第171話 王宮
俺たちはリリスの情報を求めてシャトルポッドでステーションから地上に降り王宮まできたものの、王宮の門には警備をしている衛兵がいて気軽に中に入ることはできなかった。俺が住んでいたセレストの王宮にだって衛兵くらいいたが、醸し出している威圧感が違いすぎて声をかけるのに怖気付いてしまう。
だいたいなんと言って説明したらいいものか、まさか「俺はカイトの友達なんだけど通してくれない」とは言えないだろう。
「キャプテンどうした? 受付はあっち」
「いやあ。なんて説明したらいいか考えあぐねていて」
「それなら私に任せる」
チハルは自信満々に警備室の受付に向かって歩いていく。俺はチハルに遅れないように後につづいた。
いつもぶっきらぼうに喋るチハルだから少し不安ではあるが、事務的な話なら問題ないだろう。
「お嬢さん、何か御用ですか」
「私はハルク専用アシスタントのチハル。そしてこちらがキャプテンのセイヤ」
チハルが俺のことを紹介したので警備室の衛兵がこちらを見る。仕事とはいえ不審者を見るように上から下まで観察するのはやめてもらいたいものだ。
「あ、どうも。セイヤです」
衛兵の視線に耐えきれず、しどろもどろになりながらも自分の名前を告げる。怪しさ満点である。これでは不審者にしか見えない。
「キャプテンはカイトの友人、通して」
「……」
「……」
えっ。チハルさん、それだけですか? 衛兵も固まってますが。
「通して」
チハルがダメ押しをした。おかげで衛兵が正気を取り戻したようだ。
「カイトとは、カイト王のことでしょうか?」
「そう」
「カイト王は既にお亡くなりになっていますが」
「カイトの子孫なら、キャプテンが必要としている情報を知っているはず」
「それは、王族に謁見したいということですか?」
「そうなる」
「王族への謁見は許可がないことにはできませんが」
「それじゃあ許可を取って」
「今ですか?」
「そう、今すぐ」
「仕方ないですね。許可が出なかったら諦めてください」
衛兵は無線を使ってどこかと連絡をとった。
チハルの対応に有無を言わさず追い返すのではなく、ちゃんと確認を取ってくれるなんて親切な衛兵さんだ。
「すみません、セイヤ様、フルネームを教えていただいてよろしいでしょうか」
「セイヤ S シリウスです」
「そうですか。もうしばらくお待ちください」
何か衛兵の対応が丁寧になってないか? これなら俺もしどろもどろにならなくてすむ。少し不審者感も減っただろう。もっとも、チハルは最初から踏ん反り返ったような態度だったが。
「セイヤ様、許可がおりましたのでご案内いたします」
おお、許可が出たのか。なんだかんだでチハルに任せて正解だった。
「もうすぐ案内の者が来ると思います。ああ、彼女がそうですね」
そう言われて衛兵の視線の先を追って見ると、宮殿からこちらに向かって早足でやってくるスーツ姿の女性が確認できた。
「セイヤ様ですか」
やってきた彼女は二言三言衛兵と言葉を交わすと警備員を下がらせて俺に聞いてきた。
「はいそうです。こっちはアシスタントのチハルです」
「ハルク専用アシスタントチハル」
「あ、これはご丁寧にどうも。ライト王第一秘書のカグラと申します。お二人にはこれからご案内する貴賓室で国王陛下とお会いいただくことになります。それでは参りましょう」
俺たちはカグラさんに案内されて貴賓室に向かう。
わざわざ国王の第一秘書が迎えに来て貴賓室に通されるとは、なかなかのVIP待遇である。
忘れがちであるが、これでも俺はセレスト皇国の王子、それを思えば当然の対応か。そういえばシリウス皇国の皇王の肩書きも持っているのだったか。どちらも300年以上も前のことだから今はどうなっているのやら。
「セイヤ様は300年以上前の方なのですよね。今までどのようにして過ごされていたのですか?」
「こっちでは300年も立ってしまったけど、体感的には数時間といった感じだったからな。戻ってみたら300年も過ぎていてびっくりだよ」
「ああ、暗黒魔星の近くでは時間の流れが遅くなるって話でしたが、近くにいる人には自覚できないのですね」
「そうだね。特に暗黒魔星の本体は異次元にあったからなおさらだ」
「それにしても時間の牢獄のような暗黒魔星からよく離脱できましたね」
「なんとか無力化できたからな」
「え! それじゃあ暗黒魔星から脱出してきたのではなく、破壊してきたのですか?」
「まあ、破壊はしていないのだけど、無力化したから、暗黒魔星の脅威は無くなったという点においては破壊したのと同じだろう」
「すごいです。これからはもう暗黒魔星に怯えなくてもいいのですね」
「そうだな」
カグラさんは目を輝かせて感動している様子だ。美人に尊敬されるのは悪い気はしない。
「キャプテン、鼻の下が長い」
「そんなことないぞ」
俺はリリス一筋だからな。下心など全くない。
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