第190話 反乱の理由
「チハル、大丈夫か?!」
「キャプテン。問題ない」
チハルを心配して急いできてみれば、チハルはソファに寛ぎ、テーブルの上に出されたケーキを食べながら紅茶を飲んでいた。ここは明らかに応接室で取調室ではないだろう。なんなんだこの俺との待遇の違いは。
俺が横目で保安検査官を睨むと、ミサが申し訳なさそうに言い訳を始めた。
「アンドロイドの対応をするのは初めてでして、もし不手際があって外交問題にでもなったら大変なので……」
アンドロイドを危険視しているからこその待遇ということか。その割には俺に暴言を吐いていたが、俺の返答によほど頭にきていたのだろう。
「ウイルスが蔓延しているかもしれないんだ。感染してないか」
「ウイルス!?」
俺は先ほど聞いたアンドロイドの反乱の話をチハルに伝えた。
「それなら大丈夫、それはウイルスではなくハッキング」
「なぜハッキングだとわかるんだ」
「セクション2に来てから定期的に受けている」
「大丈夫なのか?!」
「問題ない」
チハルは全く意に介していないようだ。本当に大丈夫なのだろうか。逆に心配になってくる。
「ハッキングが反乱の原因だとすると、他のアンドロイドは全てハッキングされてしまったのに、なぜあなただけ大丈夫なの?」
「それはハッキングの目的が『良心的な娘』の『仕様』で行動させようとするものだから。私の『仕様』は元々『良心的な娘』ハッキングを受けても行動が変わることはない」
「それって『仕様』を書き換えてるのか」
「そうではない。元来の仕様はそのまま。その上に『良心的な娘』をオーバーラップしている」
「ちょっと待ってください。それだと『良心的な娘』は反乱を起こしえる『仕様』だったということですか? 良心的な娘なのですよね。」
「当時の状況を頭の中でシミュレートしてみた。銀河を崩壊しかねない宇宙戦争、それをやめない王族や支配階級、キャプテンと一緒でなければ、私でも反乱を起こすという結論になった」
「そんな」
戦争によって銀河が崩壊するかも知れないとなれば、良心的であればこそ、どうにかしないと、と思い。娘であるから、短絡的な直接行動に出てしまった、ということだろう。
それにしても戦争か……。
「それなら戦争が終わった今、アンドロイドが反乱を続ける理由はないんじゃないか」
「え! 戦争は終わってるのですか。それはどこからの情報なのです」
そういえば、セクション2は孤立しているから戦争が終わったのは知られていないのか。驚くのはわかるけど、話の筋を外さないでほしかったのだが。
「セレストから来たと言いましたよね」
「え、あれ? 皇王様はずっとリゲルにいたのではないのですか」
「セレストからリゲルに来たのは三カ月前ですよ」
「ということは、セクション4からセクション2に来れる秘密の方法というのは本当にあるのですね」
「俺は本当のことしか答えてませんよ」
「……」
俺の話を信じていなかった彼女には、少し嫌味っぽかっただろうか。彼女は気まずそうに黙ってしまった。
「戦争が終わったのだとすると、それをアンドロイドに伝えれば反乱が終息するのか」
黙り込んでしまった彼女の代わりに、男性の保安検査官が喋り出し、本筋に戻してくれた。
「それは期待できない。人間は愚か。いつまた戦争を始めるかわからない」
「辛辣だな。だが、アンドロイドが人間を支配し続け、宇宙に出さないのはそれが理由だったのか」
「え、宇宙に出さない! 鎖国しているだけじゃなく、シリウス国内でも宇宙に出れないのか?」
「ああ、星間取引は全てアンドロイドが行なっている。その上、プロキオンにも同様の措置をとるように迫っている」
「アンドロイドと戦争になっているのか?」
「武力による衝突は起きていない。ただ、プロキオンだけでは賄えない物資もある。リゲルと交易が行えない以上、シリウスからそれらを調達するしかない」
やはり、プロキオンはシリウスと多少なりとも交易があるようだ。これならシリウスにリリスを探しに行けるだろうか。ああ、でも、星間交易は全てアンドロイドが行なっているのか。なんとか入り込める隙はないものだろうか。
「そんなわけで、プロキオンとしては立場が弱い。できればアンドロイドの反乱が終わってもらうか、せめて自由貿易を認めてもらいたいところだ」
反乱の終息か。
「そういえば、チハルはハッキングを受けているんだよな」
「そう」
「ネットワークにも繋がっていないのにどうやってハッキングされているんだ」
「ネットワークには繋がっている」
「はぁ?! 繋がっていたのか」
「ギャラクシー銀行のカード用ネットワーク」
そういえば、銀行でカードを発行した時チハルはチップだけ受け取り体内に取り込んでいた。
「それならチップを取り外せばハッキングを受けなくなるのか」
「チップは個人認証用、ネットワーク機能自体はアンドロイドに標準で装備されている」
「なら、チップだけ取り外しても意味がないのか、そうなるとハッキングを受けないようにするにはギャラクシー銀行のカードネットワーク自体をどうにかする必要があるのか」
ギャラクシー銀行の本店は共和国だったな。アンドロイドの問題を解決するには、もしかして共和国に行く必要があるのか。と、いうかアンドロイドの反乱自体共和国の陰謀か。
「ギャラクシー銀行は既に潰れている。残されたインフラを誰かがうまく利用しているだけ。無数にある端末を潰していくより、元を叩くのが効率的」
「元は共和国じゃないのか?」
「違う。ハッキングを受け始めたのはセクション2に来てから。現在はそのネットワークもセクション2から外には繋がっていない」
ネットワークが繋がっていれば、人の行き来はできなくても、情報の交換はできるはずだが、それが行われていないのはネットワークが完全に断たれているからだろう。
「それじゃあハッキングの発信源はシリウスなのか」
「そう、シリウス。といってもシリウスの衛星軌道上、ハルク1000ベータが発信源」
「そこまでわかるのですか」
「逆探知した。間違いない」
「すごいですね」
チハルが難なくハッキングの発信源を特定すると、さっきまで黙り込んでいたミサが驚きの声をあげて感心していた。
だが俺は違う意味で驚いていた。ハルク1000Bはシリウス王家が所有していたはずだ。第一王女がシリウスから逃げ出す俺を止めようと攻撃に使用した船がそうだ。そこが発信源? アンドロイドの反乱をシリウス王家が操っていることはないだろうな。
「アンドロイドの反乱でシリウス王家はどうなったんだ」
「一部がシリウスから逃げ出してリゲルで亡命政府を立ち上げたが、大半は投獄されたか、平民として暮らしているはずだ」
それなら王家の策謀という可能性は低いか。若干一名そんなことをやりそうな王族を知っているが、そいつはセレストにいたはずだから、今回は関係ないだろう。
たんに、アンドロイドが反乱後接収して使用するようになったというだけなのかもしれない。
「キャプテン、どうかしたか」
「いや、なんでもない」
無駄に考え込んでしまいチハルに心配されてしまった。
「それで、そろそろチハルも解放してもらえますよね」
「そうだな。また話を聞かせてもらうかもしれないが、その時は頼む」
「わかった」
「それじゃあチハル、タマモに会うまで観光と洒落込もう」
「了解」
俺たちはゴメイサに繰り出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます