイプだから、できれば殺したくないんだけどな……」


「言っておくが手加減はしないぞ?」


 魔王の纏う雰囲気ががらりと変わるのを、勇者たちはひしひしと感じた。それは幼げな少女が纏うにはふさわしくないものだった。まるで、世の中の殺意や悪意を濃縮したかのような重さがあった。


「ぐぅ……」剣聖が苦しげに息を吐く。


「こ、これが魔王の力……」聖女は呆然としたかのように呟いた。「私たちはたったの三人で勝つことができるのでしょうか?」


「怯むな!」勇者は仲間二人を叱咤した。「聖剣さえあれば……聖剣を突き刺すことさえできれば、俺たちの勝ちなんだ!」


「で、ですが……」聖女は勇者を見た。


「あ、あんな化け物に傷をつけることなんて……私たちにできるかしら?」そう言って剣聖は玉座の方をちらりと見た。


 しかし、玉座の前には魔王はいなかった。


 魔王は転移魔法を発動させて、一瞬にして剣聖の背後を取っていた。


「そうじゃぞ」魔王は剣聖にそっと囁きかける。「おぬしらでは妾に傷一つつけることさえかなわん」


 ぞわり、ぞわり。


 魔王の影から黒い靄のような物質が顕現した。それは、まるで生き物のように蠢き、大きな鎌となった。


 魔王がその漆黒の鎌を振るうと、剣聖の右腕はなんの抵抗もなく、ずるり、と地へ落ちた。切断部からは血があふれ出た。


「ぎいああああああああ――っ!」剣聖は甲高い悲鳴を発した。


「なっ……!?」さすがに勇者は動揺した。


「か、回復魔法を――」


「動くな」魔王は回復魔法を発動させようとした聖女と、聖剣を脇に構え走り出そうとした勇者を牽制した。「少しでも動いたら、この女を殺す」


「ひ、卑怯者っ!」聖女は罵った。


「卑怯者?」魔王はおかしそうにくつくつと笑った。「戦いに卑怯もクソもあるか。勝ってこその戦いだ。妾は勝つためならば手段を選ばないぞ」


 勇者はどうするべきか悩んだ。剣聖は自らにとって大事な仲間――いや、仲間以上の大切な存在だ。しかし、魔王の言うとおりにしたところで、状況は好転しない。


「ぐぅ……」


 恋人。


 勇者にとって剣聖は恋人であり、ハーレムの一人である。しかし、勇者には他に聖女という恋人もいるし、今まで赴いた街に一〇〇人を越える愛人がいる。


 そう、勇者にとって剣聖は代わりのきく存在である。剣聖のその圧倒的剣術も魔王を倒せば用済みである。


 だから――。


 勇者は剣聖を切り捨てることにした。


「た、助けて……」剣聖は涙を流しながら勇者に言った。


「悪い」


「……え?」


「おまえの犠牲は忘れない」


 聖剣を脇に構え走り出した勇者を見て、魔王は剣聖を盾にした。


「え……? 嘘……。嘘でしょ……?」剣聖は信じられない、と言った表情を浮かべた。


「世界の平和のためだ!」


「やめ――」


 勇者は低く構えた聖剣を突き出した。


 聖剣は剣聖の体ごと魔王を貫く。


「が……はっ……」剣聖は愛した者に裏切られて死んだ。その瞳は絶望に満ちていた。


「勝った……」勇者はにやりと笑って呟いた。自らの勝利を確信していた。



「――と思ったじゃろ?」



 背後から聞こえた魔王の言葉に、勇者は慌てて振り返った。その瞬間、漆黒の鎌が勇者の体を袈裟懸けに切り裂いた。


 がはっ、と血を吐きながら勇者は倒れた。


「そ、そんな……確かに貫いたはずなのに……」


 勇者の前方には、剣聖と魔王が重なり合うように倒れていた。その体には聖剣が深く突き刺さっている。


 勇者は力を振り絞り、何とか上体を起こした。


「魔王が二人……だと!? くそっ! 双子なんて聞いてないぞ! ミステリーじゃ禁じ手だっていうのに!」


「妾は二人もいないし、双子でもないぞ」


「なん……だと!?」


「ほれ、あそこに倒れている偽者をよく見てみろ」そう言って魔王は指を指した。


 そこに倒れていたのは――。


「なっ!?」



 聖女だった。



「幻惑魔法じゃ」魔王はつまらそうに言った。「それにしても、仲間が一人減っていることくらい気づけ」


「ぐっ……」


「仲間を平然と犠牲にする男が勇者とはな。まあ、そのくらいの姿勢でないと、妾に傷をつけるのは無理か……。いや、おぬしのような外道でも、妾に傷一つつけることはできなかったな」


「た、助けてください……」勇者は声を震わせて言った。「何でもします、何でもしますから、どうか命だけは……」


「助ける? 妾がおぬしを助ける? そんなわけなかろう。妾の同胞が一体どれだけおぬしに殺されたことか。殺された者には妾の友達もいたんじゃぞ!」魔王は勇者の顎を蹴り上げた。


 勇者はごろごろと地面を転がる。


「殺してやる。それも、できるだけ無残に残酷に殺してやる」


「ひ、ひいぃ……」


 魔王は指をパチン、と鳴らした。すると、どこからともなく、大量の魔物が現れた。そのうちの四人(彼らは人型だ)が、それぞれ勇者の四肢をがっちりと掴み、身動きを取れないようにした。


「そう簡単に死ねると思うなよ」


 勇者は拷問部屋へと連行された。


 その部屋で拷問は行われた。死ぬ寸前までの拷問が行われた後、回復魔法がかけられる。それが延々とループする。


 果てしない拷問の中で、勇者は過去に自らのパーティーを追放した賢者と、その賢者を追ってパーティーを出て行ったもう一人の賢者のことを思い出した。


 もし、あいつらがいたら、こんな結末には至らなかったかもしれない。あいつらさえいたら、魔王を倒すことができたかもしれない。


 実際はどうかはわからない。しかし、そう思った。


 剣と魔法の異世界に転生することができて。


 しかも、自分には才能があって。


 それで、驕ってしまったのかもしれない。


 勇者は二度目の人生を後悔しながら、意識を手放した。



      ◇



「畜生……」


 どうしてこんなことになってしまった……。


 あの女と婚約を破棄したところまではよかった。問題はそれからだ。まるで、あの女の呪いがかかったかのように、俺は不幸に見舞われた。


 兄が死んだので、俺が家を継ぐことになっていた。しかし、その死んだはずの兄は生きていて、ある日、ひょっこり家に戻ってきた。兄が死んだ、という知らせは誤報だったらしい。なので、当然、俺が家を継ぐ、という話はなくなってしまった。


 俺は怒り狂い父に直談判した。しかし、まともに取り合ってもらえなかった。俺は納得しなかったが、これ以上父に強く言う事はできない。父を怒らせてしまったら、勘当される恐れがあるからだ。


 俺はこの鬱憤を晴らすために飲みに出かけた。


 酒場でたらふく酒を飲み、酔っ払って、気分がよくなったところで隣の席にいた男に絡まれた。売り言葉に買い言葉で、どんどんと状況が悪化していき、やがて殴り合いの喧嘩になった。

 

 幸い相手は俺よりも弱かったのでぼこぼこにしていると、酒場に男の仲間たちが現れた。そして、今度は俺が囲まれて一方的に殴られた。


 所持金をすべて奪われ、糞溜めに投げ込まれた俺は、鬱憤を晴らすどころか、ますます鬱憤が溜まった。


 この鬱憤を晴らすには新たなる婚約者に会いに行くしかない、と思った俺は婚約者の家へと赴いた。しかし、彼女からは別れを告げられた。


 どうやら、俺が家を継げなくなったから別れてほしい、とのことだ。


 俺は別れたくなかった。どうすれば、彼女と別れずに済むか、を考えた。その結果、ある答えに行き着いた。


 兄さえいなくなれば、俺は家を継ぐことができるし、彼女と別れずに済む。


 というわけで、俺は兄を殺すことにした。


 兄が遠出する際に、雇った殺し屋に殺させる。きっと、兄は盗賊に襲われて死んだ、と思われるに違いない。


 しかし、現実は甘くなかった。


 兄は死ななかったし、俺が殺し屋を雇ったことがばれてしまった。その結果、俺は勘当され、すべてを失った。かつての婚約者と同じように。


 そして、今に至る。


 生きていくためには金が必要なので、俺は冒険者になることにした。


 冒険者登録を終えた俺は、さっそくクエストを受けることにした。新米冒険者が受けられるクエストは多くない。その中で、最も報酬が高いクエストを受注する。


 ゴブリン退治。


 装備を整えた俺は平原へと赴いた。しかし、ゴブリンの姿はない。なので、捜索範囲を広げて、森の中へと入った。そこで、ようやくゴブリンを発見した。


 ゴブリンなんて雑魚だろう。そう高を括っていた。しかし、奴らは強かった。そして、数も多かった。最初はゴブリン一体と戦っていたが、やがて仲間が現れて、五体になった。


 逃げるのは俺のプライドが許さなかったので、必死に戦った。また、心のどこかでは、ゴブリンになど負けるはずがない、という気持ちをまだ持っていたのだろう。


 その結果、俺はゴブリンに滅多打ちにされて、身ぐるみを剥がされ、そして――。


 死んだ。


 身の丈に合った人生を送るべきだった、と後悔しながら。



      ◇



 お姉さんの知り合いが大地主だったらしく、街から遠く離れた人気のない土地を譲って貰った。そこで、僕たちは少しずつ土地を開拓していった。


 基本的には僕たちは二人で生活した。しかし、生活をするうえで足りないものがどうしても出てくる。そういったものは、近くの村に行って買ったりした。といった感じで、多少の交流が生まれる。


 今日も、村の女の子(といっても、僕とそう変わらない年齢だが)が僕たちの家にやってきた。女の子の住む村はどちらかというと田舎だが、彼女はなぜか情報通である。なので、もちろん僕が賢者であることを知っていたし、驚くことにお姉さんのことも知っていた。


 そんな女の子は今日、重大なニュースを持ってきた。それは、勇者パーティーが壊滅した、というものである。


 もちろん、僕はとても驚いたし、同時に魔王が帝国に攻めてくるのではないか、と危惧した。しかし、そうはならないようだ。


 勇者パーティーが壊滅してから少しして、皇帝の元に手紙が届いた。その内容は和睦を結ばないか、というものだった。そして、皇帝はその提案にのることにした。


 手紙は他の国にも届いたらしく、その国々の王たちはどのような選択を取るべきか悩んだが、帝国が和睦を結ぶという情報が入ると、いずれの国もすぐに和睦を結ぶことに決定した。


 というわけで、世界は平和になった。もちろん、これですべての争いがなくなったわけではないが、以前よりは平和になったのは間違いないだろう。


 なぜ、魔王が人間と和睦を結ぼうと思ったのかはわからない。しかし、平和になったのはいいことなので、特に誰も気にしなかった。もしかしたら、死んだ勇者が関係しているのかもしれない。あるいは勇者の存在など何の関係もないのかもしれない。


 世界が平和になろうとも、僕たちの日常は変わらない。今日も今日とて、畑を耕す日々だ。畑ではいろんな作物を作り、自給自足に近い生活をしている。


 僕たちの日常は変わらないが、変わったものが一つある。それは、僕とお姉さんの関係性だ。僕とお姉さんは同居人から恋人になって、やがて夫婦となった。


 そして、増えたものも一つある。


 それは――。


「お父さん」


「なに?」


「お母さんがお昼ごはんできたから来てって言ってる」


「うん、わかった」


 僕が娘と手を繋いで家に戻ると、妻はこちらを見て微笑んだ。


「おかえりなさい」


「ただいま」


 変わらない日常。もしかしたら、こんな日常を退屈だ、と思う人もいるかもしれない。しかし、僕にとってそれはとても大切なものだ。


 よくよく考えてみると、僕が妻に出会うことができたのは、勇者によってパーティーを追放されたからだ。当時はとても不満に思ったが、今となっては勇者にとても感謝している。


 僕が勇者パーティーを追放されなかったら、僕の人生はまったく違ったものになっていただろう。しかし、きっと僕が勇者パーティーを追放されたのは、そういう運命だったからだと思っている。

 

 そんなことを思いながら、僕は今日もスローライフを送る――。



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