4話 本音。

 ――俺は姉さんを捜すため、見学を理由にして姉さんが通う学園に潜入する。


「――ここが、姉さんの通っている学園か……。よし!」


 俺は窓口にて受付を済まし、学園内を見て回る。


「な、なんだよ、忙しいからって案内放棄するなよな……」


 しかし、案内を放棄してくれたおかげで、姉さんを捜しやすくなったので許すことにした。


 ――――そして、学園内の見学を始めて約20分ほど経ったが、俺はまだ姉さんを見つけられていなかった。


「姉さん、一体どこにいるんだよ……」


 俺はそう呟きつつ男子トイレに入っていく。その時女子トイレから出てきた人が、俺が捜していた人だなんて気がつくはずもなく……。


「え、瑞人?って、そんなわけないよね。ここに瑞人がいるなんてこと、あるはず、ないよ……」


        ◆


 ――――更に20分後、俺は学園の先生に見つかり、案内放棄されたことを伝えるとその先生は驚いた様で、見た目からは想像できない慌てっぷりだった。


「はあ!?なんだよ、忙しいから勝手に見学していいって。それで、瑞人君だっけ?」


「あ、はい、橘瑞人です。よろしくお願いします」


「そうかそうか、私の名前は水越和也。今日は私が君の案内をするから、よろしくお願いしますね」


 それから俺と水越先生は、一緒に学園内を見て回る。そしてその途中、俺は思った。


 最初に先生を見た時の印象は、スーツをきっちりと着た真面目な先生だったのだが、案内をしてもらう内に印象が変わり、冷静に物事を判断し、明るく面白い先生になった。それに加えて何もないところでよく転ぶ。


「あの、先生ってよく見た目と中身が違うって言われませんか?」


「え、やっぱり違うかな?私はよくわからないんだけどね『真面目な人だと思ったら全然違った』とか言われるんだよ」


「やっぱり言われるんですね……」


「そうなんだよ、あはははは!――ところで瑞人君、君ってお姉さんいる?」


「あ、はい、います!今日は姉さんに会うために……。あっ」


「あはは。そうかそうか、やっぱり君は彼女の弟君だったんだね」


「もしかして先生って、姉さんのことを知っているんですか!?」


「そうだね、知っているよ。楓さんのことでしょう?」


「はい、そうです!一体どこにいるのでしょうか?」


 俺がそう聞くと先生は、少し悩んでから姉さんの部屋まで案内してくれた。


「普段、男性が入るのは禁止なのですが、楓さんの弟君なら問題はないです。しかし、他の人の部屋に入るのはダメですよ?」


「はい、わかりました。水越先生、ありがとうございました」


「いえいえ、では私はこれで……」


 先生はそう言ってその場を去った。その後、俺はインターホンを鳴らす。


 やっと姉さんに会える、俺の頭はそれだけでいっぱいだった。姉さんからの手紙のことなんてすっかり忘れている程……。


「はい、どなたですか?」


「姉さん!俺だよ、瑞人だよ!」


「えっ、瑞人……?どうしてここに」


「それは、姉さんが心配で……。そうだ姉さん、今年の夏休みは――」


「――帰らないから。だから、もう来ないで」


「え、姉さん、どうして――」


「私はあんたを弟として認めない、だから帰って。そしてもう来ないで」


「そんな。どうしてだよ、姉さん!!」



「――――あんたなんか、認めない!早く私の前から消えて。――お願い、瑞人」



 俺は何も出来なかった。姉さんが困っているはずなのに、俺は姉さんを助けることが出来なかった。


     ――――そして俺は、その場から逃げ出した。


「ごめんね瑞人、こうするしかないの。瑞人を守るために私が……」


 俺は走る。姉さんの想いなど、気がつくはずもなく……。

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