第170話 カイトの銅像
俺たちは工作室で作った部品をシャトルポッドに乗せ、ステーションの中に移動。買取窓口で部品を買い取ってもらった。データ更新手数料を払った残りをカイトで受け取った。
「これがカイト硬貨か」
ギャラクティ貨はクレジットカードのような電子決済であったが、カイトは硬貨だった。紙幣でもなく硬貨だ。金ではないようだが、なにでできているのだろう。TrXのような希少金属だろうか?
ところで、この通貨単位、カイトというのが気になる。貨幣に彫られた肖像は男性のものだ。まさかと思うが、通貨単位のカイトとはこの男性の名前からきていて、この男性は俺が知っているカイトだったりするだろうか。
「にいちゃん、名物カイト焼きはどうだい。甘くて美味しいぜ」
硬貨を見ながらチハルと歩いていたら屋台の大将から声をかけられた。俺たちは何か美味しそうな匂いに誘われて、屋台が出ているステーションの広場に来ていたのだ。
名物カイト焼き、ここでもカイトか。商品を見てみると大判焼きのようなお菓子に硬貨と同じ男性の肖像が焼き付けられていた。
「大将、このカイトって」
「おう。中にクリームが入ってるんだ。どうだい一つ」
俺が聞きたかったのはそういうことじゃないんだが。
「ああ、じゃあ二つもらおうか」
俺はチハルの分も合わせて二つ注文する。
「二つだな。毎度あり」
カイト硬貨を渡してカイト銘菓を受け取る。
「チハル、あの銅像の所に座って食べよう」
俺は広場の中央に立っている銅像を指差す。その台座の部分が座るのにちょうど良い感じだ。実際に何人かが座っている。
「ん。あの銅像硬貨と同じ男性」
チハルに指摘されてよくみると確かに同じ顔だ。
俺は銅像に近づき、そこにあった説明書きを読み上げた。
アデス王国建国の父 賢王カイト(1600-1765)
アデス王カイトの名が最初に知れ渡ったのは1620年暗黒魔星への対処の時であった。その頃カイトはまだヒアデスの姫の婚約者に過ぎず、今まで知られていない青年が陣頭指揮をとることに不安の声もあったが、その声を跳ね除け、魔力の使用を一切禁止するという思い切った処置でヒアデス分裂の危機を救ったのだ。
1625年当時ヒアデスが所属していた連邦が王国と同盟し帝国との戦争に参戦、この戦争に反対したカイトは、1640年王位を継承するのに合わせ連邦を離脱、ヒアデス王国として独立した。
その後、1654年プレアデスを併合、国名をアデス王国と改めた。
1667年、ゲート2とアンタレスの消失により連邦と帝国が崩壊へ向かっていく、受け皿となったのがアデス王国であった。カイトはその外交手腕により銀河東半分を勢力下に置き、1759年長きに渡った戦争に終止符を打ったのだった。
あれ? これは俺の知っているカイトで間違いないのか。
結構しっかりした王様になったようで、ちょっと信じられないところもあるが、賢王なんて呼ばれるタイプではなかったはずだが。後世に伝わった歴史なんて、人の手が加わっているだろうから、話半分で見ておいたほうがいいだろう。
でも、そうか。カイトは王様になったんだ。
それに、暗黒魔星の対処もカイトがしたのか。
俺のやったことって、ただ無駄にタイムスリップしただけだったわけか……。
タイムスリップした原因がわかっていないから推測に過ぎないが、ガンマに近づくほど時間の流れが遅かったのだろう。ブラックホールみたいな感じに。
「キャプテン、これからどうする」
俺が説明を読んでいる間にチハルはカイト焼きをペロリと平らげていたようだ。俺は手に持ったままになってカイト焼きをチハルに差し出した。
「これも食べるか?」
「もらう」
チハルはそれを受け取ると一口でそれをほうばり頬を膨らませて咀嚼を始めた。なんとなくリスっぽくて可愛いな。
俺はそんな微笑ましいチハルを眺めながら次の行動について考えていた。
カイトがここの王様になっていたなら、王宮に行けばリリスの情報があるかも知れない。いや、王様になったくらいだから、リリスをここで保護してくれているかもしれない。
それは都合よく考え過ぎかもしれないが、そうでも考えないと落ち込んでしまう。
よし、まずは王宮に行ってみよう。
「チハル、それを食べ終えたら王宮に行くぞ」
カイト焼きで口の中がいっぱいのため喋れないチハルは、右手でサムアップをして了解の意志を伝えてきた。
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