第180話 ロボ
ハルクをドックにつけ、桟橋に降り立つと先についてヤットが待っていた。
「よう。改めて、ヤットだ。辺境のドックにようこそ」
「セイヤです。よろしくお願いします」
俺たちは手を出し合って握手をした。ちょっと前までカードをかざしあっていたのに、あっという間に元どおり。って、前世も含めて握手なんてセレストにいた時でも滅多にしたことないぞ。
「そういえば、セイヤはこっちの金を持ってないよな」
「そうでした。船に採掘していたレアメタルがあるんで換金したいんですが」
ヒアデスではハルクの部品を売って現金を得たが、こちらはハルクを生産したシリウスのお膝元、中古の部品では売れないかもしれないので、あらかじめゲートを作る前にレアメタルを採掘しておいた。セクション2につながるゲートの入り口付近はレアメタルの宝庫なのでちょうど都合がいい。
なので、最初にヤットに説明したことは、全くの嘘ではない。
「そうだと思って高値で買い取ってくれる奴を呼んで置いた。おい、こっちだダフネ」
「見慣れない船だけど、もしかしてシリウスからの脱走者かい」
ダフネと呼ばれた恰幅のいいおばさんは、ハルクを見て訝しんでいた。
「まあ、そんなところだ」
「ふん、こっちは現物さえしっかりしてれば出どころはどこでも構わないがね」
「それじゃあ、見てもらえますかね」
俺はダフネをハルクの九層にある倉庫に案内した。当然のようにヤットもついてきていた。
「これなんですが」
「これは、なかなか。かなり純度も高くていい品だね。これなら高く買い取れるよ」
「それじゃあお願いします」
「ダフネ、色つけてやってくれよ」
「わかってるよ。その分はお前さんの燃料代に上乗せしとくから大丈夫さ」
「そりゃないぜ」
「ガハハハハ。時間を見てお代は取りに来なさいよ」
なんとも豪快な。胆っ玉母さんといった女性である。
「それじゃあ俺たちはその間、食事をしながら情報交換といこうぜ」
「そうですね」
「セイヤは何か食べたいもんがあるか」
「んー。ここの名物ってなんですかね」
「トラペジウム焼きだな」
カイト焼きは今川焼きだったが、トラペジウム焼きとはどんなものだろう。
「どんなものです」
「四種類の肉を使った焼き肉丼だな」
「トラペジウム焼きがいい」
チハルは肉が好きだな。
「んん? ロボじゃなかったのか!」
ロボ? ロボットのことだろうか。
「ああ、紹介してませんでしたね。アシスタントのチハルです」
「ハルク専用アシスタントのチハル」
「ああ、ヤットだ。チハルちゃんも一緒に食べに行くのか?」
「行く」
「あ、もしかしてご迷惑でしたか」
「いや、そんなことはないさ。ちょっとビックリしただけだ、アンドロイドかと思って」
「チハルはアンドロイド」
「なにー! アンドロイド。本物なのか」
「こちらではアンドロイドは珍しんですか?」
以前は珍しくなかったし、ヒアデスでも珍しがられなかった。セクション2が孤立してからアンドロイドが供給されなくなったのだろうか。
「まあ、珍しいといえば珍しいんだが、問題はそこじゃない」
何か問題があるのか。
「シリウスが鎖国している話はしたよな」
「はい」
「シリウスでアンドロイドの反乱が起きて、今はアンドロイドに支配されているという噂だ」
「本当ですか?!」
「反乱が起こったことは間違いない。1648年のことだ。その後鎖国してしまったから今の状態は時々現れる脱走者の話に頼るしかないが、それによると今もシリウスはアンドロイドの支配下にあるようだ」
脱走者、ダフネも言っていた。その人に話を聞ければシリウスに入る方法もわかるかもしれない。
「脱走者に話を聞けないですかね」
「それは難しいだろうな。数年に一度現れるかどうかだし。それに気にしなくてもチハルちゃんをアンドロイドと気づく奴はいないと思うぜ」
俺が聞きたいのはチハルのことを心配してというわけではないのだが。
「ロボもアンドロイドも人間も見た目じゃわからないからな。実は最初喋らないからロボかと思ったぜ」
「ロボは喋らないのですか」
「自分からはな。話しかければ返事はするぞ。って、ロボ、知らないのか?」
「ええ、多分。ヤットが言っているロボは向こうにはないと思います。こちらではアンドロイドの反乱があったからロボができたんじゃないのですかね」
「ああ、そうなのか。ロボはロボット三原則に縛られていて人間に逆らえないから、反乱を起こさないしな」
チハルのようなアンドロイドは仕様次第で自由に行動できる。例えば昔のティアのように人を襲うことも。ロボはそれができないようになっているということだ。
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